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アメリカで「TikTok削除」要請。もしアプリストアから消えたら? ショート動画アプリの未来を考える

2022年09月08日 19:00  CINRA.NET

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Text by 岩見旦
Text by 高橋暁子

6月29日、米連邦通信委員会(FCC)が、AppleとGoogleに対し、ショート動画アプリTikTokをアプリストアから削除するよう要請したことを明らかにした。TikTokは中国の法律で政府からの監視要請に従うよう義務づけられており、両アプリストアのポリシーに違反しているという理由だ。

またオーストラリアでも、TikTokのアプリがユーザーデータを収集しているとするレポートが発表され、与党自由党に所属するジェームズ・パターソン上院議員が8月、TikTokの禁止を検討すべきと発言。アプリストアから削除される可能性が出てきた(*1)。

2020年にトランプ元大統領の出した新規ダウンロードを禁止する大統領令以来、TikTokへの規制の可能性は世界中で議論され続けてきている。現状は依然としてダウンロードできるが、TikTokが本当にアプリストアから消える日は来るのだろうか。このような事態が続く背景、理由とともに、もし本当にTikTokが使えなくなったらどうなるのかについて考えていきたい。

中国バイトダンス社が運営するTikTokは、2016年に中国でリリースされた抖音(ドウイン)の国際版。2018年にMusical.lyを買収、合併して世界中で利用できるようになった。

流行の音楽を自由に使って、スマホの縦型画面に合わせた楽しい動画が投稿できるうえ、AIでユーザーが好みそうな動画を表示する仕組みが支持され、一気にユーザー数が増加した。

米ITセキュリティ企業Cloudflare発表の2021年後半のトラフィックランキングによると、トップはTikTok、2位はGoogleだった。3位Facebook、4位Microsoft、5位Apple、6位Amazon、7位Netflix、8位YouTubeなどの錚々たるドメインを抑えての1位であり、TikTokの人気ぶりがはっきりわかる結果と言える(*2)。

さらに言えば、TikTokは現在、世界で最も多くダウンロードされているアプリだ。米モバイルアプリ分析会社Sensor Towerによると、2022年第1四半期のTikTokダウンロード数は1億7,600万件以上となり、ダウンロード総数が35億件に達した5番目のアプリとなった。これまで総ダウンロード数35億件を超えたアプリはWhatsApp、Facebook Messenger、Facebook、Instagramで、米Metaの提供するアプリ以外では初となる(*3)。

米国でも10代を中心としたTikTok人気はめざましく、毎月8,000万人以上が利用しており、グローバルで存在感を増しつつある。これまで、「ウェブサービスやアプリと言えば米国」という時代が続いてきた中、中国製アプリTikTokの人気は止まらない状態だ。

トランプ元大統領がTikTokの新規ダウンロード禁止との根拠とした主張は、「中国製のアプリは国家安全保障上の脅威であるため」だった。TikTokはこれに対して、ワシントン連邦地方裁判所に禁止措置の一時差し止めを要求。裁判所が認めたため、結局禁止措置は実施されなかった。

バイデン現大統領は件の大統領令を撤回したものの、依然、TikTokの安全性について懐疑的な連邦議員は少なくない状態が続いていた。そこに、冒頭のようなアプリストアからの削除要請があったというわけだ。

FCCコミッショナーであるブレンダン・カー氏は、TikTokを利用するユーザーのデータが中国から繰り返しアクセスされていたことを批判。AppleとGoogleに送った書簡においても、「TikTokによる過剰なデータ収集は国家安全保障上のリスクにほかならない」と主張している。

6月17日には、米メディアが中国の技術者が米国のTikTokユーザーのデータにアクセスしている実態を報じていた。バイトダンス社は、米国内のデータを米オラクルのサーバーに移すと発表したものの、米議会と規制当局はいまでも、TikTokを国家安全保障上の脅威とみなしているのだ。

規制を巡る議論にはTikTokが中国製であること、米国と中国との関係性が大きく影響している。それだけでなく、これまで米国の独壇場だったウェブサービス・アプリ市場を中国製アプリに揺るがされつつあることも心理的に影響している可能性もあるだろう。その結果、バイトダンス社が中国共産党への米国ユーザーのデータ共有を何度も否定しながらも、主張が完全には受け入れられないことにつながっている。

米Metaが発表した2022年4~6月期決算によると、2012年の上場以来、初の減収となっている。景気の減速傾向、Appleのプライバシー保護規制強化などがインターネット広告事業にマイナスだっただけでなく、TikTokとの競争も要因として挙げられている。Facebookの月間利用者数も前期より200万人少ない29億3,400万人にとどまっており、勢いを増すTikTokと対照的となってしまっている。

Metaはこれまでも、若者に人気のサービスを買収したり、類似機能をリリースして難局を乗り切ってきた。若者のFacebook離れが指摘されれば若者の支持を集めていたInstagramを買収し、Snapchatの自動的に投稿が消える機能が流行れば、Instagramに24時間で自動的に消えるストーリーズ機能を取り入れた。

TikTok的なものがウケることがわかってすぐに、Instagramのリールをはじめとした多くの類似サービスが各社から発表された。YouTubeの「ショート」、すでに終了を発表したFacebookの「Lasso」、類似のショート動画アプリで中国製の「LIkee(ライキー)」や米国製の「Triller(トリラー)」、Vineの後継である「Byte(バイト)」などだ。

『Likee Logo』w:en:Like CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons

多くのユーザーは、アプリのブランドにはそこまでこだわりがあるとは限らない。Snapchatを使っていたユーザーがInstagramでストーリーズを使うようになったように、ユーザーは「そのような機能」を使いたいだけかもしれない。TikTokがなくなればユーザーは別のサービスに乗り換えるだけという可能性が高いだろう。

ただし現状では、TikTokの利用は増え続ける一方で、頼みのInstagramの利用も頭打ちの可能性も指摘されている。米企業によるTikTok買収提案も失敗している。ご紹介した他社のショート動画共有アプリや機能も、TikTokを超える人気とはならず、利用はされていてもTikTokと同じ動画が投稿されているだけということが多い。

もしこの状況がひっくり返るとすれば、TikTokが米国市場から完全に締め出されたときだろう。大きな米国市場を失えば、失速して影響力を失っていく可能性は十分に考えられる。

最終的にショート動画共有アプリ市場をどこが奪い取るのか。米国が強硬手段をとりTikTokを締め出すときは来るのか。それとも、若者の支持を受けてTikTokがそれを凌駕するのか。第三の別のアプリが市場を奪うのか。まだまだ目が離せない状態が続きそうだ。