アニメやマンガ作品において、キャラクター人気や話題は、主人公サイドやヒーローに偏りがち。でも、「光」が明るく輝いて見えるのは「影」の存在があってこそ。
敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第25弾は、『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』より大魔王バーンの魅力に迫ります。
物語の敵役は強くなくてはならない。しかし、強いだけで物語の最大の障害となる風格を出せるというものでもない。
強さ以外にも野望のスケール、狡猾さや冷酷さ、そして知性など様々な要素があって、主人公が向き合う敵としてふさわしくなる。物語のスケールが大きければ大きいほど、最後のボスに求められる風格も大きくあらねばならない。
『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』の大魔王バーンは、壮大な冒険譚の締めくくりにふさわしい風格の持ち主だ。本作の主人公ダイが少年であるのと対照的に、長く生き続けたことから持つ経験と洞察力、人間に対する観察眼などから鋭い言葉を発する。
その言葉の鋭さは、巧みな話術でそそのかす、という陳腐なものではない、バーンの言葉はダイが守ろうとしている人間という種族の本質を突いてくる。
■人間はすぐに強い者を迫害する
バーンパレスで、バーンと2度目の対峙を迎えたダイは、バーンから意外な申し出を受ける。「余の部下にならんか?」と。
『ドラゴンクエスト』シリーズの定番と言える、「世界の半分をお前にやろう」という竜王のオファーの変形版といったところだが、敵対する実力者に対して、その力を認める余裕を持ち合わせた、大物らしさを感じさせる名台詞だ。
この時、バーンがダイに聞かせる言葉は、人間に対して非常に辛辣だ。だが、人間についてある種の真実を言い当てている。
「人間は最低だぞダイ。おまえほどの男が力を貸してやる価値などない連中だ。賭けてもいい…。余に勝って帰ってもおまえは必ず迫害される…! 奴らが泣いてすがるのは自分が苦しい時だけだ。平和に慣れればすぐさま不平不満を言いはじめる。勝った直後は少々感謝しても、誰も純粋な人間でない者に頂点に立って欲しいとは思わない…!」
この言葉にダイ自身、思い当たるフシがあるから強い説得力を感じてしまう。ベンガーナの町中で、ダイがドラゴンから人々を守った際、その圧倒的な強さはむしろ人々に恐怖を植え付けてしまった。それまで、大都市に来たことのなかったダイにとって、接したことのある人間は一握りだったため、このような純粋な敵意や恐怖心を向けられた経験がなかったせいか、ダイは強烈なショックを受けてしまう。
そして、その後に続く、父バランとの戦いの中でダイは、自分の母親が人間の嫉妬心や父に対する差別的感情から殺されたことを知る。バーンも当然そのことを知っているので、「おまえの父はこの問いに"YES"と答えた」と揺さぶりをかけてくるわけだが、確かに、人間とは嫉妬や迫害心など、醜い感情を持っているのは事実だ。
これは、本作の物語の中だけの話ではない。強すぎる力を持っている人間をねたんだり、恐れたりするのは人間の自然感情と言えるもので、いつの時代もかつての英雄は時代が変われば追い落とされ、絶え間なく争いを繰り返しているし、いつの時代も差別は形を変えて存在している。
この問いかけが最後の戦いの前になされるのが、本作の優れたポイントだ。ただシンプルに、正義のために力で敵を倒せばそれで終わり、というものではない。何のために戦うのか、今一度主人公が思い直すきっかけとしてバーンの問いかけは機能していて、物語に触れる読者や視聴者も考える必要があったのだ。ここで戦う理由を明確に示すダイの純粋さは眩しい。バーンの問いがとても現実的だからこそ、ダイの非現実的ともいえるほどの純粋さが輝くのだ。
■少年の純粋さと対極な"老獪さ"
こうした人間に対する洞察力の他、バーンは人心掌握に優れた智謀の敵役だ。
魔王軍という高度に組織化された軍勢を作り上げ、部下への信任も厚い。とりわけ、失敗続きだったハドラーに3度までの失敗を許し、さらにアバンを葬った功績も認めて、やる気を促すあたり、気に入らない奴はすぐに処刑してしまうよくある悪役とは一線を画し、野望の実現のために、いかに手駒を動かすかも心得ている。
そして、それら全ての行動と策略は、情から来ているのではなく、自身の野望のためであるという徹底ぶりもバーンのスケールの大きさを実感させる。ハドラーやバランのような強者も、自らの手駒として考えていない冷酷さ、冷酷だからこそ冷静に観察し、少年であるダイに効きそうな揺さぶりをかけてくる。
大魔王バーンには、老獪という言葉がよく似合う。そして、そういう老獪さとダイの少年らしい純粋さの真逆にいるからこそ、この敵役もまた、魅力を増しているのだ。
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