2022年08月11日 07:51 弁護士ドットコム
交差点での信号待ちを避けて、移動時間の短縮をしようと、交差点沿いにあるコンビニの駐車場を通り抜けて右左折する。赤信号での停止をスルーして、曲がって入ろうとしていた車線に進むことができるこの行為は、一般に「コンビニワープ」といわれる。
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コンビニワープをしようとする車両は通過することだけを目的に駐車場に入ってくるため、安全確認や減速が不十分で、歩行者や他の車両に危険を及ぼすおそれがある。
また、コンビニワープをする運転者は店舗で買い物するつもりなどまったくないため、店側としても他の客に迷惑をかけ、無用なトラブルの種をまくだけの「招かれざる車両」といえる。
自己中心的で危険なコンビニワープだが、法的に問題ないのだろうか。森本明宏弁護士に聞いた。
——コンビニワープは、何らかの道交法違反や刑法犯になるのでしょうか。
道路交通法は、「道路における」危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図ることを目的としています(1条)。
コンビニワープは、民間の私有地であり公道ではないコンビニ駐車場を通過するものですから、その行為自体を直ちに道交法の規制対象とすることは困難です。
しかし、コンビニワープを「公道からコンビニ駐車場に進入する行為」と、それに続く「コンビニ駐車場から公道へ出る行為」と考えた場合、以下の2点が言えます。
公道とコンビニ駐車場の間には、歩道や路側帯が設置されていることが通常です。
公道からコンビニ駐車場に入る場合も、同駐車場から公道に出る場合も、道交法17条2項により、「車両は、歩道等に入る直前で一時停止し、かつ、歩行者の通行を妨げないようにしなければならない」と定められています。
コンビニワープを行う車両は、移動時間の短縮を図ることが目的ですから、歩行者の有無などの安全確認が不十分なまま急いで駐車場を通り抜けることが多く、駐車場を出入りする際に歩道等の直前で一時停止を怠っていることが多いと思われます。したがって、コンビニワープの多くが、道交法17条2項違反に当たると考えられます。
コンビニワープは、コンビニを利用しないにも関わらず、単に移動時間短縮のために駐車場を通過する行為であり、コンビニ経営者からすると、本来の駐車場の利用目的とは異なる利用をされていることになります。
コンビニ経営者が「コンビニワープはお断り」という意思を有していることは明らかです。駐車場の出入り口に「コンビニ利用者以外の通過お断り」などの看板が掲示されているような場合には尚更のことです。
このような場合、私有地であるコンビニ駐車場を所有する、あるいは管理しているコンビニ経営者の望まない形での駐車場への出入りとなりますので、「正当な理由がない」建造物(コンビニ店舗およびそれと隣接し一体となったコンビニ駐車場)への侵入行為として、「建造物侵入罪」(刑法130条前段)に該当するおそれがあります。
コンビニ駐車場への単なる「進入」行為ではなく、刑法130条違反の「侵入」行為と評価される可能性がありますので、注意が必要です。
——コンビニワープはやはり法的に問題がありそうですね。
冒頭で「コンビニ駐車場は民間の私有地であり、公道ではない」と述べました。その一方で、過去の裁判例では、私有地であっても、容易に出入りができて不特定多数の者が行き交う場所は、道交法上の「道路」にあたると判断をした事案もあります。
したがって、例外的に、私有地であるコンビニ駐車場が、不特定多数の者が行き交う場所として、公道ではないものの、道路交通法上の「道路」と評価される可能性もあり得ます。
この場合には、コンビニワープというコンビニ駐車場を通過する行為自体が、「道路」を通過する行為として道路交通法の規制対象となり得ることには注意が必要です。
たとえば、コンビニワープ中に駐車場内の歩行者への危険を及ぼすような速度で進行した場合には、車両の運転者は「他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」と定めた道交法70条の安全運転義務違反と評価されることもあり得ます。
——コンビニワープされる店舗側に、何か対策の取りようはあるのでしょうか。
コンビニ経営者としては、コンビニワープをする車両運転者に対して、前述の道交法違反や刑法犯違反の可能性があることを強く注意喚起する対策が必要となるでしょう。
たとえば、「利用者以外の利用お断り」「通り抜け禁止」「駐車場内の事故防止のため防犯カメラ作動中」などの看板を駐車場出入り口に掲示することが考えられます。
また、ポール等を設置して駐車場内を区切ることで2箇所からのアクセスを可能にしつつ通り抜けられないようにする、駐車場の出入口を1つに限定して通り抜けを一切不可能にするなど、より強力な物理的な対策を講じることもあり得るでしょう。
【取材協力弁護士】
森本 明宏(もりもと・あきひろ)弁護士
愛媛弁護士会所属(2002年弁護士登録)。2010~2011年度、愛媛弁護士会副会長。2020年度、愛媛弁護士会会長。日本スポーツ法学会会員。
事務所名:四季法律事務所
事務所URL:http://www.shiki-law.com/