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2022年の夏、Cornelius再出発の記録。『フジロック』『ソニマニ』のライブをレポート

2022年09月02日 18:00  CINRA.NET

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Text by 金子厚武
Text by 山元翔一

2022年の夏、Corneliusが帰って来た。

オリンピック開会式にまつわる騒動(※)からすべての活動を自粛して約1年、Corneliusは2つのライブを行なった。『FUJI ROCK FESTIVAL』と『SONICMANIA』への出演が発表された際、競合イベントであるはずの双方のTwitterアカウントがお互いのツイートをリツイートしあうという異例の事態がひとつ象徴するように、今年の夏はCorneliusの活動を、小山田圭吾を応援する人たちにとって特別なものとなった。

以下、再出発を果たした2022年夏のCorneliusを記録する。

新型コロナウイルス感染症の再拡大とせめぎあいながらも、各地で夏フェスが開催されるようになった2022年の夏、Corneliusがひさびさのライブを2本行なった。

1本目は7月30日の『FUJI ROCK FESTIVAL』(以下、フジロック)。言わずと知れた日本のロックフェスの草分けであり、Corneliusは昨年も出演予定だったが、直前でキャンセルになっていた。

もう一本は8月19日の『SONICMANIA』。『フジロック』と並んで日本を代表するロックフェスである『SUMMER SONIC』の前夜祭的な位置づけのオールナイトイベントで、Nine Inch NailsやMy Bloody Valentineも出演した前回(2018年)に続く出演となった。

『フジロック』でパフォーマンスするCornelius / Photo by Masanori Naruse

『フジロック』では2日目のWHITE STAGEにヘッドライナーとして登場。Foals、アーロ・パークス、ジャック・ホワイトらが素晴らしいパフォーマンスを披露したこの日の締め括りとして、エリアには開演前からたくさんのオーディエンスが集まっていた。

オープニングの“MIC CHECK”とともにステージ前方に張られた幕に映像が現れ、メンバーの影が大きく映し出されると、小山田の手振りに合わせて「CORNELIUS」「FUJI ROCK FESTIVAL」といった文字が浮かび上がる。

“Point Of View Point”の歌がはじまると同時に幕が落ちて、本格的にライブがスタート。実にCorneliusらしい、ワクワクするようなオープニングだ。

Cornelius / Photo by Masanori Naruse

下手から堀江博久、あらきゆうこ、小山田圭吾、大野由美子が横一列に並び、後方スクリーンの映像と演奏が同期しながら進むステージは、『Mellow Waves』(2017年)~『Ripple Waves』(2018年)のタームのライブを基盤にしつつ、それをところどころアップデートしたもの。プログラミングで緻密に構築された楽曲を、生演奏で見事に再現するメンバーのプレイはやはり素晴らしい。

“COUNT FIVE OR SIX”のようなユニークなカットアップものから、辻川幸一郎と組んだ『POINT』以降で楽曲とのシンクロをより強め、“あなたがいるなら”や“Audio Architecture”のような洗練されたサウンドのビジュアライズを生み出すに至るまで、Corneliusならではの演奏と映像の関係性も未だに唯一無二である。

Corneliusはライブで映像を使う理由のひとつとして、『FANTASMA』(1997年)の世界リリース以降、海外でのライブが増えたことを挙げており、MCをしなくても視覚的なコミュニケーションが取れることや、事前に内容をつくり込むことで、どんな環境でも安定したショーができるといったメリットを語っている(※)。

この考えに基づくCorneliusのライブというのは、国内アーティストに大きな影響を与えているように思う。

昨年の『フジロック』でいえば、初日のWHITE STAGEでヘッドライナーを務めたmillennium paradeのライブが映像(とセット)を用いた非常に印象的なものだったが、彼らは海外も視野に入れているタイプのアーティストといえるだろう。

また、ステージ前方に紗幕を張ったままライブをするスタイルがインパクトを与えたamazarashiをはじめ、近年ではヨルシカ、Ado、Eveといった匿名性の強いアーティストが人気を博すなか、映像の使い方はさらに重要度を増している。

そのメディアアート的なあり方も含めて、Corneliusのライブは彼らにとってもひとつの指標となっているのではないだろうか。

セットリストで注目すべき曲は2曲。まずは7月22日に配信リリースされ、ライブ前半で披露された新曲“変わる消える”。音源ではフェイ・ウェブスターの楽曲への参加も話題を呼んだmei eharaがボーカルを務めているが、ライブでは小山田本人が歌唱を務めた。

もともと2021年の春に制作され、音数の少ないアレンジとメランコリックな旋律がコロナ禍の空虚な雰囲気を醸し出しているが、坂本慎太郎による歌詞はそれをあくまでロマンティックに描き出していて、そのバランス感が素晴らしい。この日のライブに時代の空気を加えるという意味において、とても重要な役割を果たしていたように思う。

もう一曲が、アンビエント色の強い“Surfing on Mind Wave pt 2”や、“Beep It”や“Fit Song”といった『SENSUOUS』(2006年)の収録曲などを経て、ライブ後半で披露されたMETAFIVEの“環境と心理”。

この曲は作詞作曲、さらにはリードボーカルも小山田が担当している曲なので、Corneliusとして披露しやすかったという側面もあるだろうが、この日この場所でこの曲を演奏することの理由は、きっとそれだけではなかったはず。

そもそも“環境と心理”は「STILL ALIVE」というメッセージを掲げ、METAFIVEが4年ぶりの再始動を果たした一曲だ。

その後、昨年8月にニューアルバム『METAATEM』をリリースし、『フジロック』にも出演予定だったが、アルバムの発売が中止となり、Corneliusも出演をキャンセル。それを受けて、『フジロック』でのMETAFIVEは砂原良徳とLEO今井にサポートメンバーの永井聖一と白根賢一を迎えた特別編成でライブを行った。

だからこそ、あれから1年を経たここ苗場で、“環境と心理”をプレイすることには意味がある。曲調は淡々としたニューウェイヴポップだが、さまざまな混乱を経験し、出口の見えないこの時代で<なんとなく気分が ちょっとだけ晴れてく>と歌われるこの曲を聴く体験は非常にエモーショナルでもあって、個人的にはこの日のハイライトだった。

「ドラムンベースを用いたポップソング」という文脈で、いまが再評価のタイミングかもしれない“STAR FRUITS SURF RIDER”から、最後は“あなたがいるなら”でライブが終了。

小山田は一言「どうもありがとうございました」と挨拶をして、最後にメンバーとともにステージ前方に出てくると、サングラスを外し、お辞儀をして、ひさびさのステージを終えた。

Cornelius / ©SUMMER SONIC All Rights Reserved

『フジロック』から約3週間後、『SONICMANIA』はCorneliusにとってちょっとした感慨深さのある一日になったのではないだろうか。なぜかといえば、この日のメインアクトは1991年発表の名盤『Screamadelica』を中心としたセットを披露したPrimal Screamだったから。

小山田はフリッパーズ・ギター時代に同時代のUKサウンドに大きな影響を受け、同じく1991年発表の『ヘッド博士の世界塔』にはPrimal Screamからの影響も色濃く感じられた。ボビー・ギレスピーは小山田にとって、ヒーローの一人のはずだ(小山田のトレードマークになっているサングラスも、一時期のボビーを意識したものかも)。

また、この日の日本人の出演者は、1990年代から2000年代にかけて日本と世界をつなぐ役割を果たしてきたアクトが多かった。

Corneliusはもちろん、最盛期はオーディエンスが100万人以上とも言われる世界最大のテクノフェス、ベルリンの『Love Parade』にも参加した電気グルーヴの石野卓球がいれば、現在ではローファイヒップホップの始祖として世界中で愛されているNujabesのトリビュートセットもあった。

さらに、この日のトリを務めたのは「デジロック」の時代から海外のフェスに参加していたBOOM BOOM SATELLITESの中野雅之によるTHE SPELLBOUND。ライブの最後はBOOM BOOM SATELLITESの“Kick It Out”で締め括られた。

このラインナップに“NO WAY”がTikTokによって世界的にバズったどんぐりずがオープニングアクトとして加わったのも、必然性があったと言えるだろう。

ちなみに、筆者は『フジロック』でのCorneliusのライブを観て、CINRA編集部と「いいライブだったね」という話をした流れでライブレポートを執筆することになり、「書くのであれば、もう一回そのつもりでちゃんと観たい」という理由で、『SONICMANIA』にも急遽行くことを決めた。

『フジロック』でパフォーマンスするCornelius / Photo by Masanori Naruse

なので、「ひさびさのCorneliusを目撃しよう」という『フジロック』のときのテンションとは違い、「おそらくフジのライブと内容的にはそんなに変わらないだろうけど、ディテールを観に行こう」というテンションで会場に行った。

そして、実際セットリストはフジでやった“Drop”をやらなかっただけでほぼほぼ変わりなかったのだが……本番の直前になって、予想外の情報を知ることとなった。

なんと、堀江博久がリハーサル前日に発熱し、大事をとってライブを休み、この日は3人編成のステージなるという。今年の夏フェスはコロナ感染症の再拡大によって、各地のフェスで出演者のキャンセルがニュースになっていたが、Corneliusにもその影響が及ぶとは。

そのアナウンスをしたツイートでは、3ピースつながりでThe Jamのパロディー画像を載せていたが、とはいえ本番直前のハプニング。本人たちに冗談を言っているような余裕はないだろう。「おそらくはフジとそんなに変わらない」というボーッとした考えは、よくも悪くも覆されることになった。

そんなドキドキした状態ではじまった『SONICMANIA』のライブだったが、これが予想以上によかった。

幕張メッセをぶち抜きで使うフェスでは、音響的にバンドはちょっと不利だと思うことが多いのだけど、音数が減ったことが結果的にプラスに作用したように思う。

“COUNT FIVE OR SIX”や“Gum”のようなロックナンバーはギターの音圧がやや足りないように感じたし、“STAR FRUITS SURF RIDER”の間奏でのトランペットがなかったのは残念だったけど、それ以外の曲はむしろすっきりして音の抜けがよくなっていた。

Cornelius / ©SUMMER SONIC All Rights Reserved

その結果、メンバーそれぞれのプレイヤビリティーがいつも以上に際立ち、躍動感のあるドラミングでバンドの屋台骨となるあらきも、シンセベースとエレキベースを使い分けてグルーヴの要となる大野もさすがだったが、上モノが減ったことで、小山田のギターをいつも以上に堪能できたことは嬉しい誤算だった。

ワーミーやディレイといったエフェクトを駆使しつつ、ときにアート・リンゼイのようにフリーキーなプレイを見せる小山田のギターはやはり素晴らしい。YMOのライブにサポートとして参加したときも、そのプレイが高く評価されていたように、小山田はギタリストとしても一流であることがあらためて感じられた。

絶品のギターソロを披露したラストナンバー“あなたがいるなら”を終え、最後にステージ前方に出て、サングラスを外した小山田の表情が『フジロック』のときよりも柔らかく感じられたのは、思い入れの深いラインナップが並んだフェスで、ひさびさのライブを楽しめたから……というよりも、おそらくは3人編成のライブを無事に終えることができた、安堵の表情だったのだろう。

Corneliusのライブ終了後、MOUNTAIN STAGEでPrimal Screamがライブをやっている途中から、Corneliusと同じSONIC STAGEでは、TESTSETのライブがはじまった。

TESTSETとは、昨年の『フジロック』にMETAFIVEの特別編成として出演した4人が、今年4月より名前を新たに活動をはじめたバンド。

ライブを観たことはなかったのだけど、事前にMETAFIVEの曲も演奏していることは情報として知っていたので、もしかしたら小山田が参加するかも……なんていう淡い期待を少しだけ持っていたのだが、結局その機会は訪れなかった。

その理由は実際のライブを観ればよくわかる。まずTESTSETにはギタリストとして永井がいるので、もう一人ギタリストを迎える意味があまりない。また、永井も白根も(砂原も)THE BEATNIKSのサポートを務めているという共通点がありつつ、白根はLEO今井のライブメンバーで、KIMONOSにも参加している(この日は白根に代わり、Boredomsやウリチパン郡などで幅広く活動し、高橋幸宏のライブへの参加経験もある千住宗臣が出演)。

それもあって、TESTSETはMETAFIVEの派生というよりも、むしろLEO今井やKIMONOSの曲を、砂原がプロデュースしているような印象を受けた。5月にZAZEN BOYSと共演した際、向井秀徳を迎えて生まれたアレンジでKIMONOSの曲を演奏しているのも、その印象をより強めている。よって、ここに小山田が加わる必然性は薄く、手練4人による硬質なニューウェイヴファンクを堪能させてもらった。

なお、昨年配信チケットに付属というかたちでファンに届けられていた『METAATEM』は、9月14日にデラックスエディションとして一般販売されることが決定。

このアルバムのラストに収録されているのは、高橋幸宏とLEO今井が作詞を、小山田が作曲を担当した“See You Again”。また会おう、我が友よ。そして、またはじめよう。

Cornelius / ©SUMMER SONIC All Rights Reserved