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スズキに聞く新車「スペーシア ベース」開発の狙い

2022年08月26日 11:21  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
スズキが新型軽自動車「スペーシア ベース」を発売する。軽乗用車の「スペーシア」を基としつつ分類上は商用車とし、広い荷室を確保した新しい軽自動車だが、開発の狙いや造形上のこだわりは。エクステリアデザイン担当の服部泰幸さんとインテリアデザイン担当の粒来(つぶらい)広さんに話を聞いた。


○色の選択次第で全身真っ黒なカスタムカーに?



マイナビニュース編集部:キャラに合ったデザインになっていると思いますが、スペーシアとの差別化についてはどのような工夫がありますか?



服部さん:スペーシアには「カスタム」と「ギア」があり、今回で4タイプ目です。スズキとしては商用車の王道として「エブリイ」があり、ファミリーユースの王道としてはスライドドアのスペーシアがありますので、いいとこ取りをして、新しいジャンルを作りたいと考えました。


服部さん:スペーシアをベースとしつつ、商用車らしさを出すため黒い部品を作ることにしました。それでCGを作ってみたんですが、標準のスペーシアの顔だと悪くはないんだけど、少しインパクトが弱い。ギアだと丸目ですから、それが主張してギアっぽさが抜けません。そこでベースにしたのがカスタムです。



カスタムはメッキの大きなグリルが印象的なんですが、ベースを開発する中でヘッドランプの中まで黒くすることが技術的に可能だとわかったので、ライトを含めグリル全体を黒にしました。これによりカスタムらしさがなくなり、既存の3タイプとは違う印象のクルマができたんです。


服部さん:商用と乗用のハイブリッドのクルマを作りたいという思いもありました。商用車は大体、白とシルバーの車体色があって、黒のバンパーが付いている印象です。ベースは新しい商用車として、その印象を残しつつ違いも出したかった。だから黒い部分を艶消しの黒ではなくてブラックパールにしたり、ヘッドライトもリアコンビランプも黒くしたりしました。ホイールも「鉄チン」に見えると思うんですが、ブラックパールで塗装しています。商用車っぽくもあるけど、見たことのないクルマを目指しました。



編集部:商用車らしさを主張するディテールが随所にあるようですが、いわれなければ商用車とは思えないような見た目ですよね。


服部さん:ヘッドライトの中まで黒いところが推しなんですが、車体色を黒(ブルーイッシュブラックパール3)にすると、ライトもグリルも含めて全部が真っ黒になります。光の具合によっては窓も真っ黒に見えますから、「黒い塊」みたいなんです。世の中にはいろいろなカスタムグレードがありますけど、ここまで黒いクルマは、ちょっとないと思うんです。足元まで黒いですから。街で走っていたら、ちょっとびっくりするかもしれません。



編集部:カスタムといえばシルバーの部品を多くしてギラギラ方向に行くクルマが多いと思いますが、確かに、真っ黒で引き締まった感じのカスタムにも需要がありそうですね。



服部さん:社内のデザイナーからも「出たら買うぞ!」という声がありました(笑)。



編集部:今回の企画はクルマの使い方を考えるところから始まったのかなと思うんですけど、特別なデザインの新車ができたのはよかったですね。



服部さん:リアシートを割り切ったことによる使い勝手も、「商用車」というキーワードがないと、ここまではできなかったと思います。そもそも、乗用車だと法規的に成り立たないのですが、商用車だからこそできたことがそこかしこに詰まっています。

○「ベース」を買えば自宅に部屋が増える?



編集部:内装については?



粒来さん:スペーシアシリーズをベースに使っているので、同じ商用車でもエブリイに比べ、フロントシートの快適性が高いです。そこを確保しつつ、荷室をしっかり使ってユーザーのライフスタイルに合うクルマにしたいと考えました。



シートについては割り切りが必要でした。スペーシア ギアのように4人が乗ってくつろげるようにするには、リアシートの位置をかなり後ろにしなければいけません。それだと、荷室長が短くなってしまいます。ベースは1~2人で乗って楽しむというコンセプトなので、そのあたりは少し犠牲にしつつ、後席はできるだけ前に持ってきました。


粒来さん:目玉はマルチボードでいろいろなアレンジができるところです。



開発の起点となったのは、「リモートワークをクルマでできればいいよね」という発想です。当初、マルチボードについてはPCが乗るくらいのテーブルにすれば十分かなとも思ったんですが、クルマを試作で作ってみて、どのくらいのスペースを確保できるかを確認し、寝てみたり、テーブルを置いてみたりする中で、もう少し大きなボードを使えないかと設計、企画、デザインで議論しました。



FFのクルマだと、フロントシートの背裏からバックドアまでの長さがエブリイよりも短くなるので、車中泊は難しいんです。そこでボードを活用し、フロントシートの背裏からつなげることで寝るためのスペースを確保しました。2人が快適に移動できて、目的地では車中泊ができる。ここは譲れないポイントでした。



リモートワークについては、椅子に掛けるような格好で働くのは少し堅苦しいと感じる方もいらっしゃるかもしれないので、ボードを中段にもセットできるようにしました。



編集部:上段と下段だけでもOKだったところに、あえて中段も作ったわけですね。選べるのは嬉しいことですし、親切ですよね。


粒来さん:上段の使い方としては、バックドアを開けて外からもアクセスできるようにしました。建設現場などでも使っていただけるのではないかと思います。



編集部:ボードの上に資料を広げたりして、ミーティングとかもできそうですね。飲み物や食べ物を置けば、楽しい使い方もできそうです。ボードが大きいので、使い方がいろいろと想像できます。



粒来さん:最初に目標にしたのは事務デスクのサイズです。測ってみると120cm/75cmだったんですが、それくらいあると気持ちよく仕事ができますよね。その寸法を基準に設計した結果、マルチボードは1,130mm/685mmとなりました。



エブリイにも用品でボードがあるんですが、バックドアを開けて外から入れるタイプなんです。それだと雨の日だったり、女性が使う場合だったりに不便なのではないかと思いまして、今回は車内でレイアウトを入れ替えられるようにしました。キャンプ場だと、外に虫がいたりもしますから。



服部さん:スペーシア カスタムではフロントシートが標準だとベンチシートなんですが、ベースではあえてセパレートシートにしてあります。ちょっと跨げばウォークスルーできるんです。これだとドアを閉めたままでフロントシートにもアクセスできるので、保安性は高いと思います。



粒来さん:もうひとつ、ベースには用品で外部給電を用意してあります。バンパーの外側にコンセントを付けて、家から電源を持ってこられるようにしました。キャンプ場にも電源が用意されているところがありますが、これなら家電をクルマの中で普通に使えます。リモートワークにも便利な機能だと思います。



編集部:最近は電気自動車(EV)に乗る機会が多いので、「外部給電」といえばクルマから住宅などに電気を供給することだと思いがちだったんですが、こちらは逆なんですね(笑)。



服部さん:クルマの中でいろいろなことをするための電気です(笑)。テレワークでも、家の中で作業をするのがなかなか難しいという方もいらっしゃると思いますが、駐車場にとめたベースに電気を持ってくれば、車内で作業ができます。ベースはクルマなんですが、移動を前提としない使い方もアリだと思います。



編集部:ガレージにとめたクルマを部屋のように使えるのは、嬉しいですね。デッドスペースの活用みたいな感じもあります。部屋がひとつ増えたようなものですね。



服部さん:庭で車中泊も楽しめます。これまでは考えもしなかったようなクルマの使い方ですが……。


服部さん:ベースの開発が始まったのは3年くらい前で、まだ新型コロナウイルスが流行していなかった時代です。テレワークも、そのころはどこか現実味がなかったんですが、クルマを作っているうちに時代が変わってきて、今ではクルマと時代の変化がかみ合ってきました。クルマの使い方の可能性も広がっています。



編集部:今の社会は誰も想像できなかったと思います。先見の明ですね。



服部さん:偶然の部分も多いんですけどね(笑)。



編集部:もともとクルマでいろんな楽しみ方をしたいという人はいたはずで、コロナがなくてもベースに興味を持つお客さんはいただろうとは思うんですが、社会情勢の変化で状況が変わりましたね。「スズキって、すごくタイムリーなクルマを作るんだな」と思う人も多いんじゃないでしょうか。



個人事業主の方とか、仕事のためと生活のために2台のクルマを持っているケースがあると思うんですけど、ベースなら1台でどちらもできそうです。駐車スペースもコストも半分になれば、とてもお得でしょうね。



服部さん:クルマをビジネスに使うか遊びに使うかは人によっても時間帯によっても変わってきます。1台でいろいろ使えるのがベースです。(藤田真吾)