鶴房汐恩と澤野弘之。 アニメ好きを公言するJO1の鶴房汐恩さんが、夢のアニメプロデューサーを目指し、アニメ作りをイチから学んでいく連載「天上天下唯我独尊 鶴ぼ~ちゃんのアニメPへの道」。今回は数々のアニメ音楽を手がける作曲家・澤野弘之さんのプライベートスタジオを訪問し、DTM(デスクトップミュージック)での劇伴作りに挑戦してきました。これまでアニメーターや声優のお仕事体験は器用にこなしてきた鶴房さんですが、作曲家としての才能はいかに……? インタビューでは澤野さんが劇伴作曲家を目指したきっかけや曲げられない信念、鶴房さんがずっと気になっていた「七つの大罪」のサントラタイトルが少し変わっている理由などを聞いてきました。
【大きな画像をもっと見る】 取材・文 / 西村萌 撮影 / 曽我美芽 ヘアメイク(鶴房汐恩)/ 佐々木美香 スタイリスト(鶴房汐恩) / 増田翔子 ヘアメイク(澤野弘之) / 澤田史 題字 / 鶴房汐恩
■ 澤野弘之さんってこんな人!
澤野さんは1980年生まれ、東京都出身の作曲家。「機動戦士ガンダムNT」「プロメア」「進撃の巨人」「機動戦士ガンダムUC」「キルラキル」「ギルティクラウン」「青の祓魔師」「アルドノア・ゼロ」「七つの大罪」「甲鉄城のカバネリ」「Re:CREATORS」「機神大戦ギガンティック・フォーミュラ」など多くのアニメ作品で劇伴(映像に合わせて流れる音楽のこと)を手がけており、多くのアニメ好きに支持されています。
また今年4月から6月にかけて放送されたTVアニメ「群青のファンファーレ」では、澤野さんとJO1の深い関わりがありました。澤野さんが音楽を担当する同作において、オープニングテーマはJO1の「Move The Soul」に。エンディングテーマには澤野さんが率いるボーカルプロジェクト・SawanoHiroyuki[nZk]の「OUTSIDERS」が起用され、ゲストボーカルとしてJO1から河野純喜さんと與那城奨さんが参加しました。
■ いざ、澤野さんのプライベートスタジオへ
□ メンバーたちに代わって今日は僕が……
いつもの観察用ボードと取材ノートを携え、準備万端な鶴房さん。事前にスタッフが渡した紙資料にも、澤野さんへの質問を自分だけにわかる字でこっそりメモしてきました。さて、澤野さんに初めましてのご挨拶です。
鶴房汐恩 この間はうちの河野と與那城がお世話になりました。
澤野弘之 あはは! こちらこそ大変お世話になりました。
鶴房 メンバーの木全(翔也)が、澤野さんが作られた「ガンダムUC」の「ダラララーラー」という曲(「UNICORN」)をすごい好きって言っていて。
澤野 ほんとですか! ありがとうございます。
鶴房 今日はみんなの代わりに僕が来てしまってすみません(笑)。曲作りさせてもらえると聞いてちょっと心配なんですけど、よろしくお願いします。
澤野 僕もできる限りサポートできればと思うので、よろしくお願いします!
□ スタジオの中ってどうなってるの?
劇伴作りの前に、まずはスタジオ内を見学させてもらうことに。部屋の奥側はDTM機材やピアノなどが設置された作業スペースです。ピアノ周りの壁は音の響きなども考慮し、このスタジオを使い始めるタイミングで木を使ったデザインに改装してもらったそう。また防音のため二重窓にもなっています。
鶴房 すご! 機材いっぱいありますね。
澤野 作曲家としてはこれでもシンプルなほうだと思います。基本的にはパソコンに入っている音源やエフェクトがあれば作業できちゃうので。ここはスタジオという形なので多少機材を揃えてはいるんですけど、自宅とかではノートパソコンと鍵盤(MIDIキーボード)だけでやってたりもして。なので、あくまでもここは大きい音で曲を作れる場所という感じですかね。
鶴房 マイクがあるってことは、レコーディングもできるんですか?
澤野 一応できるって感じです。マイクの隣にあるのはPro Toolsっていう外部のスタジオでもよく使われているレコーディング機材で、これがあったらサウンドエンジニアに来てもらってミックス作業とかもできるかなと思って少し前に入れてみました。でも本格的なレコーディングは外部のスタジオでやっちゃうので、デモ音源の仮歌とかを簡易的に録るぐらいになってますね。
グランドピアノはYAMAHAのS6。このスタジオを作った2011年頃から使ってるものだそうです。
鶴房 きれいにされてますね。
澤野 そんなに弾いてないからかもしれない(笑)。練習用と、曲を作るときにボイスレコーダーを置いてなんとなくメモを取る用に使ってます。
鶴房 このピアノはやっぱりいい物なんですか?
澤野 いい物ではあるんですけど、スタインウェイ(スタインウェイ・アンド・サンズ。世界三大ピアノブランドに数えられ、高級なピアノの代名詞的存在)とかそこまでは高くないです。というのも生々しい話、スタジオを作るってやっぱりお金かかるんですよ!(笑) だから比較的手が出しやすくて、個人的にも好きだったYAMAHAの中からオススメしてもらったものを購入したという感じですね。
予算の都合もあって選ばれたというS6ですが、実はYAMAHAの中でも特に品質にこだわった高級モデル。鶴房さんも慎重に触らせてもらいました。
部屋の手前側はテレビやソファ、趣味のフィギュアなどがずらりと置かれたリラックススペースです。椅子には海外アニメ「アドベンチャータイム」に登場するジェイクのぬいぐるみがどっしり座っていました。
■ 劇伴作り本番
いよいよ本日のメインイベント、劇伴作りです。鶴房さんがDTMを使って作曲をするのは今日が初めて。一方の澤野さんも、人に曲作りをレクチャーするのはほぼ初めてだそうです。
使用ソフトは、澤野さんがいつも使っている「Logic Pro」。画面の青枠はピアノやギター、ベース、ドラムなどのトラックが並ぶセクションで、赤枠はトラックの打ち込んだ音が表示される作業スペースになっています。
□ 1)テーマ決め
鶴房 うわっ、難しそう。メンバーが使ってるのは見たことありますけど、こんなにいっぱい線(トラック)はなかったです。
澤野 今日はサスペンス調の曲を作ってもらいたいと思います。なんでサスペンス調かっていうと、シンセサイザーとかのトリッキーな音を使えばメロディが多少不協和音になっても曲として成立しやすいんですよ。だから初心者の鶴房さんでも作りやすいかなと。
鶴房 なるほど。
澤野 鶴房さん、ほかにこういうふうにしたいっていう希望はありますか?
鶴房 僕、けっこう落ち着いた感じの曲が好きで。ピアノとか使ってみたいんですけどどうですか?
澤野 あ、いいですね。サスペンスの薄暗い中に、ピアノのきれいな要素が入っていると。それでやってみましょう。
□ 2)ベース作り
澤野 曲作りにおいて本来はアレンジやメロディも重要なんですけど、僕的には音色(おんしょく)が肝だと思ってて。自分で作るときも音色選びはけっこう時間がかかる部分なんですよ。今回は時間を短縮するためにある程度こちらで選んでおいたので、鶴房さんには鍵盤を叩いてもらうとこからスタートしてもらえればと思います。
鶴房 はい。
澤野 じゃあまずはベースの音から。低めの音で、基本的に白い鍵盤をメインで叩いてもらうのがいいかな。ちなみにテンポはどれくらいがいいですか?
鶴房 テンテンテンテン……。
澤野 BPM80ぐらいですね。サスペンスってそれほどテンポが早くない曲が多いのでちょうどいいと思います。最初にクリック音が1、2、3、4と流れるので、その次の小節から弾いてみてください。
鶴房 えっ、もう? 怖すぎる!(笑)
澤野 では!
澤野 いい感じです! ちょっとだけリズムが不揃いになってしまったので、小節の始まりにタイミングを合わせるクオンタイズっていう機能で調整しますね。さらにベースらしく厚みを持たせるために、今弾いてもらった音をコピーして別の楽器に置き換えます。そして2つの音を同時に鳴らすと……。
鶴房 うわ、カッコよ!
澤野 すみません、1つだけ言い忘れてました。暗い調の曲を白い鍵盤だけで弾くときは、キーがAマイナーなのでラの音から始まることが多いんです。だから1音目だけラに変えさせてもらっていいですか? それ以外はバッチリなので、次は“上もの”と呼ばれるメロディやアレンジの部分に移りましょう。
□ 3)上もの作り
澤野 先ほどのベースと違って、ここからは鍵盤の高いところを弾いてもらって大丈夫です。ちょっと怪しい雰囲気の音を効果音的に入れていきましょう。
鶴房 これってさっき弾いたベースに合わせたほうがいいんですか? 最初の音がラでしたけど、同じタイミングでラを弾くというか。
澤野 あえて合わせるときもありますけど、基本的には自由に弾いてもらっていいですよ。
鶴房 ずっと鳴らしてるんじゃなくて、間を空けても?
澤野 うん、全然アリです! じゃあ一度やってみましょうか。
澤野 いい感じだったので、次はまた雰囲気が違う音を。こういうフワーっとしたきれいな音は、暗いベースの中にあると不思議な要素として映えるんです。単音でも和音にしてもらってもいいですよ。
鶴房 3つとか弾いても大丈夫ですか?
澤野 なんでも大丈夫です。音を重ねれば重ねるほど不穏な空気になっていくので。鶴房さんにさっき弾いてもらったベースが流れ続けるので、お好きなタイミングで叩いてみてください。
鶴房 ……難しい!
澤野 今度はより効果音的というか、音階がそこまでないリズム要素にいきましょう。低い音はホラー映画とかに出てきそうな音色ですよね。クリック音とズレてしまっても構わないので、これも好きなタイミングで入れてみてください。
鶴房 うわーっ、これも難しい!
澤野 さらに曲後半にかけて盛り上げるため、パーカッションを足していきます。8小節分ぐらい入れたらちょうどいいかな。鍵盤を叩く強さによって音の大きさも変わってくるので、変化を加えながらやってみてください。
鶴房 ……できてましたか? 弾きながら自分がどんな音出しているのかわかんなくなっちゃって(笑)。これ、どの鍵盤からどういう音が出るかちゃんと知っておかないとダメですね。
澤野 確かに、鍵盤ごとに出る音の種類も違いますからね。でもいい感じでしたよ! あとはアクセントとしてキックの「ドンッ」という音もあるといいと思うので、4つ打ちを入れてみましょうか。1小節分だけ叩いてもらえたら、あとは繰り返しで貼り付けていきます。
□ 4)メロディ作り
澤野 もう終盤なので、鶴房さんが最初に言っていたピアノを入れていきましょうか。きれいなピアノの音が入ってくることで、一般的なサスペンス調の曲とはいい意味で少し変わってくると思います。せっかくなので全編に入れていいと思うんですが、後半にかけて主張が強くなっていったほうが変化があっていいと思うので、さっき打ち込んだリズムが聴こえたら音数を増やしていきましょう。
鶴房 わかりました。やってみます。
鶴房 これが一番難しい!(笑) 出だしミスってすみません!
澤野 いやいや、全然ミスってなかったですよ! もし気になるんだったら、リバーブ(音に残響音や反射音を加え、深みや広がり感を出すエフェクト)とかを付けるとよりきれいになるかもしれない。DTMなので間違った音だけ修正するのも簡単なんですけど、音的には今のままで十分きれいですよ。
鶴房 ほんとですか?
澤野 本当です。それに音楽に基本決まりごとなんてないから大丈夫!
鶴房 カッコいい!(笑) じゃあこれで完成ってことでお願いします。
□ 劇伴制作の模様を動画でもどうぞ!
□ 集中して試聴
最大1時間を見越していた劇伴作りはサクサクと進み、約30分で終了。それでは鶴房汐恩作、澤野弘之協力による「鶴ぼ~Pがいつかアニメで使いたいサスペンス調の曲」を聴いてみましょう。鶴房さんと澤野さんも集中モードに入り、真剣に耳を傾けます。オリジナルバージョンに、澤野さん作のループ(短いフレーズのこと)を加えたアップデートバージョンも併せてどうぞ。
鶴房・澤野 おおー……。
鶴房 ちゃんと曲になってますね。でもこうやって聴いてみると、俺のピアノいらんなって思いました(笑)。
澤野 いやいや、ピアノはあって正解ですよ! ただ1分の曲なのでこれでよかったんですが、もうちょっと長い2分以上とかの曲だったら序盤はピアノがない状態にしてもいいかもしれない。自分の場合は、後半からピアノの要素を足して新たな展開を作っていくというのもよくやります。
鶴房 なるほど。澤野さんのほう(アップデートバージョン)、後半の「ドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥ」って音がめっちゃカッコよかったです。
澤野 おそらく僕が足したフレーズと、鶴房さんに作ってもらったリズムが合わさってそう聴こえるのかも。リズムだけでももちろんカッコいいんですけど、ループを足すとよりアグレッシブになりますよね。劇伴は最終的に映像の上に乗っかって、セリフや効果音と合わさることで雰囲気がまたグッと変わります。そこが劇伴を作るうえでの魅力かもしれないですね。
鶴房 曲作り、めっちゃ楽しかったです。メンバーがハマる意味がわかったというか、僕も練習してみたいなって思いました。
澤野 自分がずっと使ってるから言うわけじゃないんですが、初心者の方が曲作りするとしたら「Logic Pro」は本当にオススメですよ。僕は音源をちょくちょく買い足していってるんですけど、音源が元からたくさん入ってますし、ループ素材も豊富なので最初は貼り付けていくだけで気軽に曲作りが始められると思います。
鶴房 わ、マジで買お!
澤野 僕も大して使えるわけではないんですけど(笑)、何かあればいつでも聞いてください!
■ 劇伴作りを終えて
□ いつか澤野さんにJO1の曲を
鶴房 ここからは僕がインタビュアーになって澤野さんに質問させてもらいます。まず一番にお聞きしたかったのは、「OUTSIDERS」の河野と與那城は大丈夫やったかなと。
澤野 いやいやいや!(笑) 心配してもらうどころか、もう素晴らしいパフォーマンスをしていただいて。僕もダンスボーカルグループの方とご一緒するのは初めてだったんですけど、レコーディングへの取り組み方とか、ミュージックビデオの撮影でもカメラが回った瞬間にパッと切り替えてパフォーマンスされる姿とかを見て、改めてすごいなって思いました。
鶴房 うわあ、よかった。そうやって言ってもらうと僕もなんかうれしいです。じゃあ今度はちゃんとした質問で、劇伴って1曲作るのに普段はどれくらい時間かかるんですか?
澤野 ケースバイケースですけど、早いときだったら3~4分の曲は3時間ぐらいでデモができるかなあ。
鶴房 早!
澤野 もっと長い曲だったり、オーケストラ編成の複雑な曲だったりすると5~6時間くらいになったりもしますけどね。もちろん、その後レコーディングやミックスとかも必要になってくるんですが、作編曲としてはそれぐらいの時間でほぼほぼ完成してます。歌の曲を作るときもだいたい3~4時間とかで、「OUTSIDERS」も確かそれぐらいだったはず。
鶴房 すごっ。いつかJO1の曲も澤野さんに作っていただきたいです。
澤野 ぜひぜひ作らせてください!
□ おかしな曲名の理由は真面目半分おふざけ半分
鶴房 僕、「七つの大罪」のアニメがめっちゃ好きで。それも澤野さんが劇伴を作られてますけど、曲のタイトルがちょっと変わってるじゃないですか。漢字とかアルファベットとか記号がめちゃくちゃに混ざってて、最初バグかなと思って(笑)。
澤野 あーそうなんです! なんかヤバそうな奴と思われかねないですよね(笑)。
鶴房 あれってなんでですか?
澤野 実は理由がいくつかあるんですよ。よく言っている表向きの理由としては、タイトルであまり曲の方向性を縛りたくないってことですかね。サントラを買う方ってもちろんそのアニメを観てるだろうから、曲を聴きながらあのシーンで流れてたなとかって考えると思うんですよ。でも僕としてはこの曲にはこういう意味があると限定せず、その人の自由なイメージで聴いてもらいたい。僕はサントラをアニメを構成するために制作していますが、自分の1つのアルバムみたいな感覚でも作ってるんです。
鶴房 深い意味があったんですね。
澤野 別の理由として、純粋におふざけ半分っていうのもありますけどね(笑)。アニメを観てた人がクスッとしてくれるといいなと思って、キャラクターの名前を変な文字列に当てはめるとか。
鶴房 確かに「銅鑼Gong4N」も「憤怒の罪(ドラゴン・シン)」って読めますもんね。
澤野 そうそう。あれは完全に親父ギャグ(笑)。
□ 作曲は過去に見てきた映画がヒントに
鶴房 澤野さんは自分が音楽に関わってないアニメとか映画とかをイチ視聴者としてご覧になることってあるんですか?
澤野 近頃はアニメを観ることは減ってきちゃったんですけど、海外のドラマとか映画が好きなのでNetflixや衛星放送の映画チャンネルとかはよく観てますね。でも物語に集中しようとしつつも、やっぱり後ろに流れる音楽が気になっちゃう。カッコいいものがあったら自分の中に吸収したいですし、サウンドトラックをちょくちょく買ったりもしてます。
鶴房 音楽がカッコいいなと思った作品って最近だとなんですか?
澤野 少し前の作品ですけど「TENET テネット」です。僕、クリストファー・ノーラン監督の映画が好きで。ノーランの作品の音楽ってハンス・ジマーという海外の大御所劇伴作曲家の方がほとんどやってきてたんですけど、「TENET テネット」はルドウィグ・ゴランソンっていう別の方が担当されたんですよ。それがまたデジタル要素が強くてカッコよかった。あとはNetflixで配信されていた「Arcane アーケイン」っていうCGアニメ。ストーリー自体も面白かったですし、その後ろに流れてる音楽が全体的にカッコいいサウンドで作られてるなって思いました。
鶴房 どんな曲か気になります。
澤野 僕、音色がカッコいい音楽に惹かれるんですよね。音色はアレンジとかメロディと同じぐらい重要というか、楽曲の顔になる要素だと思ってます。
鶴房 ちなみに、曲作りの中で音の差ってどうつけてるんですか? 激しくしたいときはこの音、静かにしたいときはこの音とかってあるんですか?
澤野 僕の場合、激しさを表現したいときはエッジの立った音とかノイジーな音を入れるかもしれないです。あと打楽器を強調したり、エレキを入れてちょっと歪ませたりしますね。
鶴房 逆に、落ち着いた曲のときはあんまり音を増やさない?
澤野 音を入れないっていうより、あまり音を動かしすぎないっていうほうが正しいかもしれない。たぶん鶴房さんもなんとなくイメージできると思います。よくインタビューで「どうしてゼロのところから曲をこんなに生み出せるんですか?」って聞いてもらうことがあるんですけど、僕としてはそれほど難しいことじゃないというか、そもそもゼロからという感覚とは違うというか。鶴房さんもアニメをいっぱい観てきて、ああいうシーンにはこういう曲が流れてるよなっていうイメージがあるじゃないですか。僕もその延長線上というか、音楽メニュー(アニメの音響監督が作曲家に渡す、劇中でどんな曲が欲しいかというメニューのこと)を見たら、あの映画で流れてたあの曲の雰囲気が近いのかなってイメージがパッと思い浮かぶ。そういった過去の経験とか見てきた作品からヒントを得て、曲を作っている部分もあると思うんです。
□ 久石譲さんの音楽に出会って劇伴作曲家の道に
鶴房 今まで何回も聞かれてると思うんですけど、どうして劇伴作曲家という道を選んだのかお聞きしたいです。
澤野 もともとはCHAGE and ASKAのASKAさんの音楽に影響を受けて、シンガーソングライターになりたいと思ってたんですよ。その後に小室(哲哉)さんの音楽に出会って、漠然と作曲家の道にいきたいなと考えるようになって。それぐらいのタイミングである日友人の家に遊びに行ったら、ジブリのサントラを流してくれたんですね。そこで初めてインストゥルメンタルの曲の魅力に気付いて、家に帰ってから妹が持ってた「魔女の宅急便」のサントラを貸してもらいました。その当時公開された「もののけ姫」も観に行ったんですけど、やっぱり久石譲さんの音楽がすごかった。オーケストラの音だったり、曲と映像が一緒になったときの感動だったりに惹かれて、僕は歌じゃなく劇伴の世界を目指そうと思ったんです。
鶴房 そうだったんですね。劇伴作家をやっていてうれしい瞬間ってどんなときですか?
澤野 自分の作った曲が映像にバッチリとハマった瞬間ですかね。それ以上に、その映像にお客さんが反応してくれて、サントラにも興味を持っていただけたときが一番うれしいです。
鶴房 「進撃」とかも曲と映像がハマってました。
澤野 ありがとうございます。「進撃」はとにかく荒木(哲郎)監督のこだわりあってこそというか、映像に合わせて曲を毎回いい形で使ってくださいました。「進撃の巨人」という作品自体も社会現象のようになって多くの方に観ていただけて、僕の劇伴作家としての活動をさらに広げてくれた作品だと思います。
□ 天才ぶりたいわけじゃないけれど……
澤野 逆に鶴房さんにもお聞きしたいんですけど、ダンスボーカルグループとして活動していてどんなときに喜びを感じますか? やっぱり、つらいときもあります?
鶴房 僕たちはデビュー直後にコロナが流行して2年半ぐらい有観客のコンサートができなかったんですけど、最近は徐々にステージに立つ機会も増えてきて、ファンの方たちに直接会えるのがうれしいことですね。つらいことはほとんどないんですけど、強いて言ったらあんまり寝れないことです。
澤野 うわっ、すごい! 寝付けないとかじゃなくて、寝る時間が少ないんだ。僕はすごく寝てるのに(笑)。
鶴房 (笑)。でも澤野さんも大変なことはありますよね?
澤野 いやー! 僕ね、よく「作曲で苦労された点は?」って聞かれるんですけど、いつも「ほとんどない」って答えてて(笑)。でもそれは天才ぶりたいとかでもなくて、単純に自分に甘いだけなんですよ。ストイックな人とかは出来た曲を次の日にもう1回聴いて、気になったところがあったら当たり前に直すと思うんです。でも僕の場合は、前の日に“いい”って思ったならそれでいいって進めちゃう。性格的にもせっかちでとりあえず最後まで作りたいタイプだから、行き詰まるっていうことがそうそうないんです。
鶴房 もうちょっとこうすればよかった、みたいな後悔もあまりないってことですか?
澤野 割とそうかもしれないです。なるべく曲を作るときは10年後に聴いてもカッコいいと感じてもらえるサウンドにしたいと考えているんですけど、たまに時間が経って聴いたときに「時代を感じさせるような音色を選んでしまったかもな」と思ったりはします。でも別にそのときの感覚では一番いいと思った音色を選んだし、この反省は次に曲を作るときに活かせばいいかなと。
鶴房 前向きですね。
□ カッコいいと思うものを貫いて、それに振り向いてもらいたい
鶴房 さっき「自分に甘い」と言われてましたけど、ここだけは曲げられないってことはあるんですか?
澤野 うーん……自分がカッコいいと思う音楽をやり続けるっていうことですかね。劇伴もそうですし、特にボーカルのある曲ってヒットチャートに入ってくるかが重要じゃないですか。でも自分が作った曲とヒットチャートのサウンドが乖離してた場合に、ヒットチャートのほうに寄せるかっていうとそうはしない。自分がカッコいいと思うものを追求して、それに振り向いてもらいたいっていう気持ちは変わらないです。
鶴房 僕もちょっと似てるかもしれないです。歌とかダンスは自分のカッコいいと思うものを貫きたいし、誰かに指示されてそれを変えるのは好きじゃない。
澤野 うんうん。
鶴房 でもやっぱりグループだとみんなで合わせることも重要じゃないですか。だから練習ではちゃんと揃えておいて、ライブではもう少し自由にやります。
澤野 ははは!
鶴房 最後に、澤野さんの今後の夢とか目標ってありますか?
澤野 作曲家としての立場とか、作ったものに対しての反応とか、自分はまだまだだなと常に思っていて。より多くの人に僕の曲に振り向いてほしい、澤野弘之っていう名前をもっと知ってもらいたいっていうのが目標です。
鶴房 カッコいいです。今日は本当にありがとうございました。素人にイチから教えるって面倒臭いことだと思うんですけど、優しく丁寧に教えてくださってうれしかったです。場の空気も考えてちょっとふざけたりもして、上から目線で申し訳ないですけど、周りをよく見てるというか視野の広い方だなと思いました。
澤野 (笑)。こちらこそありがとうございました! 曲を作ることのそもそもの楽しさとか、トラックを重ねるとこんなふうに音が違ってくるんだということを感じていただけたならよかったです。鶴房さんがこれを機に曲を作ることに興味を持ってくれて、JO1としてまた新しい道につながってくれたらうれしいなと思います。
鶴房 曲作り、本当に興味が湧きました。メンバー何人かが作曲してる中で、僕がやるんだったら歌詞作りのほうかなと思って実はけっこう書き溜めてるんです。でもそれは自分に音楽を作る力もないと思ってたし、やり方すら知らなかったからで。でもこうやって今日挑戦させていただいて、いつか歌詞も音楽も合わせて自分で1曲作ってみたいなと思いました。
澤野 いつか鶴房さんの曲を聴けるの、楽しみにしてます!
■ 鶴ぼ~ちゃんの取材メモ・感想
■ 鶴房汐恩(ツルボウシオン)
2000年12月11日生まれ、滋賀県出身。サバイバルオーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN」にて約6000人の応募者から視聴者投票で選ばれ、世界的な活躍を目指すグローバルボーイズグループ・JO1のメンバーとして2020年3月にデビューした。JO1は9月、初のアリーナツアー「2022 JO1 1ST ARENA LIVE TOUR 'KIZUNA'」を開催する。またJO1初の公式スマホゲームアプリ「&JO1」が配信中。
衣装協力
・ベスト:¥6930(3.3 Field Trip)
・パンツ:¥17050(YOUTHBATH)
ともにALAND/アダストリア
問合せ先
アダストリアカスタマーサービス
TEL:0120-601-162
■ 澤野弘之(サワノヒロユキ)
1980年9月12日、東京都出身。25歳頃から劇伴作家としての道を歩み始める。これまで携わった主なアニメ作品は、「機動戦士ガンダムNT」「プロメア」「進撃の巨人」「機動戦士ガンダムUC」「キルラキル」「ギルティクラウン」「青の祓魔師」「アルドノア・ゼロ」「七つの大罪」「甲鉄城のカバネリ」「Re:CREATORS」「機神大戦ギガンティック・フォーミュラ」など。アーティストへの楽曲提供や編曲なども精力的に行っており、2014年春にはボーカル楽曲に重点を置いたプロジェクトSawanoHiroyuki[nZk]もスタートさせた。