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トヨタ「シエンタ」が新型に! ホンダ「フリード」との勝負の行方は?

2022年08月29日 12:02  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
トヨタ自動車が新型「シエンタ」を発売した。フルモデルチェンジでTNGAを初採用し、先進の安全装備も充実。ハイブリッドならリッター28.8km/Lの燃費も魅力だ。ライバルのホンダ「フリード」と激しく競い合うシエンタだが、新型はどう変わったのか。


○TNGA採用による長足の進歩に期待



トヨタの小型ワゴン「シエンタ」がフルモデルチェンジして3代目となった。前回のモデルチェンジは2015年だったので、7年ぶりの新型だ。



とはいえ前型は古さをあまり感じさせず、販売実績は2022年7月こそ2,000台水準となったものの、同6月には4,000台を超えていた。1~6月の累計販売台数は2万5,861台で、登録車のランキングでは11位に位置している。



シエンタの競合車とみられるホンダ「フリード」は、現行車(2代目)が登場してから6年となるが、シエンタの上をいく販売台数となっている。今回の新型シエンタは、トヨタの販売店にとってよい刺激になるのではないだろうか。


新型シエンタの車体寸法は前型と同じく5ナンバー車だが、やや背が高くなっている。2列シートと3列シートの選択肢があり、3列シート車はミニバン的に使える。



動力は1.5Lのガソリンエンジンに加え、1.5Lガソリンエンジンにモーターを組み合わせたハイブリッドを用意する。エンジン車とハイブリッド車(HV)の差額は35~53万円ほど。差額は結構大きいのだが、ガソリン価格が高止まりしている今のような状況下では、長距離移動が多い人なら特に、HVのよさが実感できるだろう。WLTCの燃費性能はエンジン車が18.4km/L(2WD)、HVが28.8km/L(2WD)だ。長距離移動があまり多くない人でも、HVならガソリンスタンドに行く回数が大きく減る可能性がある。



技術的側面では、トヨタが「ヤリス」で使い始めたコンパクト車向け「TNGA」(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)が適用されている。走行性能のみならず、快適性も大きく進化しているはずだ。TNGAを採用した新型「アクア」が格段の進歩を遂げたことからも、新型シエンタへの期待は高い。

○車内は広く、乗り降りはしやすく



トヨタは新型シエンタを開発するにあたり、所有者の声を十分に聞いて改良し、室内空間をいっそう磨き上げたという。室内は天井までの高さが2cm高くなり、頭の横方向の空間にも前型に比べ6cmの余裕が生まれている。荷室の天井も2cm高くなった。荷室に荷物などの出し入れをするリアゲートは、開口部の高さを1.5cm高くし、背の高いものを載せやすくした。



2列目の座席のアレンジでは、背もたれを前に倒した際、より平らな荷室の床を広げられるようにした。例えば車中泊する場合でも、これならマットを敷いてより快適に寝られそうだ。

後ろのスライドドアは従来通りだが、開口部の高さは6cmアップの1.2mに。子供だけでなく、大人も体をあまり屈めずに乗り降りできるようになった。高齢者にも嬉しい改良だ。最上級グレードでは、キーを持って前席付近の床下に足を差し入れると、自動でスライドドアを開閉できる仕組みが標準装備(オプション設定の車種もある)に。これにより、子供を抱きかかえていたり、両手に荷物を持っていたりするときも、後席に容易にアクセスできるようになる。

○デザインはフランス風に?



前型のデザインでは、あたかも歌舞伎の隈取りのような要素を取り入れたフロントフェイスに驚いたものだが、新型では造形を一新。それでも、どこかシエンタらしさを感じるのは、全体的な輪郭がもたらす印象のせいかもしれない。造形の質感は1段上がった感じだ。



フランス車のような雰囲気もあると思った。シトロエン「ベルランゴ」に似たところがあるし、日本でもよく見かけるワゴン車のルノー「カングー」も外観の造形にこだわりがある。こうした実用性の高い小型ワゴン車はフランスで人気がある。合理性を求める国民性ならではの特徴だ。同時に、造形に凝るのもフランスならでは。そうした雰囲気を新型シエンタにも感じた。5ナンバーの実用性を追求したワゴン車とはいえ、決して貧相ではない。むしろ、デザインで新型シエンタを選ぶという人も増えるのではないだろうか。


ボディカラーは7色のモノトーンが彩り豊か。ベージュやカーキといった色合いがフランス車風の印象をより強くするのかもしれない。2種類の2トーンも選べる。



室内からの見晴らしはよさそうだ。ダッシュボードの上面を平らにし、横へ広く視野を広げたつくりは昨今のホンダ車の前方視界の改良に似ている。単に見通しがよいだけでなく、車幅感覚もつかみやすいだろう。ダッシュボード中央には、大画面のナビゲーションがある。



室内を見渡したときに伝わってくるのは上質さだ。この点も、単なる実用性重視のワゴンという雰囲気ではない。ファブリック表皮の座席は汚れにくい処理がなされているという。



日本では今、5ナンバー車の選択肢が減っている。そのなかで、売れ筋の小型ワゴンであるシエンタの新型は、暮らしやすさだけでなく、心地よく日々を過ごすための質感が大きく改善しているように実車を見て思った。



安全性については「トヨタ・セーフティ・センス」と名付けられた機能が全グレードに標準装備となった。ただし、アクティブハイビームシステムやドライバー異常時対応システムなどは、別機能であったり採用されていなかったりする車種がある。それでも、自動ブレーキや車線維持など、運転者の不安をやわらげる支援機能が標準装備となることで、予算に応じた車種選定であっても、暮らしに役立つクルマとしての安心は確保されるだろう。



前型に比べ、車両価格は十数万円高くなったと聞く。だが、TNGAの採用やトヨタ・セーフティ・センスの標準装備などを考えると、費用対効果に満足できるのではないだろうか。まだ試乗していないが、乗ってみたいという気を起させる新型シエンタである。



御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら(御堀直嗣)