マックス・フェルスタッペンが母国グランプリでポール・トゥ・ウインを飾ったF1オランダGP。週末詰めかけた30万5000人の大部分を占めたオレンジ・アーミーは、大いに盛り上がったことだろう。
しかし、レースは決してフェルスタッペンの完勝というわけではなかったことは、「今日は波乱万丈で、一筋縄ではいかないレースだった」とフェルスタッペンが振り返っていることでもわかる。
スタートで1コーナーを制して、シャルル・ルクレール(フェラーリ)の前をキープしたフェルスタッペン。しかし、その後、この日のフェルスタッペンの最大のライバルはルクレールから別のドライバーへと移っていた。それはレッドブルと異なり、1ストップ戦略を採っていたメルセデス勢だった。
ソフトタイヤでスタートしたフェルスタッペンは18周目に1回目のピットストップを行い、ミディアムタイヤを履いてコースに復帰したが、もう1度ピットストップ予定だった。
これに対してメルセデス勢はふたりともミディアムタイヤを履いてスタートし、ルイス・ハミルトンが29周目に、チームメートのジョージ・ラッセルは31周目にピットストップを行った。レースは72周。ここでハードタイヤに履き替えたメルセデス勢は、このまま1ストップでチェッカーフラッグを目指す作戦に出た。
タイヤ交換直後はメルセデス勢より速いペースを披露して、あっという間にタイヤ交換をしていないラッセルをオーバーテイクして観客は盛り上がっていたが、次第にフェルスタッペンのペースが落ちる。40周目に18秒あった2番手ハミルトンとの差は47周目には13秒に縮まり、3番手のラッセルとは16秒差になっていた。
ザントフォールト・サーキットのピットストップ・ロスタイムは約18秒だから、フェルスタッペンが2回目のピットインを行えば、ハミルトンの5秒後方、ラッセルの2秒後方の3番手となっていたはずだ。レッドブルはメルセデスのペースを見て、最終スティントをハードにする決断を下していたが、ハードタイヤと相性がいいメルセデスに、レッドブルが対抗できていたかは不明だ。しかも、トップのハミルトンとの間にラッセルがいたこともレッドブルにとっては不利に働いていたことだろう。
そんなときにレースがフェルスタッペン有利に動いた。角田裕毅(アルファタウリ)がリタイアするためマシンをコース脇に止めたことだった。これでバーチャルセーフティカー(VSC)が出て、ピットストップ・ロスタイムが12秒だったレッドブルはフェルスタッペンをピットに呼び、ハードタイヤに交換。メルセデスもダブルピットストップで2台ともミディアムに交換してポジションは変わらずコースに復帰。トップはフェルスタッペンで2番手がハミルトン、そして3番手がラッセルだった。ところが、その直後、バルテリ・ボッタス(アルファロメオ)がストレート上に止まってセーフティカーが出る。
ここでレッドブルは思い切った作戦をとった。トップのフェルスタッペンをピットインさせ、ソフトタイヤに交換。クリスチャン・ホーナー代表は「マックスを応援するために詰めかけた大観衆の前で、トップを譲る作戦は勇気がいった」とそのときの心境を語る。
これでフェルスタッペンはメルセデスの後塵を拝して3番手に下がった。ところが、翌周もうひとつの幸運が訪れる。メルセデスがラッセルをピットインさせ、フェルスタッペンと同様、ソフトタイヤに交換してコースに復帰させた。ホーナーはこれで勝ったと拳を握りしめたという。
「ジョージがピットインしたことで、マックスはルイスと直接対決できるからだ。しかも、違うタイヤでのタ真っ向勝負だ」
運も味方につける力が、いまのレッドブルとフェルスタッペンにあることを見せつけた勝利だった。