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androp、ステージを幻想的な空間に染め上げた祝祭の夜 リベンジも果たした5年ぶり日比谷野外大音楽堂公演

2022年09月08日 12:21  リアルサウンド

リアルサウンド

androp(写真=西槇太一)

 今年5月から6月にかけて最新アルバム『effector』を携えたツアー『androp one-man live tour 2022 “effector”』を完走したばかりのandrop。アルバム制作を経て新たなバンド像を築き上げた彼らが今回立った舞台は、自身5年ぶりとなる日比谷野外大音楽堂だ。5年前とは異なるモードで、『androp one-man live 2022 at Hibiya Open-Air Concert Hall』を9月3日に開催した。前回は秋雨に見舞われたが、リベンジ成功ともいうべきか、今年の日比谷上空には一粒の雨粒も零さない晴天が佇んでいた。本公演では、観客を演出の一部とするという試みでドレスコードの指定があり、白系の服を纏った観客で客席が埋め尽くされた。また、メンバーの背後に吊り下げられる多数の鏡、客席中央に設置された巨大ミラーボールなど、セットにも注目が集まった本公演を振り返る。


(関連:【写真あり】androp、5年ぶり野音公演レポ


 臨場感のあるSEが流れる中、メンバーがステージ上に姿を現すと、観客はあたたかな拍手で迎え入れる。小刻みなドラムロールが物語のプロローグをなぞっていくかのようなインストナンバーで、本公演の幕は上がった。直後演奏した最新曲「SummerDay」では、ブリージーな内澤崇仁(Vo/Gt)の歌声にあわせて打ち鳴らされる観客の息の合ったハンドクラップが、幸福感に満ちた空間を醸成していく。本楽曲を早々に投下したのは、andropの“今”をこの特別な場所に刻み付けたいといった意思表示によるものであろう。


 佐藤拓也(Gt/Key)によるガットギターの情熱的なカッティングとリズミカルなパーカッションの調和で異国情緒漂う「Chicago Boy」を演奏すると、「来てくれてありがとう」と感謝を伝える内澤。鍵盤とサックスが織りなすシネマティックなイントロで場内の空気を一変させた「Koi」では、甘美な歌声で観客の視線をステージ中央に集める。続いて、6月の豊洲PIT公演にも参加したサックス奏者 Juny-aと、サポートキーボードとして迎えた佐藤雄大の2名を紹介し、「次の曲はこの2人からこの雰囲気に合ったぴったりな感じを」と内澤。サックスの色気ある音色にフィーチャーした「Radio」を披露すると、観客は自ずと肩を揺らし、濃密な音世界へ我先にと飛び込んでいく。「Know How」では、佐藤がサンプラーを駆使し奏でるアコギのリフとパーカッションのハネるビートが絡み、立体感のあるグルーヴが場内を駆け巡っていた。


 タンバリンが効いた「Traveler」の演奏を終えると、佐藤、伊藤彬彦(Dr)、Juny-aが一旦ステージからはけるのを合図に「リベンジをしたいことがあって」と話し始める内澤。5年前、客席中央のセンターステージで「Tokei」を一人歌い出した瞬間に雨が降り始めたという、ちょっぴり苦い思い出を振り返る。その時のリベンジと称し、ステージ最前にセットされた椅子に座り、丁寧に「Tokei」を歌い上げた。


 再びバンド形態に戻り披露した「Moonlight」では、ステージ上部でミラーボールがまわり、くるくると旋回する多数のサーチライトが場内全体を眩く照らす。チルな雰囲気へと誘う「Lonely」のあと、ポストロック直系の耽美な旋律が小気味よい「Water」へ繋ぐ流れも非常にスタイリッシュだ。ちょうどこの辺りの時間帯から本格的に日が落ち始め、「目論見どおりだな」と呟く内澤。今回の野音ライブは“反射”がテーマの一つであることを語り、「あなたの心の中に、今日も明日も綺麗な光が灯っていますように」と披露した「Hikari」では、ステージに吊り下げられた鏡に観客のスマホライトが反射。野音とその周辺が、今夜限りのどこまでもシームレスで美しい光の世界へと変貌を遂げた。


 客席中央の巨大ミラーボールを駆使し、会場全体のみならず日比谷公園の木々をも煌びやかで祝祭感のあるムードに染め上げた5年ぶり2度目の野音ライブ。前田恭介(Ba)が操るシンベのグルーヴがスリリングな「Beautiful Beautiful」で描く、緻密なサウンドプロダクションと照明演出の融合から生まれる迫力には思わず息を飲み、続く「Bright Siren」のサビでステージ上全域が最大出力の照明で真っ白に染まる様は、まるで夢の中にいるかのような感覚を呼び起こさせる。


 ピアノの音色がやさしく響き渡る中、「誰の代わりもない、あなた自身を大切にしてあげてください」と内澤の胸打つ言葉からスタートした「Iro」では、ステージ上から何色ものカラフルな光を照射。その美しさに惚恍とした様子で、観客は色彩豊かな音世界に没入していく。続いて投下した「Tokio Stranger」では、ジャジーな音色とアグレッシブなドラミングの対比が強烈な臨場感を放つ。マッピング映像を駆使し、ステージ後方がさまざまな書体や言語の歌詞でびっしり埋めつくされる中、内澤のラップから放たれる一言一言が小気味よく舞い踊る。土曜日の夜を祝した「Saturday Night Apollo」でオーディエンスをダンスフロアに誘った後、息つく暇もなく「MirrorDance」、「Yeah! Yeah! Yeah!」とライブアンセムをフルスロットルで投下。ライブ終盤を颯爽と駆け抜けていく様は、蝉の鳴き声が止み、秋香る9月へとバトンを受け渡す今の季節感に呼応しているかのようだった。


 本編最後には、ブラスサウンドが華々しい「SuperCar」を披露。内澤とJuny-aが向き合って楽しそうにプレイするシーンも見られる中、客席全体に響き渡るハンドクラップのグルーヴは合唱のようで、“肉声の要らないシンガロング”が実現していた。


 アンコールでは、9月7日に新曲「September」をデジタルリリースすることを発表。「9月の金星をモチーフにしつつも真っすぐな純粋な気持ちを歌った曲」という本楽曲は、夜が深まってより幻想的なムードに満ちた場内を純真さで染め上げた。アンコール最後は「辿り着いた今日5年ぶりの野音!」と歌詞にアレンジを加えて観客と喜びを分かち合った「SOS!」で締め、2時間強のライブは終幕した。


 アンコール終了後、内澤がステージ上で放った「また、音楽でお会いしましょう」という言葉が、ライブから数日経った今でも頭に残っている。andropの音楽は、今後も鳴りやむことなく私たちの生活に寄り添い、そして時には傷心を癒す特効薬として、希望の光を指し示すコンパスで在り続けるのだろう。


 なお同時配信された本公演のアーカイブ映像は9月11日23時59分まで購入可能だ。(潮見そら)