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フリーランスの法的保護「かわいそうな人扱いされると議論が歪む」 フリーランス協会・平田代表が語る課題

2022年08月24日 10:21  弁護士ドットコム

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フリーランスの働き方に注目が集まり、その法的な保護をどうするのかが議論になっている。岸田文雄首相が、新たな保護策を定めた新法の早期制定を打ち出すなど、具体的な動きにもなっている。


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ただ、フリーランスは多種多様な存在であるにもかかわらず、どういう働き方なのかが整理されないまま、議論が繰り広げられている面もある。



フリーランスのための環境整備やコミュニティ構築に取り組んできた「プロフェッショナル&パラレルキャリア フリーランス協会」の平田麻莉代表理事は、「メディアが『フリーランスはかわいそうな人たち』というレッテルを貼ることも多く、議論が矮小化されています」と指摘する。



設立5周年を迎えたいま、どんな問題意識を持っているのか、詳しく聞いた。(編集部・新志有裕)



●自律的に働くフリーランスと準従属労働者は違う

ーーフリーランスをめぐる議論のどこに違和感がありますか。



フリーランス協会としては、フリーランスは事業者であって、自律的な働き方であると考えています。個人事業主や、会社の一人社長、雇用労働者の副業としての業務委託など、様々なパターンがあります。





しかし、雇用類似、準従属労働者と言われるような人たちに労働者の権利がないことが、フリーランスの問題としてメディアでクローズアップされることが多くなっています。



しかも、メディアを通じてフードデリバリー配達員に注目が集まっていますが、私たちの調査では、フードデリバリーを専業でやっている人は多めに見積もっても4万人から6万人で、フリーランス全体の1%程度です。



準従属労働者については、例えば、放送やエンタメ、軽貨物などの業界で起きている問題であって、決して新しい問題ではありません。



これはフリーランスの問題というより、実態が雇用されている労働者に近いのに、個人事業主として扱われているという「偽装請負」の問題なんですね。だから、雇用類似の人たちの労働者性が認められて、法的に救われるというのは大切なことなんですけど、それ自体はフリーランス全体の抱える問題とは直結しないんです。



フリーランスには、契約トラブルや社会保障のように、自分で能動的に意思決定して、事業者として独立すると決めていてもなお、立ちはだかる問題があるんです。



ーーなぜそのような見え方になっていると考えますか。



「かわいそうなストーリー」を取り上げたがるメディアと、フリーランスを取り込んで支持基盤を拡大したい労働組合の戦略があると思っています。



フリーランス協会にも、メディアから、「かわいそうな人を紹介してほしい」「搾取されている人を紹介してください」といった相談がたくさんきます。



メディアがそのように考える背景には、その方が視聴者の耳目を集めやすいという事実と、最も悲劇的で同情を集めるエピソードを選りすぐって、いかにもみんなの問題であるかのようにアピールする労働組合の広報戦略があります。



そういう手法を取ることも自由ですが、フリーランス協会では、n=1のエピソードではなく、常にデータのエビデンスに基づいて全体を語るということを重視しています。政治家も報道をみて、「不安定でかわいそうな人たちだ」という前提で私たちのところにヒアリングにくるので、データで実態を示すようにしています。



●働き方に中立なセーフティネットにしてほしい

ーーでは、フリーランス全体が抱えている問題というのはどのようなものでしょうか。



一般的にフリーランスの課題とされる問題には3種あります。まずは、出産・育児・介護のセーフティネットや健康保険、厚生年金、労災保険など、働き方を問わずに誰もが抱えているライフリスクに関する対策です。



そして、契約条件の明示や、契約が守られるか、ハラスメントを防げるかといった業務トラブル対策があります。



さらに、労組系の方々からは失業保険や最低報酬、労働時間規制といった、決まった時間内に安定的に収入を得るための事業リスク対策に言及されることもありますが、フリーランス当事者の中では事業リスク対策の必要性については賛否両論あります。





そこでフリーランス協会としては、ライフリスク対策と業務トラブル対策に絞って、働き方に中立なセーフティネットやルール整備を求めてきました。業務トラブル対策については、国が昨年3月に発表したフリーランスガイドラインにも盛り込まれています。



ただ、ガイドラインだと実効性に欠けるため、契約条件の明示に関してだけは絶対に法制化してほしいと要望し、現在フリーランス新法の立法化が検討されています。



ーーライフリスク対策については進んでいるのでしょうか。



手つかずになっています。今の社会は、会社と個人を結びつけた前提で、社会保険料や税金を徴収する仕組みになっていて、会社に属していないフリーランスは、確定申告を含めて、自分で手続きをする仕組みになっています。



私は、ごく一部のフリーランスに被用者性(労働法が適用される労働者であること)を認めて、会社に紐づけるのではなく、会社員でもフリーランスでも、個人と企業を紐づけずに徴収する仕組みがいいと思っています。



そうじゃないと、社会保険料の労使折半がある会社員と、フリーランスの間での格差が広がるだけでなく、体力のない企業で社会保険料逃れのための偽装請負が横行したり、悪意が無くても副業・兼業人材を活用する企業は副次的に社会保険料逃れができてしまうという企業間格差が広がってしまいます。



売上や利益など企業の実績に応じて、社会保険料相当の税金を払う形にすれば、もっとフェアになると考えています。



ーー格差として問題視されている代表例として、育児休業給付金がありますよね。会社員は給料の3分の2がもらえますが、フリーランスの人はありません。ただ、そのような格差を解消しようとした場合、日本全体で社会保険の原資が一定なんだとしたら、会社員がもらっている分を削るという話にはならないのでしょうか。



それは違いますね。例えば、育休給付金の原資となる雇用保険について言えば、フリーランスは入ろうとしても入れないんですよ。調査をすると、年間4万円弱の保険料を支払うことになっても、7割が入りたいと答えています。自分たちも払うから入れてくださいというだけの話です。フリーライドするつもりは毛頭ありません。



国民健康保険は赤字だという話をする人もいますが、それはフリーランスのせいではなくて、無職の人とか、高齢者と同じプールに入れられているからです。



限られたパイを奪い合うということではなく、相応の負担はするつもりもありますし、発注者である企業に負担させようとも思っていません。セーフティネットを働き方に中立にしてほしいというのは、設立当初から言っている「一丁目一番地」の話です。



●正社員が一番幸せで安定していると信じていることがリスク

ーーただ、労働法の保護がある被用者性によらない制度を追い求めていくと、結局は雇用された「会社員」というものが消滅していくことにならないでしょうか。



みんなが会社員ではなくなるかというと、そうでもなくて、どこかに所属して誰かの指揮命令を受けていたい人が大半だと思います。



自分で全部意思決定して、日銭を稼ぐことを楽しめる人にとっては、フリーランスはすごくチャレンジングでやりがいもありますが、疲れてしまう人の方が多いでしょう。



私は別にフリーランスを増やしたいわけではありません。会社員の方がいいという人も絶対にいるでしょうし、人生のステージに合わせて会社員とフリーランスを行ったりきたりできるように、選択肢が広がる社会にしたいんです。



ーーそれでも、良くも悪くも日本人の正社員志向は強いものがあって、政策形成の力学が雇用労働者の方に向いているので、簡単には変わらないのではないでしょうか。



それはその通りですね。ある労働関係の集まりで講演をした際に、「フードデリバリーの人たちも別に労働者になりたいと思っているわけではないし、自己責任だと考える当事者もいます」という話をしたら、「せっかく保護してあげようとしているのに、自己責任論を出しちゃう人がいるのが悲しい」と言われたことがあります。



そのときに、会社に雇われることが一番の幸せであり、正義だと思っている人は、会社を信じているんだなと思ったんです。でも、私たちの世代は、会社にそんなに信頼を置いているわけではないですし、正社員でいれば生涯安泰だとも思っていません。



正社員が一番幸せで安定していると信じている人は多いですが、私はそれが一番のリスクだと思っています。学び直しなどの自己投資もせず、言われたことを言われたとおりにやるだけで年功序列と終身雇用を信じていたら、梯子を外される、という時代です。



ーーただ一方で、世界を見ると、ギグワークも含めて、労働者としての保護を求める動きは結構活発になっているのではないでしょうか。



海外の場合、ギグワークが他の仕事に就けない移民の人たちの生活の糧になっている面もあって、日本とは少し事情が違うんじゃないでしょうか。



日本に限った場合、専業の人はマイノリティで、収入補填や自己投資を目的とした副業が多いという構造があります。



たとえば同じフードデリバリーでも、雇用される形のバイト募集もたくさんある中で、割がいいからあえて業務委託を選んでいるという面もあります。そういう国内での具体的な事情をちゃんと見ることが重要ではないでしょうか。



●会社員とフリーランスの境目がグラデーションで近づくことが理想

ーー協会設立から5年を経て、今後の展望はいかがでしょうか。



この5年間、フリーランスや副業はかっこいい、といったキラキラした論調と、コロナ禍もあって、社会的弱者として注目されるという両極端な論調が生まれました。ただ、極端なものが伝わるのではなく、メディアや政治家にも、フリーランスの多様性を偏りなく見せていきたいと思っています。



フードデリバリーの人たちにグループインタビューをした際の、「メディアの報道のせいで肩身が狭い」という発言が印象に残っています。偏った伝わり方をすると、誰かを苦しめることになってしまいます。



今後、あえてフリーランスにならなくても、異動も転勤もない限定社員や、週3勤務ができるような働き方改革が進んでいけば、会社員のまま、自分のやりたい働き方が実現する人もいるでしょう。一方で、もっと自律性の高い働き方を求めるフリーランスもいます。



これからは会社員とフリーランスの境目がグラデーションでますます近づいていく、ということは想像に容易い。そう考えたときに、線を引いて、こっちは社会保障があって、こっちはない、とやっていることがナンセンスなので、働く人全てが入れるセーフティーネットを作りましょう、ということを今後も訴え続けたいです。