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送迎バス園児死亡、園長の法的責任は? 保育園事故、民事責任は重くなる傾向

2022年09月09日 10:31  弁護士ドットコム

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静岡県牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で、送迎バスに取り残された園児(3)が死亡した事件で、園側の確認不足やチェックミスなどが明らかになっている。


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報道によると、園児は9月5日朝、幼稚園の送迎バスに乗ったものの、到着後も降車せず、発見までの約5時間、車内に置き去りにされ亡くなったという。死因は熱射病だった。



幼稚園側は、9月7日に開いた記者会見で、事件当日は普段運転しているバス運転手が休暇で、臨時の運転手にも代行を断られたため、理事長兼園長(73)が代わりにバスを運転していたと説明。理事長は「運転の代行はこれまで数回程度で不慣れだった。確認を補助の人に任せていた」などと話したという。



同会見では、(1)バス下車時に乗車名簿と下車する園児を照合する決まりが伝えられていなかった、(2)園児がバスに取り残されていないかダブルチェックする態勢になっていなかった、(3)クラス補助が登園情報を確認できていなかった、(4)登園するはずの園児がいなかったにもかかわらず、保護者に問い合わせしなかった、というミスが重なったとも説明した。



静岡県警は幼稚園が安全管理を怠ったとみて、捜査を進めているようだが、今後誰がどのような法的責任を問われる可能性があるのか。神尾尊礼弁護士に聞いた。



●「園長や実際担当していた職員の責任が問われることが多い」

——またも園児が送迎バスでの置き去りで犠牲になってしまいました。



報道に接するにつれ、たまらなく辛い思いです。心からお悔やみ申し上げます。



私も保育施設の第三者委員を務めるなど小さいお子さんと仕事上も接する機会が多く、今回の事件も自分のことのように感じています。



さて、法的な責任を考える場合、刑事責任と民事責任に分けて考える必要があります。認定こども園は認定こども園法に基づいて設置されていますが、公立も私立もあり得ます。報道から私立だとして、以下刑事責任を中心に回答します。



——どのような刑事責任が問われることになるのでしょうか。



業務上過失致死罪が考えられます。



車内に置き去りにされる事件では、この他に保護責任者遺棄致死罪も考えられますが、今回のケースは故意によるものではないと思われますので、保護責任者遺棄致死罪ではなく業務上過失致死罪が適用されると思われます。



——複数の園関係者によるミスが重なったとのことですが、このような場合に誰が刑事責任を問われるのでしょうか。



園内で業務上過失致死が問題になる場合、園長と実際担当していた職員(保育士など)が責任を問う対象となることが多いです。たとえば、2017年に埼玉県内の保育園で起きたプールでの死亡事故でも、園長と保育士が有罪となっています。



その他、管理権限の分配のされ方によっては、管理職的地位の人も対象となる場合があります。



——今後どのような捜査がおこなわれると考えられますか。



過失犯の捜査は多岐にわたり、園日誌や事故簿といった園内部の資料、勤務割表や職務分担表といった職員関係の資料、児童名簿や連絡帳などの児童関係の資料など園備え付けの多くの書類が捜査の対象になると思われます。



一般に家宅捜索と言われているもので園を捜索し、必要な書類を押収するといった流れになると思われます。園長の逮捕など、身柄の拘束までは通常至らないことが多いです。



●同種事件が最近起きていたことは「量刑に影響する可能性ある」

——2021年7月に発生した福岡県での同様の事件については、2022年3月に元園長と降車補助を担当していた保育士が在宅起訴されています。



重大な死亡事故はおおむね起訴されるので、今回のケースについても業務上過失致死で起訴される可能性が高いと思います。



起訴もされていない段階で判決の見通しまで推測するのは難しいですが、業務上過失致死のみでの初犯というケースの場合、実刑になることは少ないと思われます。



ただ、過失の程度の判断においては、同種事件が最近起きていたこと、厚労省が事務連絡を出していることが影響すると思われます。



2021年8月25日付事務連絡「保育所、幼稚園、認定こども園及び特別支援学校幼稚部における安全管理の徹底について」では、以下(1)~(4)の内容が求められています。



(1)子どもの欠席連絡等の出欠状況に関する情報について、保護者への速やかな確認及び職員間における情報共有を徹底すること (2)登園時や散歩等の園外活動の前後等、場面の切り替わりにおける子どもの人数確認について、ダブルチェックの体制をとる等して徹底すること (3)送迎バスを運行する場合においては、事故防止に努める観点から、「運転を担当する職員の他に子どもの対応ができる職員の同乗を求めることが望ましいこと」、「子どもの乗車時及び降車時に座席や人数の確認を実施し、その内容を職員間で共有すること」等に留意いただくこと (4)各幼稚園等においては、「学校安全計画」「危機管理マニュアル」について、適宜見直し、必要に応じて改定すること



この通知が出されたからといって量刑が極端に重くなるとは考えにくいですが、同種事件が起きておらず同通知が出されていない場合よりも過失の程度が重いと判断され、量刑が若干重くなることはあり得ると思います。



●「民事責任は重くなる傾向にある」

——民事責任についてはどうでしょうか。



園長(場合によっては担当した職員など)のほか、運営主体である学校法人も損害賠償責任を負うことが考えられます。



基本的な枠組みは自動車事故を参考としますが、前述のような通知が出されているにもかかわらず体制に不備があったことは、逸脱具合に応じて増額事由に当たりそうです。



幼い命はその分将来の可能性が大きいですので、ご遺族の苦痛を慰謝するための慰謝料は高額になり、逸失利益も高額になる可能性があります。



ただ、保育施設は基本的に保険に入っているはずです。保険の内容にもよりますが、ある程度の部分は保険で対応できると思います。



保育施設の事故は、重大なものであっても刑事責任は限定的になることが多いです。他方、民事責任は重くなる傾向にあります。



もちろん、これらは法的な責任の話です。他の児童にどう説明するか、再発防止のために何をすべきかなど、園には考えるべきこと、やらなければならないことがたくさんあります。



二度とこのような事故が起きないよう、他の施設でも上記通知の周知徹底が図られ対策が取られることを願うばかりです。




【取材協力弁護士】
神尾 尊礼(かみお・たかひろ)弁護士
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。刑事事件から家事事件、一般民事事件や企業法務まで幅広く担当し、「何かあったら何でもとりあえず相談できる」弁護士を目指している。
事務所名:弁護士法人ルミナス法律事務所
事務所URL:https://www.sainomachi-lo.com