2022年08月26日 10:01 弁護士ドットコム
熊本県の県道沿い(山道)に、ブルーシートで車をカーテンのように隠せる「駐車場」が8月からオープンしたとして、SNSで話題となっている。
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注目の理由は、駐車場が「ラブパーキング」(通称:ラブP)と名乗り、私有地であることを理由に「ケイサツなどの心配」不要だとうたっているからだ。
駐車場側は性的な行為ができる場所と明言しているわけではない。
ただ、この場所で不適切な行為がなされるのではないかという懸念がすでに持ち上がっている。弁護士はラブPをめぐる法的な問題や警察沙汰に巻き込まれるリスクを指摘する。
話題になっている「ラブパーキング」は、緑深い山道の途中に出てくる「駐車場」だ。熊本県の名所を扱うインフルエンサーが「8月1日に熊本に爆誕したヤバいスポット」としてインスタグラムで取り上げた。
利用者は車で駐車したのち、ブルーシートで四方を囲い、外から中を見られないように利用することができるという。日中は2時間500円、夜間は1回につき1000円の利用料がかかる。
インフルエンサーが管理人に話を聞いたところでは、元々私有地だったところを、「世の男女に少しでも需要があれば」と考えて作ったという。
また「法に触れなければ基本的に何してもらっても構いません!」と答えている。
ラブPのものと思われるSNSのアカウントも稼動しており、その投稿において実際の注意書きも紹介されている。
そこには、
・安い、2時間500円 毎回ラブホテルはちょとねぇ ・安心です 私有地だから、ケイサツや地元パトロールの心配不要です ・囲いがあるから のぞきの心配いりません ・ストレスフリーです 山だから思い切り声が出せます ・夫婦円満のために ・小子化対策の一助になれば光栄です
といった「メリット」をアピールする一方で、
客以外の不法侵入や、のぞき、盗撮が違法であることを警告し、駐車場内のトラブルは「自己責任で解決をお願いします。管理人は関与していません」としている。
ただし、この新名所をめぐって、ネット上では、「カーセックス専門店」「風営法に引っかかる」「覗き集まりそう」などと治安の悪化を懸念するような声が上がっている。
すでに、早朝から「満車」だったと報告するツイートもあった。
はたして、この「駐車場」には何らかの法的問題が存在するのだろうか。元東京地検検事の西山晴基弁護士に聞いた。
——車内で性的な行為をするカーセックスは犯罪なのでしょうか
「不特定又は多数の人が認識しうる状態」(=公然性が認められる場合)でのカーセックスは、公然わいせつ罪に問われる可能性があります。
私が検事として扱った事件の中にも、商業施設の駐車場等に駐車した自動車内で自慰行為等の性的行為を行った者に刑事処罰が科されたケースがありました。
多くは目撃者の通報により発覚しますが、公然わいせつ罪は「性秩序ないし健全な性的風俗」の保護を目的とする罪であるため、目撃者がいなくても立件される可能性があります。
他方で、外からは見えない仕様の窓の車(マジックミラー号等)やカーテン等で外から見えないようにしている車を使用することで、公然性が認められないと判断される場合には、公然わいせつ罪で罰せられません。
——では、ラブパーキングでカーセックスが行われた場合は
ブルーシートによって、周囲からは一見して中の様子を認識することができない構造になっているので、公然性が否定される可能性があるかと思われます。
しかし、その構造は、屋根や施錠設備がないため、上から見ようと思えば見られるし、入ろうと思えば入れるものであり、利用状況(たとえば、カーセックスののぞき行為が常態化しているなど)も踏まえ、実質的に判断して公然性が認められる可能性もあるでしょう。
ラブPにおけるカーセックスの公然性が認められる場合には、利用者が罪に問われうるだけでなく、そうした犯罪が行われる環境を作り、容認している管理者も、公然わいせつ罪の教唆や幇助に問われえるでしょう。
——利用者は警察沙汰を気にすることなく安心して利用できるのでしょうか
そうは思われません。前提として、警察は、捜査を尽くした上で、最終的な法的評価は検事に委ねる立場にあります。そのため、私が検事として扱った事件にもありましたが、警察は、法的評価が分かれる事案についても、検挙して捜査を進めることがあります。
また、ラブPについては、管理者側が「毎回ラブホテルはちょとねえ」「山だから思い切り声が出せます」などと、性行為の場所として推奨するような宣伝をしている点で、警察が問題視しやすいと思われます。
実際に性行為に利用され、かつ、そうした場所と認識されることで「のぞき」の常態化が懸念されるためです。
警察としては、犯罪の温床となるような場所を放置しておくことはできないわけで、公然わいせつ罪が保護しようとしている「性秩序ないし健全な性的風俗」を害するおそれがあると判断すれば、動き出すこともありえると思われます。
のぞきへの警戒から始め、実際にのぞきをした者を検挙するとともに、のぞきが常態化した場合には、管理者を摘発する可能性があるかもしれません。
その結果、利用者も、被害者や参考人として警察沙汰に巻き込まれるリスクはあるでしょう。
「私有地だから、ケイサツや地元パトロールの心配不要」とうたわれていても、犯罪予防のため、警察官職務執行法等に基づく警察の立ち入りは十分にあります。
また、私有地であっても、判例に照らして、犯罪の嫌疑が高い状況と認められれば、一定の立ち入りによる捜査が許容される場合もありえます。
なお、管理者については、警察沙汰になるリスクに加え、そもそも利用者との間での金銭トラブルも考えられます。
管理者がラブPに常駐していないことを良いことに、料金を支払わずに利用しようとする者も出てくる可能性がありますが、その場合、管理者が法的に料金の支払を請求しても、民法上、公序良俗に反する取引であり無効などと判断されるリスクがあります。
【取材協力弁護士】
西山 晴基(にしやま・はるき)弁護士
東京地検を退官後、レイ法律事務所に入所。検察官として、東京地検・さいたま地検・福岡地検といった大規模検察庁において、殺人・強盗致死・恐喝等の強行犯事件、強制性交等致死、強制わいせつ致傷、児童福祉法違反、公然わいせつ、盗撮、児童買春等の性犯罪事件、詐欺、業務上横領、特別背任等の経済犯罪事件、脱税事件等数多く経験し、捜査機関や刑事裁判官の考え方を熟知。現在は、弁護士として、刑事分野、芸能・エンターテインメント分野の案件を専門に数多くの事件を扱う。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/