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震災から11年。石巻に思いを寄せるアートイベント『Reborn-Art Festival 2021-22』後期が開幕。見どころを紹介

2022年09月02日 12:10  CINRA.NET

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Text by 森谷美穂
Text by 石垣久美子

宮城県石巻を舞台とした「アート」「音楽」「食」の総合芸術祭『Reborn-Art Festival 2021-22』[後期]が8月20日から10月2日にかけて開催。

東日本大震災で大きな被害を受けた石巻と、そこで暮らす人々に思いを寄せてきた本イベント。アートを通じて多くの人が石巻の人々や自然、食文化などと出会うことで、地域復興への循環を生み出したい、という願いが込められている。

2017年から2年に1度のペースで行なわれ、3回目の開催となる今回のテーマは「利他と流動性」。実行委員長は音楽プロデューサーの小林武史、後期キュレーターは和多利恵津子と和多利浩一が務める。震災から11年目を迎え、新しい世界へ踏み出す意欲的な作品が数多く発表されている。

会場は石巻市街地から牡鹿半島まで5つのエリアで構成されている。今回は、そのなかから3つのエリアをピックアップしてレポートする。

牡鹿半島のつけ根にあたる渡波。静かな住宅街のなかにある旧水産加工場に、印象的な2つの作品が展示されている。

一つ目は、美術家、彫刻家・小谷元彦の作品『サーフ・エンジェル(仮設のモニュメント2)』。今回の『Reborn-Art Festival』(以下、RAF)のキービジュアルとなった天使の像だ。その姿には震災当時、石巻に支援にやって来た数多くの人々の姿が重ねられているという。

台座を含めると高さ約6メートルにもなる巨大な彫刻で、サーフボードに乗った天使は荒波を超えて新しい場所へ誘ってくれるかのようだ。

小谷元彦『サーフ・エンジェル(仮設のモニュメント2)』

保良雄による『fruiting body』は石巻で採取した自然物を素材としたインスタレーション作品。渡波の海水を使い、会期中徐々に岩塩がつくられていく。

保良雄『fruiting body』

クジラの骨や流木なども展示されており、長い時間を経て石巻にたどり着いたものたちがこの場所で結合する光景は、時空を超えた遺跡のようにも見える。

約38ヘクタールの広大な敷地を持つ「石巻南浜津波復興祈念公園」。公園のある南浜地区は震災の日、津波とその後に発生した火災、地盤沈下など複合的な被害を受けた場所だ。

2021年3月に復興のシンボルとなる公園として開園したが、普段はあまりひと気がない。キュレーターの和多利姉弟は、「空白の場所になっている公園に、復興と鎮魂のための今後の指針が必要ではないか?」とアーティストたちに投げかけたという。

そこで、造形作家の川俣正が公園内の平地に木組みの塔『石巻タワー』を建設。太陽光発電によって夜に明かりが灯るタワーの姿は、灯台のようにも、堅牢な津波避難タワーのようにも見える。

川俣正『石巻タワー』

公園内の「みやぎ東日本大震災津波伝承館」では、ガラスの壁面を使ってつくられた弓指寛治の作品『半透明な森』が展示されている。

公園で行なわれている植樹活動に心を寄せた弓指が描いたのは、いつか苗が大木となり生い茂る森の姿だ。作品について弓指は「半透明の作品越しに“いま”の光景が重ねて見えるから、この場所に展示する意味がある」と語る。

弓指寛治『半透明な森』

震災によって大きな被害を受けた石巻に対してストリートカルチャーの視点から毎回作品制作をしているSIDE CORE(BIEN / EVERYDAY HOLIDAY SQUAD)。『RAF』3回目の参加となる今回は、防潮堤に囲まれた空き地に『タワリング・バカンシー』という「何も作り出さない工事現場」を立ち上げた。

海のすぐそばにいるのに、高い防潮堤に阻まれて海を見ることも波の音を聞くこともできない。しかしこの空き地で、さまざまな場所から集められた音が渦を巻くように交錯する。そのインスタレーションは詩的で、この場所の現在の姿を五感で感じることができる。

石巻市街地から車で約30分、牡鹿半島のなかほどに位置する桃浦・荻浜エリアは、牡蠣養殖で知られる小さな町。山と森が湾を包むように広がり、穏やかな海に漁船が浮かんでいる。

 

一見のどかな場所に見えるが、近くには女川原発があり、ただ豊かな自然があるわけではない複雑な石巻の現状に触れられる場所だ。

エリアの入口に設置されたのは建築家の藤本壮介による『Cloud pavilion(雲のパビリオン)』。人間がつくった境界線を簡単に超えていく雲は何物にも縛られない自由な魅力を感じさせる。雲の下は人が集ったり、ひと休みしたりできる憩いの場所となっている。

藤本壮介『Cloud pavilion(雲のパビリオン)』

牡蠣の貝殻が敷き詰められた白い砂浜に、第一回『RAF』で制作された名和晃平の『White Deer(Oshika)』が凛とした姿を見せる。

名和晃平『White Deer(Oshika)』

浜辺には「リボーンアート・ダイニング」が設けられ、会期中の週末には食のイベント「セッションダイニング」が開催される。全国から集った料理人たちが、石巻の食材や生産者とセッションするように特別な一皿をつくり上げるスペシャルイベントだ。

リボーンアート・ダイニング

また、会期中には『White Deer(Oshika)』をバックに小林武史やSalyu、青葉市子らが出演する音楽イベント、「回復への音 with White Deer(Oshika)」も開催される。

『RAF』を巡るにはガイドつきのバスツアーが便利。とくに石巻市街地を巡る半日コースは、キュレーター(和多利恵津子または和多利浩一)もしくはアートスタッフによる作品紹介、制作秘話などを聞きながら観覧できる。

※イベント、バスツアーとも事前予約制