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グローバルダイニング訴訟、舞台は控訴審へ 小池都知事の職務上「注意義務違反」の有無が争点に、証人申請再び

2022年08月12日 10:31  弁護士ドットコム

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飲食チェーン「グローバルダイニング」が、東京都から受けた新型インフルエンザ対策特別措置法(特措法)に基づく時短命令は違憲・違法だとして、104円の損害賠償を求める訴訟の控訴審は、8月16日に第1回期日を迎える。


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原審・東京地裁は5月16日、時短命令は違法と判断したものの、都知事の過失はないとして国賠請求を棄却する判決を下した。



原告側は、命令の違法性が認められたことにつき一定の評価をしたものの、過失を認めなかったことは不服だとして控訴。一審で認められなかった小池百合子東京都知事や政府コロナ対策分科会の尾身茂会長などの証人申請をあらためて求めていく。



原告および被告のこれまでの主張に加え、地裁判決の中身をあらためて確認する。(編集部・若柳拓志)



●原審での各当事者の主張

東京都は2021年3月、時短要請に応じなかった7事業者32店舗に対し、2回目の緊急事態宣言が終わる3月21日までの3~4日間、新型インフルエンザ等対策特別措置法(改正特措法)に基づく「時短営業命令」を発令した。



都から命令を受けた32店舗のうち26店舗を運営するグローバルダイニング社は、命令には応じたものの、命令期間終了直後の3月22日に、時短命令は違法だとして、都を相手取り、損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。



原告側は、損害賠償請求が主な目的ではないとして、請求額を104円(1店舗1円×26店舗×4日間)と設定。(1)時短命令は、同社を狙い撃ちしたもので、平等原則に反し、表現の自由及び営業の自由を侵害する、(2)同時短命令は特措法上の要件を満たしていない、(3)営業を一律に制限できる特措法の規定は、営業の自由を侵害しており違憲、などと主張した。



これに対し、都は全面的に争う姿勢をみせ、(1)狙い撃ちや見せしめの目的を否定し、(2)時短命令は特措法上の要件を満たしていることは明らかと主張。さらに、(3)特措法の規定は違憲との主張に対しては、「憲法適合性を審査すべき義務がない」と反論するなど、請求棄却を求めた。



原告側は、緊急事態かどうかの判断や緊急事態措置をおこなうプロセスなどを明らかにするためとして、小池百合子東京都知事や政府コロナ対策分科会の尾身茂会長、東京都コロナ対策審議会の猪口正孝会長、西村康稔前コロナ対策担当大臣などの証人申請。しかし、東京地裁は、客観的事実に関してはすでに出ている証拠等で足りるとの理由で、都知事らの証人採用を認めなかった。



●地裁判決の概要

5月16日の東京地裁判決は、(1)時短命令は原告を狙い撃ちしたなど違法な目的で命令されたとは認めず、(2)命令発出の要件である「要請に応じない」ことに「正当な理由」には経営状況等の理由は含まれないとした。



ただし、命令を発出することが「特に必要があると認めるとき」に該当していたのか否かについては、グローバルダイニング社の夜間営業の継続が市中の感染リスクを高めていたと認める根拠は見出し難いと認定。



当時は新規感染者数が大幅に減少するなど医療提供体制のひっ迫状況も緩和されており、統計学に基づく分析では時短営業による来客数減少で抑えられた新規感染はわずかだったとし、4日間しか効力を生じない時短命令をあえて発出したことの必要性などについて、合理的な説明がされていないとして、時短命令の発出は特に必要であったとは認められず「違法」だと結論付けた。



もっとも、初めての命令が発出された事例において、コロナ特措法の要件に該当しているかどうかを判断するうえでの先例がなかった当時、都知事が、専門家からの意見聴取より、「(コロナのような)弱毒性のウイルスを感染を完全に封じ込めるのは不可能」とする同社側の考え方を優先し、「命令の発出を差し控える旨判断することは、期待し得なかったというべき」とした。



結論として、都知事が今回の時短命令を発出するにあたって過失があるとまではいえないとして、職務上の注意義務違反を否定し、国家賠償法に基づく損賠請求を認めず、原告の請求を棄却した。



(3)営業の自由を侵害するなど「違憲」主張については、命令の違法性の判断で平等原則を事情として考慮していると述べた点を除き、認められなかった。



原告側は、原告の請求棄却という結論に対し、「このままでは納得がいかない」として、判決後すぐに控訴した。



●「裁判所の存在意義が問われる」

8月16日に第1回期日を迎える控訴審でも、原審と同じような点が争われるとみられるが、特に注目すべきは、「都知事が職務上の注意義務に違反したかどうか」という点だ。



原告側は、原審で採用されなかった小池都知事らの証人申請を控訴審でも再度請求している。都側の時短命令に至る判断過程における認識を問う構えだ。



原告側の弁護団長をつとめる倉持麟太郎弁護士は、「原告側の社長は尋問したにもかかわらず、一番肝心な小池百合子都知事の尋問をせず、職務上の注意義務違反を否定するのはおかしい」と強調する。



また、倉持弁護士は、「地裁判決は、時短命令が特措法の要件に適合しているかどうかを解釈する中で、実質的には憲法判断をしていた」と指摘。控訴審では、この憲法判断をするかどうかをめぐり、「裁判所の存在意義が問われるのでは」と話す。



「(地裁判決は)違法だとすれば足りるという判断でしたが、裁判所は個別具体的な紛争解決機関だけであっていいのか。客観的に見て憲法違反があるのであれば、単に紛争解決のためだけではなく、一歩進んで憲法判断するかどうかという点で、裁判所の存在意義が問われるのではないかと思います」