Text by 原里実
Text by あくにゃん
2022年7月12日(日本時間13日)、アメリカの人気オーディション番組『America’s Got Talent』に出演し、審査員3人の圧倒的賞賛を受けて予選を通過したTravis Japan。9月6日17時(日本時間7日9時)より生放送で行なわれるセミファイナルに出場することも発表されている。
彼らはジャニーズJr.内のユニットで、まだCDデビューはしていない。今年の3月下旬からロサンゼルスへ留学しており、7月末まで行なわれていたダンス大会『World of Dance』でも、Team Division(チーム部門)の世界9位と同時に「Crowd Favorite賞」を受賞するなど、海の向こうで大活躍中だ。
そんなTravis Japanとは、いったいどんな魅力をもったグループなのか。いかにして『America’s Got Talent』の晴れ舞台にたどり着いたのか? 男性アイドルに詳しく、10年前からTravis Japanを追っているあくにゃん氏に綴ってもらった。
これを読めば、今後の彼らがいったいどんな物語・パフォーマンスを見せてくれるのか、あなたも目が離せなくなるに違いない。
「Travis Japanってすごいんだね」と、ジャニーズにまったく詳しくない母から唐突に言われた。私は10年以上ジャニーズJr.(以下、Jr.)を応援してきているが、母と特定のJr.の曲やパフォーマンスについて話すのは初めてだった。そして同時期、どのSNSを見ても「Travis Japanを見て感動した!」「朝から泣いた!」というオタク友達の投稿が並んでいた。
このお祭り騒ぎは、アメリカのオーディション番組『America's Got Talent』にTravis Japanが出演したことによるものだった。映像を見た人は、彼らが披露したパフォーマンスもさることながら、それに狂喜する客席にも衝撃を受けたことだろう(ちなみに私は、パフォーマンス直前のスピーチ映像を見て画面が霞むほど涙ぐむ、というループを10回ほど繰り返した)。
なぜ、これほどまでに国内外の「非オタク」を、デビュー前のJr.が沸かせることができたのか。今回は、そもそもトラジャって? という基本のことからTravis Japanが出演に至るまでの背景について書いていきたい。
そこには「日本人が大舞台で活躍!」という感動のほかにもうひとつ「報われた」という感動もあるからだ。
Travis Japanは、平均年齢25歳のJr.7人で結成されたユニットだ。ユニット名の「Travis」は、振付師のトラヴィス・ペイン氏からつけられている。略称は「トラジャ」。動物の「虎(トラ)」とかけて、虎のグッズを出したり、虎の格好をしたりする(かわいい)。
Travis Japan(トラヴィス・ジャパン)
左から:松倉海斗(まつくら かいと)、吉澤閑也(よしざわ しずや)、七五三掛龍也(しめかけ りゅうや)、宮近海斗(みやちか かいと)、中村海人(なかむら かいと)、川島如恵留(かわしま のえる)、松田元太(まつだ げんた)
ダンス動画の投稿をメインとしたYouTubeチャンネルを開設するほど、ダンスを強みにしている。「かいと」という名前のメンバーがチームに3名もいるため、初心者にとってはここが最初の苦戦ポイントとなる。本人たちはあだ名を使って呼び分けているほか、「かいと」の微妙な呼び方の違いでさえ、誰を指しているかわかるという仲の良さ。
Travis JapanはJr.内のユニットであり、まだデビュー前となる。ほかのJr.内の人気ユニットと同様、自分たちだけのオリジナル曲や衣装が用意され、単独公演でもアリーナ規模は容易に埋めるが、ジャニーズでは基本的に「CDを出すこと=デビュー」。2021年に行なわれた主演舞台の会見では「来年(2022年)の寅年、デビューするぞ!」と宣言し、ファンとともにデビューを目指している。
どのくらい人気になれば、年数を重ねればデビューできるかが明確に決まっているわけではないため、同期や後輩、時には事務所に入ってまだ数か月の子が先にデビューすることも。このデビュー要件の不確定さこそが長年、Jr.界隈に困惑と同時に熱狂を生み出しているともいえる。
Travis Japanの場合、所属歴や年齢が近いメンバーの多いグループとしてSnow ManやSixTONESがおり、3組でイベントを開催したこともあった。しかしこのうちSnow ManとSixTONESだけが、2019年8月、多数のJr.が集まるライブ中に、サプライズでデビュー発表を行なったのだ。
当日、私もその会場内にいたが、(オタクの勝手な妄想だと思ってもらっていいが)、その日のパフォーマンスからは悔しさや熱意、気迫のようなものを感じた。そして、彼らの気持ちを勘ぐり、泣いたことを覚えている。
後に配信されたバックヤードでの映像を見ると、メンバーは悔しさから号泣していた。この件についてリーダーでもある宮近が発した「残酷さもエンターテイメントになるし、ドラマになる」という言葉はJr.ファンの間で話題になった。
そして、「次に続かなくては」と自分たちを鼓舞してきたなかで、2年後には「なにわ男子」のデビューが発表されることとなった。
Jr.内での人気を表すひとつのものさしとして、雑誌『Myojo』(集英社)が毎年行なう「Jr.大賞」という企画がある。これは、雑誌についてくるハガキを投票券として、読者投票により決定する人気ランキング。キャリーケース片手に数十冊をまとめ買いするファンも現れ、購入制限を設ける書店も出るほど盛り上がる、年に一度のイベントとなっている。
「Jr.大賞」にはいくつかの部門があるのだが、なかでもとりわけ「恋人にしたい部門」が実質的な「人気」を測る部門と一部では言われており、過去には亀梨和也(KAT-TUN)や山田涼介(Hey! Say! JUMP)、中島健人(Sexy Zone)といった面々が1位を獲得してきた。
今年2月に発表された2022年度の「Jr.大賞」では、昨年度まで3連覇を果たしていた西畑大吾(なにわ男子)がデビューと同時に本企画から抜けたことで、誰が1位を獲るか注目されていたのだが……そのとき1、2位を獲得したのが、なんとTravis Japanのメンバー。さらには9位までに7人全員がランクインする結果となった。
2022年が寅年であることや、「Jr.大賞」で上位を占めたことからも、「次のデビューはTravis Japanだ」と考える人も増えてきていた。ところがそんな状況のなか、3月に急なアメリカ行きが発表され、ファンを困惑させた。
「パワーアップして帰ってくる」というような彼らの発言から、前向きな留学や修行ととらえるファンもいたなか、帰国予定が未定とされたこともあり、「島流し」や「左遷」という厳しい言葉をつかう人もいた。
「なぜTravis Japanだけがこんなにも多くの壁を乗り越えなくてはいけないのか」と嘆く投稿もあった。私のSNSにも、Travis Japanファンの方から、以下のようなさまざまな文章が寄せられた。
・デビューのための下準備であることは理解できるものの、もうデビューできなくてもいいから会いたい
・かえってデビューが先延ばしになっているのでは
・ぶつける先のない怒りや悲しみで泣いている
ただし、アメリカ行きがジャニーズにとって特別な意味を持っているという点は押さえておきたい。初代ジャニーズ(ジャニーズ事務所から最初にデビューしたアイドルグループ)も、人気が伸びてきたなかでアメリカに行っており、「なぜこのタイミングで!?」という会話があったことが、後に語られている。また、KAT-TUNもデビュー前にカリフォルニアでのイベントに登壇。アメリカという場所は、昔から左遷先ではなく、武者修行の場として使われてきているのだ。
たしかに、アメリカでの修行期間があるぶん、デビューは先延ばしになっているのかもしれない。しかし、彼らがいつかアメリカで名を挙げてくれることを……と未来に思いを馳せていたタイミングでの『America's Got Talent』出演だった。
Travis Japanが番組で披露した“夢のHollywood”は、「夢ハリ」と呼ばれファンの間で長らく愛されてきた、彼らのオリジナル曲だ。Snow ManとSixTONESのデビューが発表された直後にも披露しており、さまざまな思い出が詰まっているため、アメリカで歌われたことはあまりにもエモすぎた。ちなみに、日本の公演では「横アリのドリームステージ」など開催会場にあわせて歌詞を変えることもあるため、アメリカで「ハリウッド」と歌う彼らを見て、夢の舞台に近づいていることを実感した。
パフォーマンスには、完璧なフォーメーションでシンクロするダンスや華麗なアクロバットなどトラジャの良さが詰まっていて心を打たれた。いままで培ってきたTravis Japanの強み、Travis Japanらしさでぶつかってくれたからこそ、彼らの頑張りを第三者がフラットな視点で称賛してくれたと感じられた。私が言うのはおこがましいが、「認められた! 報われた!」という感じがした。
デビューできないのは、人気や実力のためではなく、あくまでもタイミングや制度の問題であるとも思えた。彼らのバックボーンを一切知らない客席があれほどまでに熱狂してくれたことは、彼らのパフォーマンスが「残酷さ」を乗り越えて、昇華されたエンターテイメントになっていた証だろう。
ジャニーさんがずっと勝負をしたかったアメリカで活躍できるユニットとして、Travis Japanは残されていたんだ。勝負できる機が熟したからアメリカに行けたんだ! と筆者も前向きな気持ちになれている。
しかし、これが「ゴール」ではない。いまだに帰国する時期などは伝えられておらず、今回の出演でデビューが確定したわけでもなさそうだ。彼らの一番の目標は「日本でのCDデビュー」であり、海外での活躍はあくまでも過程にすぎない。
デビュー前から応援できる楽しさこそ、ジャニーズJr.という制度の真骨頂でもあるので、この機会にTravis Japanを知った方には、今後ともデビューに向かって進む彼らを応援していただきたい。「残酷さ」や光も飲み込んで進化し続ける彼らのエンターテイメントに、どんな色が増えていくのか楽しみで仕方ないのは私だけではないはずだから。