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教員の残業代訴訟「無賃労働で恩恵を授かっている人は誰ですか」原告が訴え 控訴棄却

2022年08月25日 19:01  弁護士ドットコム

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教員の時間外労働に残業代が支払われていないのは違法だとして、埼玉県内の市立小学校の男性教員(63)が、県に約242万円の未払い賃金の支払いを求めた控訴審判決で、東京高裁(矢尾渉裁判長)は8月25日、請求を棄却した一審・さいたま地裁判決を支持し、控訴を棄却した。原告側は上告する方針。


【関連記事:公立小教員の残業代訴訟、控訴棄却 原告の男性「判決を最高裁に委ねます」上告方針】



高裁判決は、地裁判決とほぼ同様の判断を示した。判決後、会見を開いた男性は「現場の先生たちは世間から自主的だと言われて遅くまで働かされている。本当に仕事ではないのでしょうか。教員の無賃労働に対する恩恵を授かっている人は誰ですか。これからもこのままでいいと思いますか。みなさん一人一人が考えてほしい」と訴えた。





●争点は?

1972年に施行された「給特法」により、公立学校の教員には時間外勤務手当と休日勤務手当が支払われないことになっている。その代わり、基本給の4%に当たる「教職調整額」が支給されている。



「原則として時間外勤務を命じない」ことになっているが、正規の時間を超えて勤務させることができるのは、生徒の実習、学校行事、職員会議、災害など緊急事態からなる「超勤4項目」に限るとされている。



男性は2017年9月~18年7月までの間、校長の違法な時間外勤務命令によって、労働基準法32条に定める法定労働時間を超えて時間外勤務をおこなったとして、約242万円の割増賃金の支払いを求めていた。



裁判の主な争点は、(1)校長が教員に「超勤4項目」以外の事務について時間外勤務を命じた場合に労基法37条に基づいて割増賃金を請求できるか、(2)法定労働時間を超えて労働させることは国家賠償法に基づく損害賠償請求が認定されるか、だった。



●裁判所の判断は?

裁判所は、1つ目の争点について、教員の職務の特殊性から「教員には一般労働者と同様の定量的な時間管理を前提とした割増賃金制度はなじまない」と指摘。「給特法は超勤4項目に限らず、教員のあらゆる時間外での業務に関し、労基法37条の適用を排除している」と却下した。



2つ目の争点について、以下のような場合に国家賠償法上違法になるという判断枠組みを示した。



<教員の所定勤務時間の勤務状況、時間外勤務などをおこなうに至った事情、時間外勤務で従事した業務内容、その他の諸事情を総合して考慮し、給特法の趣旨を没却するような事情が認められる場合に、校長がそのことを認識、あるいは認識可能でありながら、その違反状態を解消する措置を執ることなく、法定労働時間を超えて労働させ続けた場合>



その上で、男性の事例について、校長が男性に時間外勤務を命じたり自由意志をきわめて強く拘束するような形態で勤務時間外における事務などをさせたりしたことはなかったと指摘。



男性の労働時間は、繁忙期の月に労基法32条の法定労働時間を超過しているものの、それが日常的に長時間にわたり、時間外勤務をしなければ事務処理ができない状況が常態化していたとはいえないため、校長にがただちに労基法32条違反を認識し、あるいは認識可能であったとはいえず、校長の注意義務違反を認めなかった。



●「時間外勤務を労働として認めるか、認めないかが問題」

給特法をめぐっては、「定額働かせ放題の法律」だとして見直しを訴える声も上がっている。ただ、男性は「給特法に問題があるのではなく、給特法の解釈の仕方に問題がある」と指摘する。



「給特法を廃止あるいは改正しても、すぐに教員の長時間労働の問題は解決しません。給特法下では、時間外勤務に対しては勤務時間の割り振りをしっかりおこなうことになっています。しかし、そもそも時間外勤務が生じても学校長が仕事の存在を認めていません。教員の時間外勤務を労働として認めるか、認めないかが大きな問題です」





代理人の若生直樹弁護士は「教員の職務特殊性を教員にとって不利益に捉えており、労基法の最低条件を守らなければいけない点を認めなかった点は不当だ」と話した。



埼玉大学教育学部の高橋哲准教授は「学説上、教員の労働時間と一般労働者の労働時間は違う基準があると言われてきたが、教員も給特法があろうが、使用者の指揮命令下にあるかどうかという最高裁判決に基づいて認定すべきとしたことは意義がある」と指摘。



また、男性の場合は認められなかったが、「月45時間もの時間がタダ働きとされていて毎月恒常化されていたならば、国賠法上の違法にもなりうるという視点を示しているのは重要なポイントだ」と話した。