オリコンが調査する『2022年上半期ブレイク芸人』が発表され、『M-1グランプリ』で優勝した錦鯉の1位を筆頭に、2位の見取り図など賞レースのファイナリストたちが上位を独占した。
「令和に入ってから、いわゆる“一発屋”と呼ばれるインパクトの強いギャグを持つ芸人がブレイクしなくなっているのが特徴的ですね」(テレビ誌編集者)
ブームの証しである『ユーキャン新語・流行語大賞』で、一発屋がノミネートされたのは'18年のひょっこりはんが最後。オリコンの『ブレイク芸人』ランキングでも、'19年にブレイクした、りんごちゃんが最後のランクインとなっている。
「いちばん大きな要因はコロナ禍ですね。少しずつ規制は緩和されているものの、感染対策からスタジオ収録に呼べる人数が制限されています。そのため確実に笑いを取れる中堅やベテラン、賞レースのファイナリストなどを優先してキャスティングしている状況です」(制作会社関係者)
一発屋が消えた原因のひとつに“コロナ禍”
りんごちゃんが注目を集めたのも、約50人の若手芸人がひな壇で出演する『ウチのガヤがすみません!』(日本テレビ系)だったが、昨秋に終了している。
メディア研究家の衣輪晋一さんも“ガヤ芸”と呼ばれる芸人たちのやりとりが、コロナ禍によって減少したことが、一発屋が消えた原因のひとつだと分析する。
「山本高広さんが織田裕二さんのものまねをする際の決めゼリフ“キター!”を、アンタッチャブルのザキヤマさんがパロった“くるー!”が流行ったように、平場といわれるトークのノリから生まれる流行語や人気フレーズというのは少なくありません。今はアクリル板越しにしか共演者が絡めないので、そうした偶発的なフレーズは誕生しづらいですよね」
世に出るために、と割り切った芸人も多かった
若手を発掘する方法が変わったのも大きいようだ。
「かつてパンサーが“出待ち率ナンバーワン”という紹介で番組に出る機会を増やしたように、以前は劇場で人気の若手やインパクトのある芸人を起用するケースが多かった。でもコロナ禍以降は劇場も無観客での開催になったり、出待ちが禁止されるようになったので、最近はYouTubeやショート動画アプリのTikTokでバズっている芸人や、『M-1グランプリ』など賞レースの予選で新しい芸人を探すようになりました」(テレビ局関係者)
外出自粛の影響でYouTubeやTikTokにネタを投稿する芸人が増加。とある中堅芸人は、動画でウケる傾向の違いをこう語る。
「『エンタの神様』などネタブームのころは、日本エレキテル連合のようなキャラクターやキャッチーなフレーズを持つ芸人、にゃんこスターのような音ネタなどが番組や舞台のオーディションに合格しやすかったので、世に出るためにと割り切って“一発屋”系のネタを作る芸人も少なくなかった。でもTikTokなどは、インパクトよりも“あるあるネタ”など、共感できるネタがバズる傾向にあるので、そういうネタを作る芸人が増えていますね」
エンタメ事情に詳しいフリーライターの大塚ナギサさんは、お笑いを見る視聴者やファンの変化を指摘する。
「『M-1』など賞レースのレベルが高くなったことで、視聴者やお笑いファンの目も肥えてきています。かつてはネタがイマイチでも、カッコよければ人気が出ることもありましたが、東京も大阪もライブシーンは面白さ至上主義になっていて、完成度の高いネタができないと舞台に上がることも難しい状況。キャラクターだけでは舞台でも賞レースでも通用しないため、キャラ芸で一発当てようという若手は減っている印象です」
リズムネタ不遇の時代に
そんな視聴者の変化を受け、ネタ見せ(オーディション)にも変化が起きている。
「『爆笑レッドカーペット』が放送されていた'10年ごろまでは、多くのネタ番組のネタ見せは1分が主流でした。最近は2~3分のネタを見せるオーディションが多いので、キャラ芸や8・6秒バズーカーのようなリズムネタで笑わせ続けるのは厳しいんです。それならしっかり作り込んだネタをやったほうが、ネタ番組でも賞レースでも結果を出せる可能性が高いですね」(前出・中堅芸人)
『おもしろ荘へいらっしゃい!』(日本テレビ系)など、若手の登竜門的な番組にも変化が出ているという。
「'17年に『おもしろ荘』でブルゾンちえみさんが注目を集めましたが、'19年は後に『M-1』の決勝にも進んだぺこぱが優勝するなど、キャラクターにプラスアルファがないと、若手発掘番組でもチャンスをつかみにくくなっていますね」(前出・テレビ誌編集者)
キャラクター芸人も、最近は少し事情が違うようだ。
「『R-1ぐらんぷり』で優勝したハリウッドザコシショウや、ユーチューバー芸人のフワちゃんなど、現在もインパクトの強いキャラクターを武器にブレイクする芸人は定期的に出ています。一見キャラだけに見えるフワちゃんですが、“裏回し”と呼ばれるMCのサポート的立場でトークを回せるのが強み。ザコシショウも錦鯉に“バカを前面に押し出せ”とアドバイスをして『M-1』優勝に導いたように、独自のお笑い理論を持っているため、長く活躍ができています。一発屋が出なくなったというよりは、実力が備わっていなければ一発も当てられなくなったというのが正しいのかもしれません」(大塚さん)
コロナ収束後には再び一発屋が誕生する?
「YouTubeやSNSでは、今でも若い世代でバズる流行語や一発ギャグのようなものは誕生しています。しかし、コロナ禍により文化祭や忘年会など一般の方がまねする機会が減ったことで、ブームが局地的なもので終わるようになってしまい、幅広い世代に認知される一発屋スターや流行語が生まれにくくなっています。コロナが収束すれば、再び大ブームを起こすスターは現れると思いますよ」(衣輪さん)
その年や時代を象徴する一発屋たち。世代を問わずまねできるスターたちが再び出てくることを期待したい!
衣輪晋一 メディア研究家。雑誌『TVガイド』やニュースサイト『ORICON NEWS』など多くのメディアで執筆するほか、制作会社でのドラマ企画アドバイザーなど幅広く活動中