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「漫画表現の一ジャンルを全滅させない」国会議員になった赤松健が描く「文化交流」の理想

2022年09月11日 10:11  弁護士ドットコム

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この夏の参院選の比例区で、自民党最多得票だったのは、『ラブひな』『魔法先生ネギま!』などで知られる漫画家、赤松健議員だった。特に支持母体もなく、無派閥をうたっては異例だろう。


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政治家と宗教団体との関係が問われる中、新人の赤松議員は、作品のファンや、いわゆる「オタク票」を取り込むかたちで当選して、その影響力を見せつけた。



8月3日の初登院時には「一番やりたいのは漫画外交」と話し、8月13日には世界最大の同人誌即売会「コミックマーケット100」にも参戦した。あらためて赤松議員に抱負を聞いた。(フリーライター・渋井哲也)



●コミケには大学時代から参加してきた

今年夏で100回目を迎えたコミックマーケット。赤松議員は「表現の自由を守る会」のブースで、新刊『赤松健ひとくぎり』を販売した。3年前の参院選で、同じく「表現の自由」を公約に掲げて当選した山田太郎議員(自民)と一緒に売り子をしたり、雨の中、街宣活動していた。



コミケには大学時代から参加してきたという。



「漫画家デビュー後もずっとサークル参加していましたが、『ネギま!』の連載途中で一旦引退しました。今年は17年ぶりの復活です。自分の作品を売るだけでなく、他のサークルの本も買いまくります。過去には1日で段ボール2箱分を買ったりしていましたが、今年は街宣活動があったので、ほとんど買えなかったですね(笑)」



●自民党では「独立部隊」になっている

参院選では、自民党(比例区)では、52万8053票と最も多く票を集めた。全体で2番目だった長谷川英晴議員(当選1回・全国郵便局長会相談役)が41万4371票で、11万票以上も差をつけた。



前回の参院選で、同じく「表現の自由」を訴えた山田議員も53万超えで話題になったが、このときは、元全国郵便局長会会長の柘植芳文議員(当選2回)に次ぐ票数だった。



当選後、赤松議員はツイッターの投票機能を使ってアンケートを実施した。赤松議員に投票した人で、今回が初めての投票だったのは88.2%にのぼる。投票した中で自民党支持層は31.7%。「どちらでもない」が多く41.5%となっている。



自民党支持かどうかは、大きく影響しなかったことになる。



「『オタク票が53万票あるんじゃないか』と普通は思いますよね。でも、アンケート結果では、前回、山田議員に投票した人ばかりではありませんでした。選挙の序盤で全国を回ったときも、『前回は山田さんに投票しました』という人たちがいましたが、後半はほとんど私のファン層が集まるようになっていきました。最終的には個人の魅力でアピールするしかなかったと思います」



アンケートでは、前回の参院選で『表現の自由』を訴えた山田議員に投票したのは44.8%だった。あくまで参考程度ではあるが、あらたな票の掘り起こしになっていたこともうかがえる。



「当選後、党内の派閥が、新人議員の奪い合いをしていましたが、私のところには誰も来ませんでした(笑)。『派閥には入らない』と言っていたからです。また普段から『表現の自由』を守ることばかり訴えているので、特定の支持団体や宗教団体があったりすると、非常に相性が悪い。さらに『寄付金も献金も受けない』と言っているので、いわば党内の『独立部隊』になっています」



●漫画規制の法案、党内で「死ぬ気」で止める人がいたらなかんか通らない

「表現の自由」というと、自民党は「敵」、規制側と見られがちだ。その党で、漫画家として、『表現の自由』を守ることを公約に掲げるということの利点はあるのか。



「児童ポルノ禁止法改正の議論の際は、(規制対象として漫画やアニメ、ゲームの表現も含めようとするなど)まさに自民党は『漫画の敵』でした。あのころ、私もロビー活動をしており、枝野幸男さん(当時、民主党)など野党中心にお願いしていました。



しかし、最近は、自民党も変わりました。3年前の山田議員の大量得票による当選以降、自民党が表現規制を求める声は非常に小さくなっています。もし今、漫画を規制する法案を作ったとして、50万票以上とった議員2人が猛烈に反対するのは目に見えています。



もし自民党内で漫画を規制しようという法案が出る場合、まずは党内で部会にかけます。部会は基本、全会一致が原則です。だからある議員が死ぬ気で止めようとしたら、なかなか通らないんです。それが重要です。逆に、誰も反対せず、部会も総務会もすんなり通ってしまうと、党議拘束がかかり、もう自民党内でも野党でも止めるのは難しくなってしまいます」



●日本の漫画表現の一ジャンルが全滅しないように

表現規制に関しては、最近の動きはどんなものがあるのだろうか。都道府県レベルでは、青少年健全育成条例などの販売規制がある。国内外では、児童ポルノ禁止がルール化されてきている。



「児童に関する表現などは『こうあるべし』というのが、海外から主張されています。それを受けて、海外基準を信奉している人たちが『海外と同じようにせよ』と主張する。一方で、『日本らしさを捨てて海外の意向に合わせるのは、よくない』という意見もあります。



最も重大と思われるのは『創作物とは関係ないが、一部に創作物規制を含んだ条約』で、もし条約が締結された場合、それに合わせて国内法を整備することになる。それによって日本の漫画表現の一ジャンルが全滅してしまう可能性もあるので、そうならないように交渉しています。



ただ、最近は『少年ジャンプ』を読んでいたような世代が多く議員になっています。もはや漫画を規制しようという話は、国内からは出てきづらいのではないでしょうか」



●マクロン大統領の似顔絵を描きたい

赤松議員が優先度をあげている漫画外交。これまで日本では、政府として、漫画を活用した『文化交流』を積極的にしてこなかったという。



「『日本の漫画が世界にいくならば、グローバル化する必要がある』と言われることがあります。しかし、海外ではすでに日本の漫画の面白さを楽しんでいます。現地の漫画も日本に紹介して、お互いを高め合っていく。



また、戦争があると漫画が描けない、読めない。当たり前に漫画が読める・描ける世界は平和な世界なんです。その手段として、海外の要人に会って、似顔絵を描き、漫画の力で交流のきっかけを作りたい。フランスのマクロン大統領なんかも描いて、喜んでもらいたいですね。



こうした漫画をツールにした文化交流、『漫画外交』をしたいんです。これまでアスリートは、同じ競技を通じてそうした交流をしていたんですが、漫画でやっている議員はいなかった。これから『漫画外交』を実現するため、いろいろと準備をしています」



●若い人たち向けに政治に興味を持ってもらいたい

当選後、赤松議員は自身の活動について、漫画を交えながら、ツイッターで報告をしている。



「漫画家の参院議員らしく、『赤松家の国会にっき』を描いて、月水金の週3回、ツイッターに発表しています。若い人たちにまずは政治に興味を持ってもらいたいという考えです。(8月4日の自民党『孤独・孤立対策特命委員会』に参加するなど)この時期の新人議員としては、動いているほうだと思います。多い日には1日3件の会合に出ています。



また、『インボイス制度』や『AV出演被害防止・救済法』、レトロゲームの保存などでも官庁とやりとりしています。どれも結果が出るのに時間がかかるものばかりです。任期の6年間できることをやります」



漫画家だからこそ、今回、赤松議員には「表現の自由」や「漫画外交」の思いを中心に聞いた。



このほか、科学技術や教育問題についても公約に掲げてきた赤松議員。所属する委員会は「文教科学」を希望しているという。ぜひ「表現の自由」だけでなく、ほかの分野でも活躍を期待したい。