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ポルノグラフィティ、5年ぶりアルバムがチャート好調 ソロ活動の先に広がった歌のエネルギーと生身のメッセージ

2022年08月13日 19:21  リアルサウンド

リアルサウンド

ポルノグラフィティ『暁』通常盤

参照:https://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2022-08-15/


 夏休みド真ん中のオリコン週間アルバムランキング。1位には櫻坂46の1stアルバム、2位には歌い手・YouTuber めいちゃんの3rdアルバム、3位にはYouTubeやツイキャスなどを中心に活動するユニット Knight A – 騎士 A -の1stアルバムと、フレッシュな顔ぶれが並びます。


(関連:ポルノグラフィティ、5年ぶりアルバム『暁』で意識した“ファンに向けて届けること” 2人が明かす音楽的挑戦


 一見すると何者かほとんどわからないネット発のクリエイターも多いランキングに、突如、ものすごく安心する名前が見つかります。5位のポルノグラフィティ。約5年ぶりとなるニューアルバム『暁』を今回は取り上げたいと思います。


 日本中がその名前を知っている。顔も覚えている。ヒット曲もよく耳にする。ファン以外にも広く知れ渡っているけれど、「アポロ」や「アゲハ蝶」「サウダージ」といったビッグヒットが先行し、ラジオ番組などを詳しくチェックしない限り、岡野昭仁と新藤晴一のキャラクターや言動は音楽よりも前には出てこない。特定のキャラクターを押し出さず、常にマスを狙ったヒットソングを量産。それが二人のプロフェッショナリズムなのだと思っていました。


 しかし新作を聴くと印象が一変。まず岡野昭仁の歌がものすごく強いです。持って生まれた歌唱力をフル回転させながら、リスナーの耳を捕まえて離さない。どんなジャンルであれ“歌っていれば万能”とでも言うようなパワーを感じます。なんでも歌いこなせる人ではあったけど、こんなにエネルギッシュだったでしょうか。


 作詞はギターの新藤晴一が担当していますが、こちらも世間に知られるヒット曲とは少し印象が違います。1曲目「暁」から鋭い言葉が洪水のように溢れ出す。〈血の滴る弱音を吐け醜くとも〉〈絞り出した本音だけが刃となり/体を縛った鎖を断ち切る〉。ダークヒーローの覚悟を描いたこの曲に、思わず『鬼滅の刃』を連想しました。今回のアルバム、ポルノらしさだけでなく、それぞれ個の主張も強いのですね。


 ヒントになるのは、2020年から始まった岡野のソロ活動「歌を抱えて、歩いていく」プロジェクトでしょう。先行してYouTubeとスペースシャワーTVが連動した番組「DISPATCHERS」がスタートし、大ヒット曲一一自分たちの曲だけでなく、LiSA「紅蓮華」やOfficial髭男dism「Pretender」など一一を次々とカバー。また、ラジオ番組のサプライズ出演をきっかけに井口理(King Gnu)との交流も芽生え、本格的なコラボへと発展した「MELODY (prod.by BREIMEN)」。ホームを離れ自らアウェイに飛び込んでいった2年間が、彼を大きく変えたのではないでしょうか。


 発売中の音楽雑誌『音楽と人』2022年9月号に興味深いインタビュー記事がありました。岡野はもともと自分の歌への評価に対してかなり無自覚だったようで、YouTube配信とその反響を経て「やっぱり歌は僕の強みなんだ、っていうのを自覚した」のだとか。20年以上第一線を走ってきたシンガーが、こんなきっかけで自信を得ることがあるのですね。マスを狙ったヒット曲を作り続けることは、時に苦しさや不安がつきまとう作業。しかし今の彼が放っている空気は、明らかに喜びに満ちたものに感じられます。


 まず岡野の覚醒があり、そこに触発されるように新藤も殻を破っていく。それが昨年発表されたシングル曲「テーマソング」です。暑苦しいほどのメッセージ、彼らの曲にはあまりなかった印象ですが、ここで新藤は〈フレーフレー この私よ そしてフレー 私みたいな人〉〈嘘でもいい I can do it I can do it 言い切ってしまおう〉などと直球の言葉を綴ります。もちろんコロナ禍があってのことでしょうが、こういう段階を経て、ニューアルバムにはかつてない生身のエネルギーが注入されていったように思います。


 長らくヒットソングのイメージが先行していたポルノグラフィティに、今回、くっきりとした人間味やメッセージが加わりました。ドラマティックに盛り上がる後半のミドルテンポ「証言」など、かなり感動的。一語一句が深く突き刺さります。私に限らず、イメージが大きく変わる人も多いのではないでしょうか。(石井恵梨子)