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テスラはクルマづくりの基準になる? 新型SUV「モデルY」に乗って考えた

2022年09月08日 07:41  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
排ガスゼロに向けた世界的な潮流を受け、自動車メーカーがこぞって電気自動車(EV)のラインアップ拡充に注力し始めた。遅れ気味だった日本勢も、ようやく本腰を入れた格好だ。彼らが本気を出せば、新興のテスラなどあっという間に凌駕できるとの見方もあるが、実際のところはどうなのか。テスラの最新SUV「モデルY」に乗って考えた。


○ボディサイズは「マカン」に近い?



日本での納車開始が今日から始まるテスラの最新車種「モデルY」に試乗してきた。



モデルYは2020年3月に納車が始まったが、世界的なSUV人気もあり海外での販売が好調で、なかなか日本市場に入ってこなかった。欧米や中国向けの左ハンドル車が優先されるためである。



セダンタイプの「モデル3」は同じくセダンの「モデルS」に比べ小柄な車体により、テスラ車の普及という役割を担うクルマだったが、狙い通りに販売台数を伸ばした。SUVタイプのモデルYは、より幅広い消費者に向けた1台として日本導入が待たれていた。



試乗したのはモデルYの「パフォーマンス」というグレード。前後にモーターを装備する4輪駆動(AWD)の上級車種だ。ほかには後輪駆動の「RWD」というグレードも選べる。


実物を見て感じたのは、車体が意外に大きいということだ。車体全長は量販車種のモデル3より57mm長い4,751mmで、それほど差があるとは感じないのだが、全幅は72mm広い1,921mmとなっている。3ナンバー車が国内でも増え、全幅1.8m前後の車種は多くなってきているが、1.9mを超えるとなると、さすがに横幅をもてあます感じになる。ちなみに、同じくSUVタイプの「モデルX」は車幅が2mを超える。


先般、モデルYのライバルと目される韓ヒョンデ「IONIQ5」と中BYD「ATTO3」にも試乗したが、全幅はIONIQ5が1,890mm、ATTO3が1,875mmであり、わずか1.5mmの差ではあったものの、ATTO3は格段に運転しやすい印象だった。4ドアセダンのモデル3は車幅が1,849mmなので、それに近い車幅であれば、モデルYがもっと身近な存在になるのではないかと思った。


とはいえ、モデルYの車体寸法は国内にも愛用者の多いポルシェ「マカン」に近く、目くじらを立てるほどに大きすぎるというわけではない。9月半ばに発売予定のマツダ「CX-60も同等の車体寸法だ。



モデルYの操作方法や内装はモデル3に通じるもので、運転を始めるとすぐに馴染んだ。デュアルモーターのAWDということで、アクセルを深く踏み込めば猛然たる加速を体験できるが、そのような走りは一瞬味わえば十分だ。日常的な走りではいたって快適であり、静かで、上質で、思い通りに運転できる、優れた電気自動車(EV)であることに変わりはない。

モデルS、モデルXでテスラは、乗用車として、またSUVとしてのEVの商品価値を研究しつくした。モデル3ではテスラらしさという個性をいかしながら、EVのあるべき姿、そして、いかに顧客満足度を高めるかという問いに対する回答を提示したと思う。こうした流れの中で登場したモデルYだから、試乗してなんら不足はない。



ダッシュボード中央の大型画面での表示や操作も不自由はない。前車追従式クルーズコントロールも、ハンドル右側のシフトレバーを2回下側へ押す操作をすればすぐに起動し、自動運転的な走りになる。車線変更も、ウィンカーレバーを操作すれば前後の車間を確認して自動で行う。それらの操作が非常に簡単で、それでいて確実かつ即座に機能するので、イライラさせられることもない。操作や応答が運転者の期待通りなので、クルマへの信頼も高まる。


○テスラがクルマづくりの基準に?



既存の自動車メーカーは、EVといえども新興勢力が容易にクルマをつくり、販売することはできないと高をくくっていた観があった。ところが、電動化の推進が半ば強制的な世情となり、彼らも電動という新たな領域に入ったとき、既存のメーカーが作ったクルマの多くはテスラ車に比べ、操作性や表示の仕方などで劣っていた。



歴史ある自動車メーカーと新興自動車メーカーの装備の差、仕上げの差、品質の差が逆転し始めたことを、テスラ車に乗ると実感する。その意味で、モデル3も今回のモデルYも、EVの世界標準といえるクルマだと思った。総合性能としてテスラに勝てるEVには、いまだに乗ったことがない。



モデルYはSUVとしての機能も十分に作り込まれている。後席の快適性は優れているし、後輪モーターを備えているにもかかわらず、荷室の床下には底の深い小物入れが設定されている。前のボンネットフード下にも小物入れがあるのは、モデルS以来の特徴だ。後席背もたれを前方に倒し、荷室の床面積を広げたい場合には、背もたれの背面を床と同じように平らに折り畳むことが可能。広々とした荷室容量はSUVとして十分だ。


欧米人はクルマに合理性を求める。したがって、使い勝手を求められるSUVでは荷物をたくさん積めるとか、5人の大人がきちんと乗車できるといった実用性に厳しい目が注がれる。モデルYの車幅が1.9mを超えたのは、後席に大人3人がきちんと座れる座席を用意するためだったのかもしれない。



タイヤは前後で寸法が異なり、後輪側がより幅広い設定だった。運転感覚としては、あたかも後輪駆動のような走りを味わうことができた。ただ、デュアルモーターの駆動力を安全にいかし切るためだと思うが、35%という超扁平なタイヤであることもあって、全体的な乗り心地はかなり硬く、やや車体が跳ね気味な様子になることもあった。この点は、もう少し偏平率を下げ、乗り心地を高めたほうがいいように思えた。今回は試乗していないが、RWDはホイール径がAWDよりも小さいので、乗り心地はかなり改善されるのではないか。


いずれにしても、モデルYが期待通りのテスラのEVだったことには大満足だ。改めてテスラがEVのの基準であることを認識し、そのうえで、テスラを超えるEVが出てくることへの期待も高まった。だが、そのときにはテスラはさらに先へ行っているのではないか。



テスラはEVとしてだけでなく、未来のクルマとしても本物だと思う。



御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら(御堀直嗣)