2022年08月22日 17:51 弁護士ドットコム
上司のパワハラが原因で従業員の男性(当時29歳)が自死したとして、男性の両親が勤務先の日本重化学工業と上司に対して計約1億円の損害賠償を求めていた訴訟の判決が8月22日、東京地裁であった。品田幸男裁判長は原告側の請求を棄却した。
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男性の父親・山口智さん(70歳)が、代理人の尾崎行正弁護士らと記者会見を開き「不当判決で、がっかりしました。控訴して再度判断を仰ぎたい」と述べた。
経理部だった山口さんの長男・天さんは、労働組合の仕事も兼務しており、2017年ごろから短期間に出張が重なるなど、業務が増えていたという。
原告側は、上司から「この休日出勤認めたくねーんだけど」と言われるなどの叱責を受けて心理的な不調を抱えたとしている。天さんは2018年11月の日曜日に自宅から飛び降りて亡くなった。
天さんが不調を訴えて、他の複数の上司に対して異動を希望していたにもかかわらず、休職や部署異動などの対策を取らなかったことが「安全配慮義務違反」に当たると主張していた。
判決は、会社側は「天さんの精神状態になんらかの異変が起こっている可能性」に気づけたとしても、自死につながる精神疾患までは認識できず、危険は予見できなかったと結論づけた。
また、上司の休日出勤に対する発言は「手続きを遵守するよう念を押す趣旨」で、叱責等も不法行為とまでは評価できないなどとし、パワハラと認めなかった。
尾崎弁護士は判決について「行為の事実は認められたものの、パワハラとの評価が得られなかった」と説明し、うつ症状を発症した人がいる場合、周りがより注意を払わなければいけないはずだと訴えた。
天さんが亡くなった2カ月後に会社がつくった第三者委員会でも、パワハラは認められなかったため、両親は2019年12月に提訴に踏み切った経緯がある。労災申請もいまだしていない。
山口さんは「第三者委は、客観性や公正さが担保されていないと感じた。社長や上司から一度も弔意が示されていない」と会社側への不信感をあらわにした。「父親っ子の長男でした。初めて家族の前で長男が泣いたとき、とても驚いた。こんなに悲しい思いを、世間の誰にも二度とさせたくない」と話した。
日本重化学工業総務人事部は弁護士ドットコムニュースの取材に対して「2018年11月に若手社員が亡くなるという痛ましい事案が発生しました。亡くなられた故人に対し、ご冥福をお祈り申し上げ、衷心より哀悼の意を表します。また、ご遺族の方々に対し、改めてお悔やみ申し上げます。判決文の詳細を見て、対応させて頂きます」とのコメントを発表した。