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劇場版「RE:cycle of the PENGUINDRUM [後編]」幾原邦彦監督、木村昴、荒川美穂、三宅麻理恵座談会 ―劇場版を通して見えた”輪る”の意味

2022年08月09日 18:51  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

『RE:cycle of the PENGUINDRUM [後編]僕は君を愛してる』キービジュアル(C)イクニチャウダー/ピングループ(C)2021 イクニチャウダー/ピングローブユニオン
『輪るピングドラム』の公開10周年を記念し、前後編で制作された『劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM』。本作の後編が2022年7月22日に公開となった。

謎が謎を呼ぶ展開と、無数に張り巡らされた伏線で高い人気を集めたテレビアニメ『輪るピングドラム』。その劇場作品として制作された劇場版『RE:cycle of the PENGUINDRUM』は、テレビシリーズの物語をおさらいしつつも、テレビシリーズのさらに先の物語を描いているということで高い注目を集めた。

そんな本作も、後編にあたる劇場版『RE:cycle of the PENGUINDRUM [後編]僕は君を愛してる』にて完結。その公開舞台挨拶が2022年7月24日、幾原邦彦監督、木村昴、荒川美穂、三宅麻理恵によって行われた。

アニメ!アニメ!では本舞台挨拶直前の登壇者による座談会を実施。10年ぶりに携わる『輪るピングドラム』シリーズ、キャストの面々はいかなる心持ちで本作に臨んだのだろうか。そして、幾原邦彦監督はいかなるメッセージを本作に込めたのだろうか。ファン必見の本記事、堪能してもらいたい。

■キャラクターへの理解度が格段に上がった状態で臨んだ劇場版

――『劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM [後編]僕は君を愛してる』が公開となりました。劇場版シリーズも本作で完結となりますが、今のお気持ちはいかがですか?

木村:ついに来たか、という気持ちが大きいですね。公開されるまで、一刻も早く皆さんにこの作品を見てほしい、皆さんとこの作品を共有したいと思っていました。なので公開されたことが嬉しくて仕方がないです。

三宅:10年ぶりに再会した共演者の方も多かったのですが、当時のままの距離感で接することができたのがすごく嬉しかったですね。

荒川:テレビシリーズの時もすごくあたたかい現場だと感じていましたが、10年経ってもそこは変わらずで楽しく収録することができました。

三宅:テレビシリーズのアフレコの時に、同じセリフを何パターンも収録するということがあったんですよ。収録の段階ではどれがオンエアで使われるかわからない、オンエアを見てからどの演技が使われたのか知るといった感じ。それと同じ経験を劇場版でもすることができたのは、すごく懐かしいな、と思いましたね。

木村:あったあった、「どれが使われるんだろう、どれも使われなかったらどうしよう」ってヒヤヒヤするやつね。

三宅:そのドキドキを久々に味わえました。あれは懐かしい感覚でしたね。

――制作方法にも当時を思い起こさせる部分があったんですね。10年ぶりの『ピングドラム』のアフレコいかがでしたか?

木村:アフレコが始まるまでは、今の自分の演技が幾原監督にどう聞こえるのかが気になっていました。自分ではこの10年で成長したと思っていますけど、監督からしたらまだまだかもしれない、そんなことを思っていましたから。でも、いざアフレコが始まってみたら自分の中にいる冠葉が自然と出てきた感じで、色々なことを意識することなく演じきりましたね。

荒川:陽毬としての新録のセリフはすごく少なかったんです。なので陽毬としては当時と変わらないように演じることを意識しました。対して、プリンセス・オブ・ザ・クリスタルのセリフは録り直していただいたものも多くあったので、そこでは今の私なりの演技を多く入れています。前よりも力を入れてビシッと決める感じで、陽毬との落差を意識しました。

三宅:私は10年前に監督から「役者として色々な引き出しを持ってくるべきだ」というお話をいただいたのをすごく覚えていて、ここ10年で培ってきた演技のパターンを多く持ってアフレコに臨みました。実際にアフレコは監督と相談しつつ、出せるものを出し切れたかな、と思います。ただ、同時にもっと引き出しの量を増やしたいな、という課題にも直面しましたね。

――幾原監督にとっても、10年ぶりとなる『輪るピングドラム』のキャラクターに対してのディレクションだったかと思います。当時との違いはありましたか?

幾原:大きく違いましたね。皆さんも声優として成長しているし、キャラクターに関しては今や僕よりも理解しているところもあると思いますから。

――テレビシリーズの時と比べて、キャストのみなさんがキャラクターのことを理解していたということですね。

幾原:テレビシリーズの収録が始まった時は、キャストの皆さんに物語の全容を伝えていませんでしたからね。キャラクターを理解するにも限界があった。それに対して今回は物語を一度通して演じてもらっている。なので、今回は皆さんがキャラクターを理解してくれているという前提の上でアフレコを進めることができました。

■作品の世界が「僕らの暮らしている世界」と地続きであってほしい

――あらためて、すでに公開となっている『劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM [前編]君の列車は生存戦略』の感想を伺いたいです。

荒川:テレビシリーズの映像がメインで作られている映画で、物語も知っている。にも関わらず途中に新規カットが入ったり、話の順番が入れ替わったりすることで全然違う作品に見えた。そこにまず驚かされました。

三宅:前編は苹果の出番がすごく多いんですよ。それを見ながら、テレビシリーズの時にセリフの多さに驚いたことを思い出しました(笑)。当時の自分の演技を聞くと、自分のいっぱいいっぱいな感じと、苹果ちゃんのいっぱいいっぱいな感じが重なっている感じがしますね。

――印象に残っているシーンはありますか?

荒川:前編の中で冠葉が自分の気持ちを語るシーンが新しく描かれているんです。それを見て、あらためて「冠ちゃん、そんなこと考えていたんだ……」と知れたのは嬉しかったです。

木村:冠葉は自分の気持ちを口にすることがなかったですからね。演じている自分としても、何を考えているかは探り探りだった。それが今回きちんと言葉になったのは印象的でした。

――幾原監督としても、冠葉の気持ちをセリフとして描きたいという想いがあったのですか?

幾原:そうですね。テレビシリーズはミステリーとして、謎を提示して引きを作ることを主眼に物語を描いたんです。でも今回の映画は物語を知って見ている人も多いでしょうから、引きを作ることよりも心情を描くことに主眼を置いている。そうすると冠葉が心情を吐露するシーンも必要になるんじゃないかと思ったんです。

――なるほど、その結果、あのキャラクターに寄り添ったシーンが生まれたんですね。ほかにも、新たに登場した実写映像を使ったシーンも気になったのですが……。

木村:あれ、いいですよね!

荒川:私、テレビシリーズ収録の時はまだ東京に出てきたばかりだったんです。だから東京の街並みが実写で出てきても、それがどこの街並みかわからなかったと思う。それが今なら映った場所もわかるし、それが本作とどう結びついているかも理解できる。そういうところにも10年の時間の経過を感じました。

木村:あそこはやはりスクリーンで見てほしいですよね。もちろんテレビで見てもかっこいいと思いますけど、あの大きさで見てこそ意味があるように思うんです。

――そんな今までと違ったシーンが一番最初にくるのも、今作のポイントだったかと思います。

木村:アニメ映画を見にきたつもりがいきなり実写から始まってね、「見るもの間違えちゃったんじゃないか?」ってびっくりさせられちゃう(笑)。でもそこからアニメに移行することでアニメの良さがまた際立つんですよね。やっぱり幾原監督は天才なんだと思いました。

幾原:僕が天才ってことですか?

――僕もそう思っています。

三宅:あそこに実写を入れた理由は本当に考察しがいがありますよね。

――そこはぜひとも監督から答えを伺いたいですね。

幾原:アニメって二次元で、「僕らが暮らしている世界」と地続きになっている感じがそもそも薄い。そこに実写のシーンを加えることで、この物語が「僕らの世界」と地続きだという印象を強く感じさせたい想いがありました。僕自身、自分たちが住んでいる世界にフィクションの世界が影響している物語がすごく好きなんですよ。

――なるほど、確かに現実世界と地続きになっている印象は強く受けるシーンになっていたかと思います。

幾原:実写シーンが最初に来ていたのも大きな理由があります。それは、映画をテレビシリーズの続編として描きたかったという理由。テレビシリーズで宇宙に消えていった冠葉と晶馬が、夜の東京という宇宙のような場所に帰ってくる。そうすることで視聴者の皆さんに、新しい物語が始まったというワクワクを味わってほしかった。だから、映画は東京の夜景のシーンから始まっているんです。




■エンドロールのあとにも、“大切なシーン”が…

――今回公開となった『劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM [後編]僕は君を愛している』のお話も伺えればと思います。ぜひここを見てほしいというシーンはありますか?

荒川:見どころだらけで難しいですが、やはりラストでしょうか。今回の映画のキーワードのひとつでもある「きっと何者かになれる」という言葉に対して、冠葉と晶馬が自分たちを”何者”と結論付けるのか、そこは注目してもらいたいです。

木村:テレビシリーズでは冠葉が”何者”なのかって最後まで結論が出ないまま終わってしまう。あれだけ陽毬のことを愛している、にも関わらず最後は自分を犠牲にして陽毬の元から去ってしまう。そんな冠葉が何者なのかって、ずっと一言で言い表すことができなかった……。そこにひとつの結論が出るんです。あそこは自分で言いながら鳥肌が立ちましたね。

――やはりラストは要注目ですね。そのラストシーンに繋がる“運命の乗り換え”も音楽が「HEROES~英雄たち」に変わり、印象も変わっていたかと思います。

木村:テレビシリーズでは世界の終わりのように感じられた“運命の乗り換え”。あそこがすごくポジティブなシーンに見えるように生まれ変わっている。もうあの瞬間「行けー!!いいぞー!!」って叫びたくなりました。

三宅:応援上映みたい(笑)。

荒川:でも確かに、テレビ版よりも前向きな気持ちになる、力が湧いてくるシーンになっていますよね。

三宅:あのシーン、流れている「HEROES~英雄たち」と映像の尺がピッタリ合っているんですよね。あれはもともと計算して作ったんですか?

幾原:いや、偶然ほぼピッタリだったのであとから微調整だけした感じです。

一同:えー!!

――あそこで「HEROES~英雄たち」がかかること、最初から決まっていたわけじゃないということですか?

幾原:編集の時に試しにかけてみたら見た人からすごく好評で、その時に決めました。なのでセリフのタイミングとかも曲に合うように、あとからちょっとずつ調整した感じですね。もちろん、それができたのは音楽の橋本(由香利)さんのおかげです。

木村:僕からも監督にひとつ聞きたいんですけど、“運命の乗り換え”のあとに、みんなが同じセリフを一人ずつ言っていくところがあるじゃないです。あれは誰に向けて言っているんですか?

幾原:あれはね、観客に向けて言っています。実写シーンの話にも繋がるのですが、あの物語は僕らの世界と地続き。だからキャラクターと視聴者の方を繋げるセリフがないといけないと思ったんです。

木村:そうか、世界が地続きだから。視聴者の皆さん、ぜひ受け取ってください(笑)。

■世界中が喪失感に包まれているこの瞬間にこそ、届けたい言葉がある

――“運命の乗り換え”が終わった先の物語を、少しだけ見ることができるのもファンにとっては嬉しいポイントかと思います。

木村:そこからさらに続編につながりそうなワンシーンが……。あそこはちゃんと見てほしいですね。

荒川:エンドロール始まってからさらにその先に……! なのでエンドロールが始まっても席を立たないでほしいです。

三宅:あんなシーン見せられたら、ますます続きが見たくなっちゃう。私はあのシーンを見て『輪るピングドラム』の”輪る”の意味が理解できた感じでした。きっと皆さんも見たらそのタイトルの謎が解けると思いますよ!

幾原:実はあのラスト、他にも何パターンか考えていました。そこで一番重視したのは、見ている人にこの先を委ねられるエンディングにすること。僕の中にはこの先の物語が思い描けているけれど、それは僕のものであってみなさんが思い描くものとは違うかもしれない。だから、あえていろんな取り方ができるようにはしています。

三宅:え、監督の中での続きって決まってるんですか! 公式見解ってことですよね! 知りたいのであとで教えてください!

――とても多様なメッセージが詰まっている『輪るピングドラム』シリーズ。2022年現在、皆さんに作品をとおして受け取ってもらいたいメッセージを教えてください。

荒川:分け合うことの大切さを感じてほしい、そう思っています。私たちが生きている世界でも、分かち合うことができたらもっとみんなが幸せになれるのに、という瞬間はよく目にしますからね。そこは皆さんにぜひ受け取ってほしいと思います。

木村:「自分の運命は自分で切り開ける」ことを感じとってほしいと思います。冠葉はがむしゃらに自分の運命と対峙し続けた男だった。そこには見習うべきものがあるし、自分もそういう生き方をできたらと思っていますから。

三宅:その瞬間に自分が受け取ったメッセージを大切にしてほしいですね。そのメッセージこそが、今の自分にとって必要なものだと思いますから。そして、自分が受け取ったメッセージを私たちに教えてくれると嬉しいです。”#きっと何者かになれる”というハッシュタグがありますので、ぜひSNSに皆さんの感想を投稿してほしいですね。

――幾原監督はいかがですか?

幾原:ちょうど10年前にテレビシリーズが公開された時は、東日本大震災のあとで日本人がすごく大きな喪失感を抱えていました。そして今回、この映画が公開された今も世界中が喪失感に包まれている。そこには運命のようなものを感じています。そんな喪失感溢れる世界に必要なのは、ひとつの言葉だと思っていて、それが今回の映画の“とても大切なところ”で登場します。それをぜひ受け取って、その言葉を皆さんも誰かに届けてほしい。そうすれば世界が少しだけ前向きになるんじゃないかと思っています。

劇場版『RE:cycle of the PENGUINDRUM [後編]僕は君を愛してる』
2022年7月22日より公開中

■STAFF
監督:幾原邦彦
副監督:武内宣之
原作:イクニチャウダー
キャラクター原案:星野リリィ
脚本:幾原邦彦・伊神貴世
キャラクターデザイン:西位輝実・川妻智美
色彩設計:辻田邦夫
美 術:中村千恵子(スタジオ心)
アイコンデザイン:越阪部ワタル
CGディレクター:菊地信明(ウェルツアニメー
ションスタジオ)・越田祐史(スタジオポメロ)
VFX:田島太雄
撮影監督:荻原猛夫(グラフィニカ)
編 集:黒澤雅之
音響監督:幾原邦彦・山田 陽
音響効果:三井友和
音 楽:橋本由香利
音楽制作:キングレコード
アニメーション制作:ラパントラック
製作:ピングローブユニオン
配給:ムービック
後編主題歌『僕の存在証明』
やくしまるえつこメトロオーケストラ

■CAST
高倉冠葉:木村 昴
高倉晶馬:木村良平
高倉陽毬:荒川美穂
荻野目苹果:三宅麻理恵
多蕗桂樹:石田 彰
時籠ゆり:能登麻美子
夏芽真砂子:堀江由衣
渡瀬眞悧:小泉 豊
荻野目桃果:豊崎愛生
プリンチュペンギン:上坂すみれ

(C)イクニチャウダー/ピングループ(C)2021 イクニチャウダー/ピングローブユニオン