2022年08月02日 17:51 弁護士ドットコム
広島地検に勤めていた当時29歳の男性検察官が2019年に自殺したのは長時間労働やパワハラが原因だとして、遺族が国に公務災害を申し立てている。男性の父親が8月2日、都内で初めて会見し「事実を知りたい。今も検察庁で働く人たちに私のような悲しい思いをしてほしくない」と訴えた。
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遺族側は会見に先立ち、法務省担当者に面会し進捗を尋ねたほか、再発防止策をまとめた要望書と、友人らの署名も提出した。代理人の橋詰悠佑弁護士と高橋俊輔弁護士は「昨年11月の申請から半年以上がたっても進んでいない。法務省には調査を進めてほしい」と話した。
男性は裁判を担当する広島地検公判部に所属していた。地検の入退館記録やパソコンのログイン記録などから計算すると、亡くなる直近6カ月では時間外労働が平均80時間以上あったほか、100時間を超える月もあったという。
また、男性は亡くなる約1週間前に知人に対して「上司から机をたたきながら『司法修習生以下だ』という趣旨のことを言われた」と明かしており、遺族側は上司によるパワーハラスメントがあったにもかかわらず、環境を改善する措置も取らなかったとしている。
この日、面会した法務省刑事局の担当者によると、現在はまだ広島地検での調査で止まっており、見通しについての回答はなかった。
父親は「担当者と話すことで物事が進んでくれればと思って、ここまで来た。正直なところ、非常に残念だが、進めてほしいと直接要望することができたのは意味があると思っています」と話した。
橋詰弁護士は当時、広島地検におり、亡くなった男性の元同僚でもある。また高橋弁護士もいわゆる「ヤメ検」だ。OB等も含めて実態を聞き取り調査し、検察の職場環境の問題点を洗い出した。
要望書では、2019年までの過去10年間で少なくとも業務を起因とする5、6人の自殺が起きていると指摘する。労働時間管理は地検ごとに任されており、当時の広島地検では手書きまたはエクセルの自己申告制になっていたという。こうした記録について、ICカードなどの機械で客観的記録として残すべきだとする。
橋詰弁護士はあくまで一般論とした上で「公判部では、裁判員裁判用の資料づくりや、携帯やスマホのデータ解析といった証拠類の整理など、仕事量がかなり多い」と説明。全体的に作業に時間がかかりがちな傾向にあるのが、残業時間が増える大きな要因だと指摘した。
父親がこの日、初めて会見に臨んだのには、当初の内部調査にたいする不信感があるという。客観性を保つためとして広島高検が調査にあたったが、口頭で示されたその内容は、上司による行為はあったと認めたものの「死亡した原因はわからない」というものだった。
父親は「息子に失礼があって指導を受けるなら仕方ないこともあると思います」とした上で、「(机をたたいて叱責したとされる)上司による行為があったと認めているのに、それについての評価はされていない。一方で、息子の仕事の取り運びに問題があるような言葉もあったことに納得はできませんでした」。
今も一部の親族には、男性が亡くなったことを伝えられずにいる。「あまりにも突然で衝撃的なことでした。何事にもまじめに取り組む息子で、だから司法試験にも一発で受かることができた。希望をもって検察という組織に入ったんだと思います」。最大の願いは、今回のことを機に、検察庁の働き方が少しでも改善することだと強調した。