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物語の起点は「誰かに伝えたいと思う情熱」 ディズニーが中学生に伝えたストーリーテリング【レポート・インタビュー】

2022年09月05日 18:51  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

ワークショップの様子/ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
人の心を動かすキャラクターやストーリーを数多く生み出してきたディズニー。次世代を担うストーリーテラーの支援・育成のほか、キャラクターやストーリー制作、プレゼンテーション体験を通じて将来を考える機会を提供しようと、2022年夏、公益社団法人ジュニア・アチーブメント日本とともに中学生向けのワークショップを初開催しました。

約1ヶ月、ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社の社員からアドバイスを受けながらストーリーテリングに挑戦した中学生たち。ワークショップ最終日となる8月19日には、社員たちを前にプレゼンテーションを行いました。仲間と協力してつくりあげた、自分自身、もしくは誰かを元気にするキャラクターとは?

今回はプレゼンテーションや、ディズニー社員とのキャリアトークの様子をお伝えするほか、コーポレート・コミュニケーションズ、エグゼクティブディレクター・秋月希保さんのインタビューをお届けします。

■テーマは「自分自身、もしくは誰かを元気にするキャラクターを作ろう!」



ワークショップに参加したのは茨城県の太田第一高校附属中学校、福島県いわき市の入遠野中学校、上遠野中学校、久之浜中学校、湯本第三中学校に通う生徒27名。「自分自身、もしくは誰かを元気にするキャラクター」をテーマに、各校がプレゼンテーションを行います。

プレゼンテーションでは、片翼のフクロウや人見知りのロボットなど、個性的なキャラクターが次々と登場。キャラクターの外見だけではなく、抱えている悩み、成長するためのストーリーなどが緻密に練り込まれています。

プレゼンテーションの手法も、スライドに絵を映し出して説明したり、寸劇を披露したり、文字を主体にして絵本の読み聞かせのようにしたりと、チームごとに多種多様。個性や想像力にあふれた発表で、ディズニー社員たちをうならせていました。

各校に共通していたのが、キャラクターを支える仲間の存在。ひとりでは解決できない悩みに立ち向かうために仲間が背中を押す、という展開が用意されていました。
キャラクターが持つ悩みには中学生自身の気持ちが投影されており、ストーリーからも「自分自身や同じ悩みを持つ人々を元気にしたい」という熱い気持ちが伝わってきます。

プレゼンテーションを見守る社員たちは「この先の展開はどうなるのだろう」と、没頭していた様子。ラストの展開に感動し、涙を流す社員もいました。

発表後は、生徒たちのメンターを務めた、日本のオリジナル コンテンツ制作部門を指揮・統括している成田岳さん、コンテンツ部門でアニメ制作を統括している八幡拓人さん、コンテンツ制作に携わるプロデューサーの山本晃久さんなどからコメントが。「このまま2時間の映画が作れそう」、「大人でもなかなか考えつかないアイデアだった」など、絶賛の声が続出します。

ほかの社員たちも刺激を受けたようで、「プレゼンも物語も創意工夫に富んでおり、1ヶ月弱の短い期間でも成長を感じた」、「今回のように、自信を持って自分らしい物語をこれからも語っていってほしい」とワークショップ後に感想を聞かせてくれました。

■選択肢を広げるような挑戦をしてほしい



プレゼンテーション終了後はキャリアトークを実施。ディズニー社員たちがこれまで歩んできたキャリアを語り、中学生からの質問が投げかけられました。

ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社で日本のオリジナルコンテンツ制作部門を統括している成田岳さんも、キャリアトークに参加。福島県いわき市立久之浜中学校の生徒に、幼少期の思い出や学生時代に抱いていた将来の夢、これまでのキャリアの歩みなどを語ります。
当初希望していた仕事とは別の部署に配属されたこともあった成田さんですが、「人と人をつなぐ」という人生の軸はぶれなかった、と振り返りました。

選択肢を自分で狭めず挑戦し、現在の仕事にたどり着いた成田さん。中学生からは「将来やりたいことが見つからなくて不安」、「何が自分に合った仕事なのかわからない」などの相談や質問が寄せられます。

成田さんからは「やりたいことが見つからないのはむしろ自然なこと」と、意外な回答が。「焦らずに今を楽しんで、選択肢を広げられるようなことにたくさん挑戦してください」とやさしく答えていました。
また、キャリアトークの最後には「中学生時代に間違いはないので、とりあえず動いてみてほしい」とアドバイス。じっとして何もしないのは損だから、と中学生たちを励ましていました。

■将来はディズニーで働いて、ひとりでも多くの人を笑顔にしたい



キャラクターづくりやプレゼンテーション、キャリアトークなど盛りだくさんだった今回のワークショップ。参加した久之浜中学校のみなさんにお話を伺いました。

ワークショップへの志望動機は「発信する力や考える力を養いたい」、「誰かを元気にすることを自分の強みにしたい」、「殻を破って新しい自分を見つけたい」、「チームで取り組むことで達成感を味わいたい」、「ディズニー愛を深めたい」などさまざまです。
それでも今回のワークショップに参加したことで「みんなで意見を交換しているうちに、ひとりでは思いつかないようなことにも気づけた」と感じた様子。難しい課題に対しても、仲間と協力すればよりよいアイデアが生まれるのだと、全員が実感していました。

「ワークショップに参加して、やりたいことが明確になった」と答えた生徒も。
将来の夢を聞いてみると「人のためになる仕事をしたい」、「ディズニーで働いて、ひとりでも多くの人を笑顔にしたい」、「積極的にさまざまなことにチャレンジして道を切り開いていきたい」、「自分の思いを素直に伝えられるような人になりたい」、「スポーツなど好きなことについて深く勉強して夢を叶えよう、という自信がついた」と、希望に満ちた未来を聞かせてくれました。



■伝えようとする情熱と、背中を押す仲間が大切



ここからは、ディズニー・ジャパンとして初めてとなる、中学生向けワークショップの企画立ち上げから携わっているコーポレート・コミュニケーションズの秋月希保さん(写真右)にインタビュー。ワークショップの狙いや、次世代のストーリーテラーに求められる能力などを伺いました。

――今回のワークショップを通して、次世代のストーリーテラーに伝えたことを教えてください。

秋月今回テーマにしたのは「自分自身、もしくは誰かを元気にするキャラクターをつくる」です。誰かを元気づけるためにはまず、自分たちが強い想いや考えを持つことが大切です。誰を元気づけたいか、どんな悩みを乗り越えたいかなどの想いを仲間と一緒に話し合い、キャラクターや物語に反映してもらいました。
私たちディズニーにできるのは、物語の力で想像力をかき立て、物語を生み出す楽しさや喜びを体感してもらうことです。各校のプレゼンから、自分なりの考えや想いを相手に伝えたい、という情熱を感じたので、生徒たち自身が制作活動を通じて、ディズニーが大事にしているストーリーテリングの大事な考え方や要素を吸収してもらえたんじゃないかと思っています。

――参加者を見ていて印象に残ったことはありますか?

秋月物語を考えるときに、仲間の存在を意識していたことが印象的でした。私たちは「キャラクターをつくろう」とは伝えましたが、「キャラクターたちをつくろう」とは言っていません。ですから普通はキャラクターを1体しか考えないと思っていました。しかし実際はどのチームも「複数考えてもいいですか」と自主的に提案し、複数のキャラクターをつくっていたんです。

また、複数のキャラクターが登場する設定だけでなく、悩みを乗り越えて成長するためのストーリーも用意されていました。ひとりではできなくても仲間と力を合わせればできること、背中を押して自信につなげてくれる存在の大切さなどを、生徒さんが自ら気づいてくださって感動しています。

枠にとらわれない発想にも驚きました。感情を色で表したカエルのキャラクターや、人見知り度合いをメーターで表示するロボットのキャラクターなど、内面を伝えるための個性的な仕掛けが多くて。生徒さんたち自身がキャラクターに入り込み、相手の気持ちに寄り添って理解しようとしていることの現れだと思いました。

――たしかにどのチームの発表もオリジナリティーにあふれていました。

秋月プレゼンテーションを聞いて、「物語には正解がない」ことを実感していただけたと思います。チームごとにストーリー展開も伝え方も違いますし、キャラクターを考えるときの起点も違う。入口も出口も異なりますが、どれも「誰かを元気にするキャラクター」です。今回ストーリーテリングを体験することで、「○○すべき」という考えにとらわれて正解を求めるのではなく、自由な発送と想像力で考える大切さも感じてもらえたと思います。

――各チームとやりとりをしたディズニー社員のみなさんは、どのような点に感心していましたか。

秋月生徒さんたちのイマジネーションが本当に豊かで、少し背中を押せばアイデアがどんどん解放されていくことに驚いていました。
各チームのメンターは「○○したほうがいい」と誘導するのではなく、「そのキャラクターはどうしてそういう考えを持っているの?」と質問を投げかけ、生徒たち自身が物語やキャラクターを深掘りしていくためのヒントを与えていただけです。それだけで、生徒さんたちは期待以上のアイデアを返してくれました。「中学生でもこんなに素敵なストーリーテリングができるんだ」と感動したほどです。彼らの想像力を通して、私たちもイメージが広がりました。

――それぞれのアイデアが光っていましたね。では、次世代のストーリーテラーには、どのような力が求められると思いますか。

秋月何かを人に伝えたい、という情熱が大切です。テクニカルなスキルはもちろん必要ですが、熱いハートがなければ始まりません。「誰かを元気にしたい」という気持ちがあれば、「どうやって元気にしよう」、「そのためにはどんな仲間が必要だろう」と物語がどんどんふくらんでいき、相手に伝わるストーリーになるはずです。考えるときには、相手の視点に立つことも大切だと思います。いくら情熱を持っていても、相手に共感してもらえなければストーリーはなかなか響きません。

今回のワークショップでも、各チームが自分たちの悩みや願いを体現したキャラクターをつくっていたからこそ、共感を集めたと思います。聞いている私たちも一緒に物語に入り込んでいるような感覚がありました。

――ストーリーテラーを目指している人が、今すぐに実践できることはありますか?

秋月「誰にどんなメッセージを届けたいのか」といった目的意識を持つことから始めてみてはいかがでしょうか。身近なものや自分が直面している課題、信念などを軸に考えると、相手に伝わるリアルな物語になると思います。外枠だけを固めるのではなく、自分の体験を踏まえて軸をしっかり固めることを意識してほしいです。

――今後も今回のように次世代を育成する取り組みを続けていきたいと考えていますか?

秋月はい。今回が初めてのワークショップでしたが、みなさんの反応を見てとてもいい取り組みになったと実感できました。物語の力でよりよい世界に導いていくことがディズニーの使命なので、今後も継続して開催したいです。ストーリーテラーになりたい人をどんどん増やしていけたら、と思います。

社員からも気づきが多く、「感動するとはこういう気持ちだったんだ」と初心に返ることができました。社内にはコンテンツ制作に携わるプロデューサー以外にも、ゲームや出版などさまざまなジャンルにクリエイターがいるので、多くのメンバーに関わってもらいたいです。自分たち自身も学んで、次のストーリーテリングに活かしていきたいと考えています。

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思い思いの「誰かを元気にするキャラクター」をつくりあげ、ディズニー社員たちの心を動かした中学生たち。仲間とともに困難を乗り越える体験や物語を通して、大きく成長した姿を見せてくれました。彼らはこれからより自信を持って自身の将来を切り開いていくことでしょう。次世代を牽引するようなストーリーテラーが、今回のワークショップ参加者から誕生するかもしれません。