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実力主義の世界に生きるエンジニア。3社のラリー1カー開発責任者の共通項【WRC Topic】

2022年09月07日 17:20  AUTOSPORT web

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2022年のWRCに登場したラリー1カー。左からフォード・プーマ・ラリー1、トヨタGRヤリス・ラリー1、ヒョンデi20 Nラリー1
2022年よりWRC世界ラリー選手権の最高峰カテゴリーに登場したプラグイン・ハイブリッドマシン、ラリー1カー。今シーズンはトヨタ、ヒョンデ、Mスポーツ・フォードという3つのマニュファクチャラーのマシンが参戦しているが、実はこの3台のテクニカル・ディレクターは、全員Mスポーツの出身なのだ。

 TOYOTA GAZOO Racing WRTのテクニカル・ディレクター、トム・フォウラーは2005年からMスポーツで働き始め、WRカーの時代に『フォーカスRS WRC』や『フィエスタWRC』の開発に携わり、2015年8月からトヨタのWRCプロジェクトに参加。デザイナーのひとりとして『ヤリスWRC』を成功に導いた。

 そのフォウラーと同時期にMスポーツでデザイナーとして仕事を開始したのが、Mスポーツ・フォードの現テクニカル・ディレクターであるクリス・ウイリアムズだ。彼は『フィエスタSTグループN』『フィエスタR2』といったカスタマー向けラリーカーの開発を担当し、『フィエスタR5 Mk1』の大成功によりデザイナーとしての地位を確立。2017年に投入された『フィエスタWRC』では主要デザインを担い、2022年シーズンからテクニカル・ディレクターに就任した。

 フォウラーとウイリアムズのふたりが、Mスポーツ時代に師事していたのが、ヒョンデの現テクニカル・ディレクターであるクリスチャン・ロリオーだ。ロリオーは元々プロドライブでスバル・インプレッサWRCシリーズのデザインを担当していたが、その後Mスポーツに移籍。傑作『フォーカスRS WRC03』がテクニカル・ディレクターとしての最初の作品であり、以降Mスポーツ・フォードで歴代WRカーのデザインを担ってきた。

 近年はMスポーツに在籍しながらもベントレーのGT3マシンを設計するなどWRCとは距離を置いていたが昨年、韓国のメーカーに移籍。途中からではあるが『ヒョンデi20 Nラリー1』の開発に参加して指揮をとった。つまり、現在のラリー1は、3台全車がロリオーおよび彼の弟子たちの作品なのである。

■トヨタF1チームで開発に従事していたスタッフたちが現在は要職に

 WRCでは優れた技術力を備えたエンジニアは引く手あまた。基本的には、シャシーデザインを担当するエンジニアが、テクニカル・ディレクターに昇進するケースが多い。

 以前、ヒョンデでテクニカル・ディレクターおよびチーム代表を務めていたミシェル・ナンダンは、その昔TMG(現TGR-E)でグループA『トヨタ・セリカGT-FOUR(ST185)』のシャシーデザインを担っていた。その後プジョー、スズキと渡り歩きヒョンデに加入。『i20 WRC』シリーズの開発を指揮した。

 ちなみに、現在ヒョンデでチーム副代表を務めているジュリアン・モンセは本来エンジン・エンジニアだが、2010年まではTMGでトヨタF1エンジンの開発に従事していた。

 そして、TGR-Eで『ヤリスWRC』および『GRヤリス・ラリー1』のエンジン開発を指揮してきたプロジェクトマネージャーの青木徳生もまた、トヨタF1チームでエンジン開発を担っていた。つまり、彼らは旧知の仲であり、F1で苦楽をともにした戦友なのである。それだけに、ラリー1のエンジンパフォーマンス対決では、絶対に負けたくない相手に違いない。