2022年09月15日 13:31 弁護士ドットコム
個人やグループが性的動画をネット配信して稼ぐ「個人撮影AV」(個撮)。コロナ禍でブームに拍車がかかる一方で、「モデル」と呼ばれる撮影対象の女性の中には、NG行為をやぶられるなどのトラブル・被害に巻き込まれる人も少なくない。
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そのような中、今年6月に施行された「AV新法」の影響と見られる動きが出ている。ある古参制作者は「(違法あつかいされる)『野良AV』とみられないよう、自主規制が必要だ」と話す。
性的動画を撮る行為そのものに人権団体から厳しい目が注がれているが、そもそも、どのような実態があるのだろうか。(ジャーナリスト・富岡悠希)
「コロナ禍では、仕事を失った飲食業の女性などが新しくモデルとなりました。また、AV新法で法人組織の撮影がストップとなり、『プロダクション落ち』の女優も流れて来ました。肌感覚ですが、コロナ前の2倍以上の個人が活動している印象です」
こう語るのは、古参制作者のアツシさん。10年ほど前から活動して、個撮仲間と横のネットワークを持つ。
アツシさんの撮影スタイルは、一人完結型。モデルを探し、撮影内容を交渉し、男優兼カメラマンとして現場に臨む。その後のモザイク処理、配信サイトへのアップまでをすべてこなす。
手間がかかることから、流通までもっていけるのは月1本程度だ。それでも、これまでのストック分もあり、月十数万円の「副業」になってきた。
以前は、モデル募集にツイッターを使っていたが、現在は変えているという。「当日にやって来ない女性が多いから」。今は、撮影に応じた女性から、別の女性を紹介してもらう「入れ込みパターン」。このほうが確実だという。
過去の出演女性は20~60代と幅広いが、中心層は40~50代だ。女性からは5、6万円を請求されることが多いが、実際のギャラは、顔出しの有無や撮影内容に応じて決まる。
これまで数十人の女性を撮影してきたが、「生活保護の受給者も、かなりの数がいました」。自由になるお金がほしいとき、即金でもらえるギャラが魅力的なのだという。
鶯谷、新宿、池袋など、都心部のラブホテルが撮影現場となるが、時には郊外まで遠征する。女性の拘束時間は3、4時間程度。
「気持ちよく撮影したいから、女性とは積極的に会話をします。トラブル防止と再度の撮影も期待し、お昼代や交通費をお包みしてもいます」
こうして撮影が終わると、編集作業に移り、モザイクをかける作業を進める。個撮の中には、違法な無修正も目立つが、「逮捕のリスクもあるから、私はやりません」。
配信サイトによっては、モザイクがかかっていない箇所があったら、指摘してくるところもあるという。
制作者とモデルが共に増えて隆盛となっている個撮だが、現場では、AV新法絡みと見られる動きも起きている。
米国の動画販売サイト「FC2」は、AV新法施行以降、FC2が作成したモデルの年齢確認書類や、制作者が自ら作成した契約書の提示を求めるようになった。
新規配信分だけでなく、過去作品にもこのルールを適用。アツシさんも、あわてて過去分の書類を提出したが、いまだ「審査待ち」だ。一番稼いでいたサイトだけに「撮影が軒並み止まった女優に比べればマシでしょうが、かなり痛いです」。
こうした動き以上に気になるのが、制作者の「分断」が深まっていることだ。正規の審査団体の審査を経ている法人(メーカー)は、自分たちの作品を「適正AV」と呼んでいる。
「適正AVはAV新法を守っているからクリーン。それ以外の個撮AVや同人AVは、AV新法を守っているかわからないのでアウト。こう位置づけようとしている人たちが見受けられます」
8月下旬、ある国会議員がSNSにアップした画像に「野良AV」との記載があった。事務所内のホワイトボードと見られる場所に書かれていた。そのつぶやきでは、AV新法について、「当事者との意見交換と衆院法制局から立法プロセスの聞き取り」をしたと説明があった。
この議員は後日、「以前に法の範囲で活動をしている同人AVと違法AVを一緒くたにして表現したことについてはお詫びし、当該の画像は削除・ブログは修正いたします」と謝罪している。
アツシさんは「私たちは野良AVじゃないから、議員が認識を改めてくれたのは良かった」と話しつつ、「適正AVとの対立構造にならないことを願っています」と続けた。
こうした状況下、アツシさんは、個撮仲間に自主規制を広めたいと考えている。
自身は長らく、次の5つをルールとしてきた。
(1)モデルは成人に達している女性のみ
(2)年齢確認をする
(3)局部にモザイクをかける、希望があれば顔も
(4)モザイクを第三者がチェックする
(5)モザイクチェックにOKが出ないと公開しない
さらに、こうした自主規制を課して、撮影する個撮・同人を集めた任意団体をいつかは作りたいとしている。
かなり骨の折れる道のりに見えるが、それでも進めたい理由をアツシさんは、こう語る。
「個撮は、女性を性的に搾取している、蹂躙していると言われるかもしれません。
しかし、現場では作品を作りたい制作者と、お金がほしい、時に承認欲求を満たしたい女性は、ウィンウィンの関係です。
私たちの『表現の自由』を認めてもらうためにも、明確なルールをつくって活動していきたい」
物腰の柔らかいアツシさんは、たしかに一部のモデルとは信頼関係を築けているようだ。しかし、制作者が急増する中、その全体像はつかみにくい。
今年、SNSを通してモデル活動をしていた女性が殺害される事件も報じられている。
こうした痛ましい事件として表面化しないまでも、現場で制作者がきちんと振舞っているのかも疑問だ。筆者の取材に応じた、20代半ばのあるモデルは半分ほどが「NG項目やぶり」をしてきたと証言している。
そもそも、同意があるとはいえ、性交を撮影してネットで流すことに対して、人権団体などから厳しい目が向けられている。制作者もそれがわかっているからだろう。多くが自身の顔にモザイクをかけるか、目出し帽のようなものを被っている。
アツシさんら個撮制作者には、もう二度と警察が介入するような事件を起こしてほしくない。少なくとも、自主規制を広げて順守するほか、任意団体の結成にも動いてほしい。
こうした動きができず、トラブルが続けば、世間の風当たりはさらに強くなるだろう。最終的には、撮影している性的動画を誰も「作品」として認めてくれなくなるかもしれない。