書籍『いちばんやさしいWeb3の教本』が発売直後に1章2章を無料公開したところ、SNSで「間違っている」と批判が相次ぎ、出版社インプレスが販売終了→回収を決めた。出版社のインプレスは「修正・反映しての本書の販売継続は難しいと判断」し、回収を決めたという。
SNSで批判されていたポイントはたとえば、「web1の時代は、1970年代~1980年代にかけて整備され」といった記述。書籍のいう「web1」が何を示すかはわからないが、いわゆるWWWの仕組みは1989年に発明され、90年代以降に発展したものだ。なぜ、こんな記述が残ってしまったのか。(文:昼間たかし)
書籍は一般的に「校閲・校正」という、第三者のチェックを経て出版される。
校正・校閲はいずれも文章を読み、間違いや疑問点を洗い出す作業のこと。その違いは、簡潔にいうとこうなる。
– 校正:誤字・脱字、スペルミスなどの修正
– 校閲:内容の事実確認や、不適切な表現を使っていないかどうかのチェックなど
2016年に日本テレビ系で放送された石原さとみ主演のドラマ『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』で知られるようになったが、大手出版社には専門部署もある。校正・校閲を専門で請け負う会社やフリーランスも存在する。筆者や編集者からすると、地味でもなんでもない、本当にスゴイお仕事だという実感がある。
ただ、もちろんプロにチェックを頼むわけだから、お金がかかる。そのうえ、プロも万能ではない。内容が専門的になればなるほど、確認しきれない部分が出てくる。専門書やマイナーな言語などだと、チェック漏れは起きがちだ。
たとえば過去には、「小説に登場するアイヌ語が間違っている」という批判が、読者から寄せられたことがある。大手出版社で、ちゃんとした校閲部もあったのだが、チェック用に参照したのが古い用語集だったため、間違いを見抜けなかったのだ。このように、いわゆる「プロ校閲」ですら手に負えないケースは少なくない。だが、本当に内容を確認できる、外部専門家は、確認依頼をほいほい受けてくれるとは限らない……。
ただでさえ出版不況の中、書籍の制作予算・期間はシビアなものとなっている。そんな場面で起こりがちなのが、「専門家である著者が確認しているから、大丈夫だよね」という著者への丸投げスタンスだ。本の内容について責任を持つのは、なんといっても「著者」。「自分の名前を掲げて書いているわけだから、そこまで変なことは書かないだろう」という期待が、出版・編集サイドの心の拠り所だ。
ただ、「著者頼み」のスタンスも、行き過ぎればブログやツイッターとほぼ変わらなくなってしまう。長年かけて培われてきた「出版社」や「書籍」というものへの信頼は、こういうケースが増えてくるとじわじわと失われていくことだろう。
さて、インプレスは今回の問題について、「書籍制作時に行う外部有識者によるチェックを怠ったことが大きな要因」「今後は、弊社における内容の検証を徹底するとともに、編集者の知識向上に努めてまいります」と反省を述べている。長く信頼を勝ち得てきた出版社だけに、ここはぜひ踏ん張って、信頼を取り戻してほしい。