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BE:FIRST、1stアルバムが堂々のチャート首位 SKY-HIとメンバー7人が提示する新たなボーイズグループのあり方

2022年09月10日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

BE:FIRST『BE:1』(CD+2BD)

参照:https://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2022-09-12/


 まずは、少し長めの引用を。今年3月に出版されたジョー横溝の著書『混沌を生き抜く ミュージシャンたちのコロナ禍』のインタビュー発言より。


「整ったインフラって、逆に言うと古い高速道路でもあるので、みんながモフモフ黒い煙を出しながら、オールドクラシックな車を何の悪気もなく走らせている中で『クリーンな電気自動車を作った』っていうのが今の段階です。次はその車で、古い高速道路に乗らなきゃいけない」


「ラッパーやソロアーティストであれば『高速道路は使いません。下道で行きます』でやっていけると思うんです。けれど、ボーイズグループって、大きなメディアと相性はいい。僕は従来のインフラをバカにしているわけでもないし、それを作り上げてきたことに対するリスペクトもある」


 発言の主はSKY-HIで、彼が電気自動車になぞらえているのはBE:FIRST。整ったインフラの喩えは、音楽業界の構造やビジネスシステムを指しており、テレビ露出を増やして話題を作りチャート1位を目指す考え方も含めるなら、ここで参照にするオリコンチャートの存在も入ってくるのかもしれません。そこまで書いたうえで、今週のランキング。1位に輝いたのはBE:FIRSTの『BE:1』、セールスはなんと16.1万枚。初のアルバムにして、電気自動車、ものすごい快挙!


(関連:BE:FIRST、「Scream」ソロパフォーマンスから見えるメンバーの個性 変幻自在な表現で魅せる楽曲の世界観


 SKY-HIが設立したマネジメント/レーベル BMSGからデビューしたBE:FIRST。オーディション番組自体が話題となり、デビュー曲「Gifted.」は一瞬でストリーミング、MVともに再生回数1000万回を突破。YouTubeやTikTokでも毎回凄まじい数字を叩き出している一方で、メンバーはそれぞれワイドショーやラジオ番組、大型イベントなどに積極的に出演しています。新メディアを自覚的に使いながら、同時に従来型メディアでも活躍。ものすごく多忙だったはずですが、これは両方の可能性を知っているSKY-HIの頭脳と、彼に全幅の信頼を寄せる7人の精神力の賜物でしょう。結果的にファンを獲得し、最初のアルバムからこのセールスがついてくるのだから、大成功と言っていいと思います。


 ただ、フィジカルは16万枚ですが、この作品、世界で何千万……いや、億の単位で聴かれるものになる気がします。電気自動車の比喩は、単にプロモーションメディアの話にあらず。肝心なのはサウンドとメッセージ、そしてダンスのクオリティ。BE:FIRSTのそれは、日本初のスーパーカーと言いたくなるくらい、世界基準のポップミュージックをジャンルレスに鳴らしています。追いかけるのではなく、余裕で鳴らす。完璧に乗りこなしている感じが超クールです。


 SKY-HIを筆頭に、複数のプロデューサーに支えられ、メンバー自身もアルバムの作詞作曲に携わっていますが、そのクオリティが本当に高いこと。骨格だけで成立するような音数の少ない、それなのにエレガントなトラック。声質の違いを生かしたマイクリレー、美しく決まるフロウ、また艶っぽいソウルフルな歌唱。どれも本当に絶品。たとえばSIRUPが好きな人、SALUが好きな人、ジャスティン・ビーバーが好きな人たちが「BE:FIRST、いいねぇ」と盛り上がる光景も自然にイメージできます。もちろんK-POPが好きな人にはドンズバの音像でしょう。


 「Moment」や「Be Free」など、爽やかなポップスもありますが、大丈夫、ありのままで、といった安易な現状肯定がないのもいいですね。彼らの歌には圧倒的な不安と物足りなさに、今のままでいいわけがない、という上昇志向(もしくは変化への希求)がある。それは今の若者たちの気分であるだろうし、ボーイズグループのあり方に対する疑問のようにも聴こえてきます。


 ダークな激しさを持つ「Scream」には〈得体が知れないだろ?/飲み込んでやるよ お前のその期待も不安も〉〈待つ気はない 君もそうだろう?/誰かに Judgeさせるなよ〉との歌詞がありますが、サウンドの説得力も含めて、これは旧来の事務所/芸能界に突きつけた決別状のごとし。具体的に言えば「複数名の美少女/美青年がキラキラした笑顔で歌って踊っている」形式を、長年ビジネスにしてきたエンタメ業界への挑戦状とも考えられます。古い高速道路を颯爽と走り出したピッカピカの電気自動車。めちゃくちゃカッコいい。乗りたいわ、この波は。(石井恵梨子)