2022年08月19日 18:21 弁護士ドットコム
新型コロナに感染して欠席した授業について救済措置が受けられず留年したのは不当だとして、東京大教養学部2年の杉浦蒼大(そうた)さん(20)が8月19日、東大を相手取り、処分の取り消しなどを求め提訴した。
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東大側の抗議文がホームページに掲載(8月5日付、18日付で削除)された後は「詐病だ」などの誹謗中傷にも悩まされ、名誉毀損の損害賠償も求めている。
杉浦さんと代理人の井上清成弁護士らが同日、都内で会見した。理科Ⅲ類の杉浦さんは医師になるのが夢で「過失のない患者への差別で教育の機会を奪われた。いち早く医療を学びたい」と話した。
杉浦さんは8月19日付で単位が不足しているとして進学選択が不可能になり、留年が決定した。留年した場合、10月からの後期授業は受けられないという。
原告側によると、杉浦さんは5月17日に新型コロナを発症し「基礎生命科学実験」の授業を欠席した。高熱や呼吸困難など重篤な症状が続いたため、補講を受けるために必要な欠席届の提出が遅れたのだという。その後、単位不認定とされたことに対し、異議申し立てなどを行ってきたものの、成績は17点大幅に減点されるなどしたと訴えている。
こうした経緯が東京新聞などで報道され、杉浦さんが8月4日に会見で説明すると、これに対し、東大側は8月5日付でホームページに教養学部長名で、東京新聞に対する抗議文を公表した。
杉浦さんが期限までに欠席届を出せなかったことについて「5月17日にシステムにアクセスしているため、所定の手続きを取れないほど重篤であったとは認めがたい」「コロナ欠席であろうとなかろうと、所定の手続きを踏まなかったことが問題なのです」と説明した。なお、この文章は原告側の抗議により、現在は削除されている。
訴状によると、この授業は約650人が受講し、不認定はほとんどいないという。2回欠席し、2回レポート未提出の同級生も及第点を得ている。
杉浦さんは3回欠席したが、その後に課題も提出しているにもかかわらず、0点とされた。「どうしてなのかを聞きたいので助教に問い合わせるなどしましたが、回答はなかった。教務課に聞いても『成績のことは教員に』と、たらい回しのような状態になりました」
1カ月半にわたって理由は説明されなかったにもかかわらず、東大の抗議文には他の生徒と取り違えたなどの弁明も書かれていた。原告側は「コロナ欠席に対するルールは明確ではなく、教員の予断と偏見によって判断されている」と訴える。
この日は、杉浦さんの先輩でもある元東大医学部教授の渋谷健司医師も会見に出席した。
杉浦さんが1年生の時にワクチン接種場で面識があったといい「真面目な学生だとの印象でした。コロナは人によって症状はさまざま。東大側の『システムにアクセスできたから重篤ではない』というのは医学的にもおかしい」と指摘。「かかった人を悪者にする風潮なんてあり得ません」と医師の立場から母校に対し、苦言を呈した。
杉浦さんは「子供のころから、一人でも多くの患者さんの命や健康を守る医師になりたいという思いが強くありました。その志を実現するために東京大学で学ぼうと入学しました。しかし、このような患者差別を受け、抗議の声を上げないわけにはいかないと思いました」と強調した。
杉浦さんは、大学側の抗議文以降、SNSを中心に「詐病だ」「オオカミ少年」などの誹謗中傷が相次いでおり、不眠などに悩まされ体重は5キロ以上減った。最近はSNSを見るのが怖いと明かした。