2022年08月21日 09:41 弁護士ドットコム
卑劣極まりない電車内の痴漢は、手に変え品を変え被害者を追い詰めていく。フリーアナウンサーの女性(30代)が最近、遭遇した痴漢は行為を「見せる」手口だったという。
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事件があったのは、8月のある週末の夜9時過ぎ、都内を走る有楽町線の車内だった。広い車両には乗客は7、8人とまばらだったという。女性が乗車して数駅目のこと、乗り込んできた一人の乗客に違和感を持った。
「都心に向かっていたので、ガラガラの車内で、人が座っていないシートもありました。なぜか私の隣に一人分あけて、男性が座ったんです。20代後半から30代前半の髪の毛はボサボサで、デニムにTシャツ、紺と白チェックの半袖シャツを羽織っていました」(女性)
異変に気がついたのは、地下鉄が走り始めてすぐだった。男性は膝上ギリギリに黒い紙袋を置いていた。体との間には30センチほど空間ができている。
「カサカサと紙袋から音がしたんです。腕をかきむしっているような規則的な音でした。あまりに音がするので、ふと男性の方を向いて見たら、男性と目があい、カサカサ音は止まったので、痒かったのかな?と思い、そのままスマホに目を戻したんです」
ところが、カサカサ音は再び始まった。さらに男性から視線を感じるため、横目で男性の方を見ると、にやついた男性と目があってしまったという。異様な笑顔に寒気を覚え、ふと目線を下ろすと、本来であればパンツの中にしまっておくべき下腹部がズボンから出ているのを目撃してしまったのだ。
「あまりのことに言葉なく、体が固まってしまいました。男性は私の方に下腹部をむけ、手を添えてそのまま続けていました。怖いから動けなかったですし、私以外に気がついている人もいませんでした」
しばらく動けなかったが、少し冷静さを取り戻してから女性は、逃げるように途中下車した。ホームにいた駅員に「自慰行為をする男性がいる」と伝えたところ、駅員は窓の外から車内を見るだけで、そのまま電車は発車していったという。
「最寄り駅のトイレに駆け込み泣いてしまいましたし、その日は眠れなくなりましたし、いまだに思い出すだけで吐きそうになります。当面は地下鉄に乗れないです。その男性は堂々とカサカサ音を出していましたし、かなり慣れている様子でした。怖かったので画像や動画を撮ることはできなかったですが、あの人は昔も今も、そして未来も同じ迷惑行為をしていくと思うと、悔しくてたまりません」
触られることはなかったが、心身に深い傷を負ってしまったという。男性の行為に法的問題はなかったのだろうか。坂口靖弁護士に聞いた。
ーーこの男性はどのような罪に問われる行為だったのでしょうか
電車内において、下腹部を露出していた(しかも自慰行為をしていた)とのことであれば公然わいせつ罪となる可能性が高いところになります(6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料)。
また、「公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること」は東京都の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」第5条1項3号でも禁止されているため、同条例違反が成立する可能性があります(6月以下の懲役又は50万円以下の罰金)。
ーーあまりに異様な状況ですから、現実的にはその場で証拠をおさめることは難しかったとは思います。ただ、もし状況が許すようであれば、どのような行動をするのが望ましいでしょうか。
いわゆる痴漢被害に遭遇してしまった時と同様に、その場で直ちに、被害に遭っている事実を周囲の者らに対し申告する等し、被疑者の逃亡等を防止し、被疑者を駅員に引き渡す等の対応を取るということが重要であったように思われます。また、証拠確保の観点から写真や動画撮影する等の対応も考えられます。
ーー女性は精神的なショックが大きく、周りに乗客がほぼいなかったこと、駅員に説明しても対応してもらえなかったことなどから、そのような対応ができなかったそうです。被害者の行動としてはよくあることだと思います。後日になって、被害届を出すことは可能なのでしょうか
被害届の提出は、後日であったとしても理論的には可能です。
しかし、後日の被害届の提出の場合、目撃者の確保や犯人そのものの特定等を含めた証拠が散逸してしまっているため、立件にまで至るということは困難になってしまう可能性が高くなってしまうように思われます。
したがって、可能であれば、被害を受けたその時に、前述のような対応を取ることが極めて重要であるようには思われます。
もっとも、繰り返し被害に遭う可能性がある場合等においては、後日であっても被害届や被害相談をしっかりしておくということは重要ではあります。
その被害相談をきっかけに、同時間帯の車両に私服警察官が乗車し、警戒をしてくれたりする等、同種犯行の抑止や犯人の現行犯逮捕につながる可能性は高まることが期待できます。
【取材協力弁護士】
坂口 靖(さかぐち・やすし)弁護士
大学を卒業後、東京FM「やまだひさしのラジアンリミテッド」等のラジオ番組制作業務に従事。その後、28歳の時に突如弁護士を志し、全くの初学者から3年の期間を経て旧司法試験に合格。弁護士となった後、1年目から年間100件を超える刑事事件の弁護を担当。以後弁護士としての数多くの刑事事件に携わり、現在に至る。YouTube「弁護士坂口靖ちゃんねる」<https://youtube.owacon.moe/channel/UC0Bjqcnpn5ANmDlijqmxYBA>も更新中。
事務所名:プロスペクト法律事務所
事務所URL:https://prospect-japan.law/