当時、この問題を追いかけていた筆者は、彼のこうした委員会での発言をリアルタイムで、すぐ傍で聞いていた。今回、過去の資料をもとに、こうした発言が飛び出た背景を解説しておきたい。(取材・文:昼間たかし)
自白強要が問題視される中で……
今回、改めて注目を集めているのは、2009年6月26日、児童ポルノ禁止法の改正案が議論された、衆議院法務委員会での発言だ。
このときの議論のポイントは、児童ポルノの「所持」を処罰するかどうかという問題だった。
民主党などの野党案は「所持」を処罰しない代わり、児童ポルノを「みだりに、有償でまたは反復して取得した」場合に処罰する(取得罪)ルールを新設する案だった。対する自公・与党案は「自己の性的好奇心を満たす目的で児童ポルノを所持した」場合に処罰する、というものだった。
このときは、元警察官僚の葉梨氏 vs 弁護士である枝野幸男議員(民主党)の論戦が見ものだった。
民主党の枝野幸男議員は、自己の性的好奇心を満たす云々は「突き詰めれば内心の問題」になるので、自白強要が起きがちになるのでは、という懸念を表明した。その文脈で出てきたのが「自白は証拠の王者」発言。葉梨氏は「自白だけに頼るということじゃなくて、やはり客観的な証拠に基づいて捜査というのはできる」とか、「合理的な自白というのは必要」などと発言しつつも、結局は「自白というのはもちろん証拠の王者ですから、大きな要素として判断されるだろう」という発言をしたのだった。
ちなみに「自白は証拠の王」というのは、16世紀ぐらいからある古い格言ではあるのだが、昨今では逆にそれが行き過ぎて捜査官による「自白強要」が問題視されている。特に2009年当時は「足利事件」という、自白強要・冤罪事件が注目を集めていた。枝野議員がすかさず「やっていないのに、合理性の、つじつまの合う自白をとっているじゃないですか、現実に足利事件で」とツッコミを入れていたのは、そんなタイミングだったからだ。
ちなみに、その後の2012年に起きたPC遠隔操作事件などでも、捜査機関の自白強要による冤罪事件は引き続き発生している。2019年からは「取り調べの録音・録画義務化」が始まったが、義務化の対象は全事件のわずか3%未満となっている。
話題を攫った渾身のイラスト
さて、このときの質問で、どうしても言及せざるを得ないのがこのイラストだ。これは葉梨議員が答弁中に示したもの。独特のタッチで描かれていて、右上には議員の名前もあり、本人が描いたと思われる。
葉梨氏が使用したイラスト
葉梨氏はこうした図を示しながら、「おしりが見えていると(性器等の)強調だというふうには、通常の法令用語あるいは日本語の世界だったら、そうはならないと思うんですけれども」「これはどうなんでしょう」などと議論をしている……のだが、なんというか、まあ、画風?もあって、どんなシチュエーションなのか、わかるようでわからない。質問された枝野氏も、かえって混乱している様子が伺えた。
あまりに印象的だったので、その後の直接取材で絵について質問をしてみると、葉梨氏は「なんでその資料を持っているんだ!?」と動揺していたという記憶がある。
さて、このときは審議未了で与野党案ともに廃案になった児ポ法改正案だが、5年後の2014年に改正法が成立。結局「所持の処罰」は2009年の与野党案が統合されたような、こんなルールとなって導入された。
自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者(自己の意思に基づいて所持するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
さて、そんな葉梨議員が今回、法務大臣になったわけだ。はたして「自白は証拠の王者」というスタンスは、その後変化したのだろうか。そして、我々はまたこの独特のタッチのイラストの新作を見ることができるのだろうか。その行方をしっかりと見守っていきたい。