2022年09月04日 10:11 弁護士ドットコム
旧統一教会問題への報道が過熱する中、富山のTBS系テレビ局「チューリップテレビ」が、事件直後から独自の報道姿勢で存在感を示している(特集「追跡!旧統一教会と富山政界 献金で家庭崩壊」)。
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その理由は二つある。富山市議について政務活動費の不正受給を暴いた「調査報道」の素地があること。そして、30年前の統一教会報道を手がけた社員の存在だ。
事件から2カ月。県内政界と教会との関係を追及し続け、現在、教会との関係断絶を口にしない県知事に切り込む真っ最中である取材班に話を聞いた。
7月8日の金曜日、安倍元首相が銃弾に倒れた。逮捕された山上容疑者が「特定の宗教団体に恨みを持っていた」と報じられたが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の名前はネット上でささやかれていた程度。11日の月曜に旧統一教会が会見を開くまで、大手メディアはその名前を報じなかった。
しかし、チューリップテレビは土日のうちに着々と準備を始めていた。
県内の元信者に接触、多額な献金の実態を早くも11日に報じた。
「チューリップテレビ」がツイッターのトレンドに登場、動画チャンネルTBS NEWS DIGのPV(閲覧数)は100万を超えた。
TBS系列のJNN全28局でPVがほぼ最下位だったのが、100倍に増え、JNN月間賞も受けた。
実は、銃撃事件の1週間前、チューリップテレビに武石浩明氏(55)がTBSから出向したことも大きかった。武石氏は、30年前の統一教会報道の際に、TBSで中心的に取材をした人物で、知識や人脈が生きたのだ。
30年前に新米ディレクターだった武石氏は、当時、TBSで朝の情報番組を担当。統一教会をめぐり、ワイドショーが桜田淳子さんら芸能人の合同結婚式の話題で盛り上がる中、霊感商法のキャンペーンを行い、大きな反響を呼んでいた。
その際、TBSには無言電話が3万件近く殺到したという。全国霊感商法対策弁護士連絡会の山口広弁護士や紀藤正樹弁護士も、そのとき以来、様々な局面で取材を通じた長い関係だ。
武石氏がチューリップテレビに出向して感じたのは、若い記者やアナウンサーの熱意だった。自分自身も刺激を受けているという。
「若い記者はみんなやる気がある。ローカル局は人が足りないので、アナウンサーも記者と同じように取材をして原稿を書いている。編集まで自分でやらなくてはならないんです」
2016年に富山市議会の政務活動費の不正受給を追及する報道を主導したのはチューリップテレビだ。議会のドンといわれる自民党議員を辞任に追い込み、半年の間に14人が辞職する事態は、映画にもなった。
「みんなが勇気を出して、正しくないと思ったら政界にも切り込んでいきます。かつてのキャンペーンに見られるように、ここには権力に対峙する『調査報道』のベースがある」
チューリップテレビは旧統一教会と県内政界との関係について、矢継ぎ早に報道を続け、UPFやピースロードといった関連団体の存在や、旧統一教会の元会長が富山大出身ということなども挙げながら、県内議員が選挙の応援を受けて、教会と深い関係になっていることを報じるのも速かった。今では他系列のテレビ局も追随している。
それは今、まさにヤマ場を迎えている。新田八朗知事が2020年の知事選で旧統一教会から支援を受けたことを認めたにもかかわらず、教会との関係について断絶すると明言せず、反社会的かどうかも明確に判断できないとしている点だ。
9月2日の会見でも、憲法の政教分離を引き合いに、特定の宗教を応援することも圧迫することもできないと説明。「知事の立場では関係を絶つという強い表現の発言はできない」と改めて強調した。
また、知事はコロナ補助金を不正申請していたチューリップテレビの不祥事を持ち出すなどして、記者と応酬。「印象操作をされるような映像を垂れ流している」「県民には偏った報道に決して惑わされることなくご安心をいただきたい」(8月25日の会見)と述べた。
チューリップテレビ側はどの部分が偏向報道なのかを確認するとともに、発言の撤回を求めたが、9月2日の会見で知事は「個別具体的に言えばいろいろありますよ。でも決して建設的なことにならない」などとして訂正や説明はしなかった。
地元紙の富山新聞は27日の社説で、知事に向けてこう書いている。
「しつこい質問、追及に辟易し、カチンと来る感情は分からぬでもなく、同情を禁じ得ない部分もある。ただ、記者の挑発に乗れば、その画像がまた繰り返し流されるだけのことだ。挑発に乗って得るものはなく、的外れだったり、あまりにしつこい質問を遮るくらいの毅然とした態度も必要だ」
武石氏の表情は厳しくなる。
「国政と違って知事に支持率調査はなく、国会議員よりも危機感が低いと思います。批判精神を忘れた地元紙は、為政者を監視する役目を果たせておらず、県内でいわばガラパゴス化しています。記者の質問を“挑発”と揶揄するのはジャーナリズムの死に値します。一方で、チューリップテレビの不祥事は早く全容を明らかにして責任の所在を明確にすべきです。報道については幸いにも県民から弊社には応援メッセージが届いています。これからも追及していきます」