2022年09月06日 12:11 弁護士ドットコム
旧統一教会などの問題をめぐり、消費者庁が立ち上げた霊感商法対策検討会の初会合が8月29日、開催された。8人いる有識者の1人、菅野志桜里弁護士(TheTokyo Post編集長)は「違法行為でたくさんの被害者をつくってきた反社会的な団体が長きにわたり宗教法人として存続してきたことが一番の問題点。今度こそ解決したい」と意気込む。
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その背景には、衆院議員時代の2018年に消費者契約法や民法の改正議論で、救済に向けてもう一歩踏み込めなかったとの悔悟の念がある。「限定的な改正になったことで、救済が不十分になっていた。この宿題に取り組みたいと思っている。運用改善に終わらせず、今度こそ法改正を実現したい」。
複数の法律にまたがる困難な課題だ。自身に期待される役割を「問題点をわかりやすく社会化し、その解決策を法で示すこと」と語る菅野弁護士に、法改正も見据えた議論をどう進めていくべきか解説してもらった。
ーー被害対策をめぐっては(1)霊感商法被害や献金被害など個別の違法行為から個人をどう救済するか、(2)組織的に違法行為を繰り返す宗教法人自体をどう規制するかーの2段構えで考えると分かりやすいと菅野弁護士は主張されています。まずは既存の法律で、霊感商法対策は十分なのでしょうか?
2018年の消費者契約法改正で、一部の霊感商法に関しても取り消し権が拡大されました。施行から3~4年たって、どれくらい効果があったのか実態を分析する必要があります。この点については、初回の検討会で申し上げ、現在、消費者庁に調べていただいています。
実態を把握した上で、取り消し権がうまく機能せず救えていないということであれば、再度の消費者契約法の改正も検討すべきでしょう。また、近年は献金したお返しにプレゼント(編集部注:旧統一教会では3000万円の献金に対して「聖本」を渡していた)をもらうような被害が主流だといいます。
霊感商法そのものとはいいにくい被害についても、消費者契約法での救済、または特定商取引法に新たな類型を加えるなど、改善の具体策を探りたいです。検討会には、民法学者の方々もいますので、「契約」あるいは「商取引」と言えるための一定の指標をつくることもありうると考えています。
消費者契約法の条文では、霊感商法はこう定義されています。
消費者に対し、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、そのままでは消費者に重大な不利益を与える事態が生ずる旨を示してその不安をあおり、消費者契約を締結することにより確実にその重大な不利益を回避することができる旨を告げること。(4条3項6号)
「確実に回避することができる旨を告げる」という文言は、厳しい要件です。マインドコントロールにより自由意志を奪い、支配と服従の関係に組み込んでしまえば、ここまで言わなくても契約できてしまいます。むしろ法をすり抜けるためには言わないのではないでしょうか。もっと包括的な救済条項を検討しなければなりません。
ーー反社会的な団体を規制できるかについては、フランスの反セクト法(編集部注:セクトは英語のカルト。カルト的行為を行う団体について、刑事責任の強化や、解散宣告などで規制する2001年にできた法律)のような立法が可能なのでしょうか? 既存の宗教法人法にはどんな課題があるのでしょうか?
根本的には「団体の利益が、個人の利益を凌駕するような信教の自由は存在しない」ということを社会の共通認識にすることが重要です。
実際にいわゆる旧統一教会の「正体隠し」の伝道については、個人の信仰の自由に対する重大な脅威であり違法であるという趣旨の裁判例も出ています。伝道だけでなく物品販売・献金勧誘・合同結婚式の違法あるいは無効判決なども多数積みあがっています。
それにもかかわらず、政治が、「政教分離」という言葉をご都合主義的に利用して「宗教」をタブー視し、反社会的な団体を放置してきた。憲法の本旨は、個人の尊厳を守るためにあるということを改めてみんなで学ぶ。機運が高まっている今、必要なことです。
フランスの反セクト法をそのまま導入することはできませんが、いくつかのエッセンスを既存の法制度にマッチさせて日本版をつくることはできると思います。
まず、どういう団体を規制するかの要件についてです。
1点目は、カルトそのものではなく「カルト的逸脱行為」を規制するという点です。憲法上の政教分離や信教の自由との兼ね合いにおいて、参考になると思います。
2点目は「無知や脆弱性につけこんで害を及ぼす」という要件です。以前から議論されている点ですが、包括的な条項として必要だと考えます。
次に、規制されたらどんな効果があるかを検討します。
マインドコントロール下の人に違法な金銭搾取をするなど「カルト的逸脱行為」をした個人を罰するだけでなく団体も処罰対象にする「両罰規定」があります。
法人に対する処罰としては、罰金だけでなく、事務所や企業の閉鎖や公契約からの排除、小切手やキャッシュカードの使用禁止など、反社会的な行為を防ぐために効果的な選択ができます。解散命令もありえます。
また、こうした有罪判決を受けた団体について、広告宣伝効果のあるメッセージを広げた人に対しても罰金が科されます。政治家が広告塔となるような事案を今後なくすためにも参考になりそうです。
活動を制約する手段は様々ありうるので、フランスのように必ずしも刑事罰と結びつけなくても、解散命令と結びつけて税制優遇や差押え禁止の特権をなくすなど、日本の制度にマッチさせた効果的な方法を考えることはできるはずです。
宗教法人法はオウム真理教事件などを発端に、1995年に国会で議論され、大規模な改正がありました。
81条では法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした場合、解散命令が出せるとされています。
当時の国会答弁で文化庁は「ほとんどの場合、犯罪行為といったもの以外には余り事例がないのではないかというふうに考えられます」と答えています。
つまり、「法令違反」を一方的に「刑事法の違反」に狭めています。実際、解散命令までいったのは2例しかない。いずれも殺人予備や詐欺といった犯罪行為によってです。
本来ならば監督官庁である文化庁には、民事的な法令違反についても必要があれば質問権など調査する権限があるのに、自ら射程を狭めています。旧統一教会に対しても、事実上のヒアリングはしているものの、法律上の質問権は使ったことがないんです。
野党の勉強会でも、文化庁からは解散請求がほぼ見込まれるような案件でしか使わないと聞きました。法律のどこにも書いていません。国からすると、政治的な忖度とか、訴訟リスクが怖いとか要因はあるかもしれませんが、なすべき責任を果たしていないと思います。
ただ、文化庁の宗務課という少ない人員では難しいことも確かです。民事上の責任を含めて、法令違反の内容を調べるなら、たとえば金銭の流れを確認できる能力のある省庁が必要になる。人的、組織的な体制、予算の手当てなど、国が本気で整えるかどうかです。
菅野氏は現在、脱会カウンセラーの牧師に話を聞いたり、2世自身からメッセージを受け取ったりして被害の大きさを再確認しているという。
「ごく一部の民間の方たちがカウンセリングを手弁当でやってきた。精神科や心理学の専門家など、他分野からも組織的なサポートを可能にするなど社会インフラが必要です。また宗教が背景にあると虐待として扱われづらく、自治体によっては自立のための生活保護の手が届いていないと聞きます。図らずも自由を束縛された子どもたちへの公的なサポートが求められています」
検討会は原則、週1回行われ、YouTubeでライブ中継される。
【取材協力弁護士】
菅野 志桜里(かんの・しおり)弁護士
弁護士/The Tokyo Post編集長。中1で初代「アニー」を演じる。東京大学法学部卒。元検察官。2009年の総選挙に初当選し、3期10年衆議院議員を務める。人権外交を超党派で考える議員連盟の創設に寄与。IPAC(Inter-Parliamentary Alliance on China)初代共同議長。2021年11月、政界を引退し、一般社団法人国際人道プラットフォーム代表理事に就任。2022年1月にWEBメディア『The Tokyo post』編集長に就任。