2022年09月01日 10:11 弁護士ドットコム
タレントのpecoさんとryuchellさんが、8月25日にそれぞれ自身のInstagramで離婚したことを発表した。
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離婚の理由として、ryuchellさんは「"本当の自分"と、"本当の自分を隠すryuchell"との間に、少しずつ溝ができてしまいました」と述べ、「"夫"らしく生きていかないといけない」と自分自身を縛りつけてしまったせいで「''夫''であることには、つらさを感じてしまうようになりました」と吐露した。
2人の今後については「これからは"夫"と"妻"ではなく、人生のパートナー、そしてかけがえのない息子の親として、家族で人生を過ごしていこうね。という形になりました。もちろん、今まで通り家族で暮らします 」とも投稿。
一方のpecoさんは「戸籍上でも、夫婦ではなくしても家族という枠にいられるよう、今最善の方法を見つけて進めようとしているところです。」「これからも人生のパートナーとして家族として、いっしょにいたいと思えるし、これからも今まで通り3人で暮らしていきます」として、離婚後も家族としての関係は続くことを明らかにした。
ただし「いわゆる ''普通の家族'' ではないかもしれないけれど」とペコさんが書いたように、法律婚の下に同居する両親+子どもというわかりやすい家族とは異なる形を選択した2人。もし仮に同居するとすれば、実際は「事実婚」とも変わりないように見えるが、法的にはどのような関係と言えるのだろうか。加藤寛崇弁護士に聞いた。
ーー離婚後も同居を続けることで、法律婚を解消したあとは、事実婚となるのでしょうか。どのようなケースで「事実婚」と認定されるのかご指摘ください
婚姻届出をしないが同居して「夫婦」として生活をしているカップルについては、「事実婚」(「内縁」ともいう)として、一定程度、婚姻関係にある場合と同様に扱われることが認められています。
具体的には、法律上の配偶者でなくても、遺族年金の受給者や死亡退職金の受取人になったり、あるいは、内縁関係解消に際して、財産分与や年金分割の請求が認められたりします。
「内縁」とは何かについて、判例では「婚姻の届出を欠くがゆえに、法律上の婚姻ということはできないが、男女が相協力して夫婦としての生活を営む結合」と表現されています。遺族年金等の受給資格を定める法律では、「届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」などという表現が用いられています。
厳密に考えるとどういう場合が「男女が相協力して夫婦としての生活を営む結合」「事実上婚姻関係と同様の事情」と言えるのかというのは、実のところ、難しい問題もあります。
というのも、人々のライフスタイルも多様化しているためです。たとえば、単身赴任などの事情がなくとも同居していない法律婚の夫婦も存在し、この場合に、同居していないからといって婚姻が無効とは考えられないように、どういう場合が法律上有効な婚姻かということ自体が自明ではないからです。
そのような微妙な問題点を脇において考えれば、離婚届を提出したものの、子どもとともに同居を続けて「家族」関係を続けていくのであれば、「事実婚」と扱われることになるでしょう。
離婚届を出しながら同居して「家族」として暮らしていくという点で一般に想定される「内縁」「事実婚」とはやや異なる面もありますが、そうであるからといって「内縁」「事実婚」であることが否定される理由もありません。
離婚届を出しながら同居というのは奇妙に感じるかもしれませんが、意外と、そういう人たちも存在します。
ーー法律婚と事実婚とは法的にどのような違いがあるのでしょうか
法律婚と事実婚の法律上の扱いの差異(主に経済問題に関わるもの)としては、以下のものがあります。なお「ただの同居関係」であれば、法的には何の権利もないことに注意が必要です。
1)相続 法律婚なら、一方が死んだ場合、他方に「配偶者」として相続権がある。事実婚では相続権は一切ない
2)解消の容易さ 法律婚なら、一方が拒否した場合には、裁判の手続きをとらないと離婚によって解消することはできない。事実婚なら、一方的に解消が可能であり、一方的な解消による慰謝料等の賠償責任を負う余地があるだけになる。婚姻費用をいつまで負担させられるかに大きく影響する。
3)婚姻費用 法律婚なら、夫婦仲が悪化して別居するなどした場合、収入の少ない方が、多い方に対して、生活費(婚姻費用)の分担を請求できる。事実婚でも理論上は婚姻費用請求が可能だが、別居に至った時点で、事実婚の関係は解消されたと判断されて請求が認められないことも考えられる。
4)年金分割 法律婚なら、婚姻していた全期間について年金分割を請求できる。事実婚だと、第3号被保険者であった場合(扶養に入っていた場合)のその期間分しか分割請求の対象とならない。共働きで扶養に入っておらず、収入に差があったという場合でも、収入の少なかった側は年金分割を請求できないことになる。
また、「内縁」「事実婚」でも遺族年金等の権利があるものの、現実に支給を申請する場面において、本当に「内縁」「事実婚」だったかという点が問題になると、スムーズに支給を受けられない、最悪の場合は認められない、といったリスクもあります。
私の代理人としての経験ですが、内縁関係であれば支給されることになっている生命保険金について、本当に内縁かどうか問題となり、わざわざ近所の人に陳述書をもらったり、内縁関係の資料を提出したりしてようやく支給された、といったこともありました。
このように、法律上婚姻と同様に扱われるといっても、いざとなった場合に手間がかかったりするなどの不利益もあります。
ーーこの他、定義づけられない「家族」としてスタートする場合、何か気をつけるべき点などがございましたら、ご教示いただけますと幸いです。
上記のとおり事実婚だと何か問題が生じた場合に法律婚に比べて保護されなかったり、権利の実現がスムーズにできない場合があります。
あくまで一般論になりますが、内縁関係の場合には、きちんと当事者で内縁に関わる取り決めをして証拠に残しておくとか、いろいろな場合に備えた対策をしておく方が無難と言えます。 また、仮に、「法律婚」でも「事実婚」でもない独自の「家族」形態を選択したいのであれば、それがどういう家族関係であり、互いにどのような権利義務があるかを明確に取り決めておく必要があります。
【取材協力弁護士】
加藤 寛崇(かとう・ひろたか)弁護士
東大法学部卒。労働事件、家事事件など、多様な事件を扱う。労働事件は、労働事件専門の判例雑誌に掲載された裁判例も複数扱っている。
事務所名:みえ市民法律事務所
事務所URL:https://miecitizenlaw.com/