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世界各国の音楽フェスはコロナとどのように向き合っている? 『コーチェラ』『グラストンベリー』などの動きを整理

2022年07月29日 13:01  リアルサウンド

リアルサウンド

リアルサウンド編集部

 連日のようにSNSのフィードに流れてくる海外のフェスティバルの映像。そこに映る景色を見ていると、ようやく長いコロナ禍を終え、パンデミック「以降」の時代に突入したかのような感覚を抱いてしまう。日本国内でも、昨年はイレギュラーな形での開催となった『FUJI ROCK FESTIVAL』と『SUMMER SONIC』がそれぞれ海外アーティストを招聘する例年通りの形式へと戻ることもあり、久しぶりの「あの感覚」を目前にワクワクしている方々も多いだろう。


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 だが、国内外問わずパンデミックは決して終息しておらず、日別の感染者数を見てみると、アメリカやイギリスでは昨年と同程度の人数が新たに感染しており、日本国内に至っては今年初頭以来のピークを更新しているという状況にある(もちろん、ワクチン接種率や変異株の登場も相まって単純に数字だけで比較をすることはできないが、あくまで参考として)。こうした状況の中で、世界各国の音楽フェスティバルはどのようにパンデミックと向き合っているのだろうか。


■政府や地方自治体と連携しながら緩和されていった感染対策


 フェスティバル復活の動きは、昨年の夏から秋頃に遡る。『Governors Ball』(2021年9月、アメリカ・ニューヨーク ※1)や『Reading and Leeds Festival』(2021年8月、イギリス ※2)といった多くの大型フェスティバルでは感染対策ガイドラインが定められ、来場者に対してワクチン接種証明書の提出や、事前のPCR検査の実施が義務づけられていた。とはいえ、ソーシャルディスタンスの徹底やマスク着用の義務づけ、声出しの禁止といった会場内での来場者の動きを制約するような項目については記載されていないケースが大半であり、「事前の対策は実施するが、会場内での行動についてはあくまで観客側に委ねる」というスタンスが取られるケースが多いのが実情だったりする。その結果、実は昨年の時点で「密になり、マスクを着けずに大合唱をする」という光景は珍しいものではなくなっていたと言っても過言ではない(実は一部の地域では来場者にマスクの着用を義務づけている場合もあるのだが、これに関しては無視されるケースが少なくない)。


 だが、それは決して好き勝手にやっているというわけではない。『Governors Ball』の運営などをサポートするLive Nationは昨年、政府や地方自治体と協力しながらガイドライン(※3)を策定し、それをフェスティバルやコンサートに適用することでイベントの開催に至っている。これは本稿の執筆にあたって確認した多くのフェスティバルに共通する動きであり、あくまで地域と連携した上で「ここまではルールとして定め、ここからは自己責任の範囲」と線引きをしているのである。地域の動きを見ながら、徐々に調整を進めていったというわけだ。


■『コーチェラ』の「規制撤廃」が与えるインパクト


 このようにパンデミックの中で模索を続けていたフェスティバルシーンに衝撃を与えたのが、今年4月に約3年ぶりに復活を遂げた世界最大級の音楽フェスティバル『Coachella Valley Music and Arts Festival』(以下、コーチェラ)である。今年2月、同フェスティバルは当初の感染対策ガイドラインを更新し、これまで必須だったワクチン接種証明書の提出や事前のPCR検査についても不要という方針を発表したのだ(※4)。これにより、来場者に対する制約が実質すべてなくなったのである。この『コーチェラ』の動きはこれまで徐々に進めてきた流れを一気に押し進めるものであり、その影響力は計りしれない。恐らく、今後は多くのフェスティバルが対策なしでの実施に踏み切るのではないだろうか。実際、先日の『グラストンベリー・フェスティバル』も同様に、特に感染対策を設けることなく開催に至っている(※5)。


 このガイドラインの更新はカリフォルニア州における、大規模イベントの規制緩和に併せて発表されたものであり、一応は地域におけるポリシーに根付いたものだ。だが、実際に『コーチェラ』が開催されるリバーサイド郡の公衆衛生局の広報担当者は、地元のTHE PRESS-ENTERPRISE誌に対して「世界中から参加者が集まる大きなイベントはより大きなリスクをもたらすため、参加する人は予防接種を受け、マスクを着用することを強くお勧めします」と声明を出している(※6)。恐らく、『コーチェラ』の生配信を観た多くの人々は、「『コーチェラ』ほどのフェスティバルが規制を設けずに開催するのであれば、他のフェスティバルでも同様に実施して問題はないのではないか」と感じたかもしれない。


 もちろん、フェスティバルの復活自体は歓迎すべき出来事であり、筆者も開催日を心待ちにしている音楽ファンの一人だ。だが、会場内での動きに際しては、「海外では大丈夫みたいだから」と安易に考えるのではなく、国内の感染状況や専門家の意見を踏まえた上で、自分なりに適切だと思う行動を心がけて楽しんでほしい。


※1 https://www.governorsballmusicfestival.com/covid-policy/
※2 https://www.readingfestival.com/news/2021-essential-guide/
※3 https://help.livenation.com/s/article/IMPORTANT-INFORMATION-ON-EVENT-ENTRY-REQUIREMENTS-HEALTH-CHECKS
※4 https://www.coachella.com/rules
※5 https://www.glastonburyfestivals.co.uk/information/advice/covid-19-policy/
※6 https://www.pe.com/2022/02/15/coachella-stagecoach-festivals-will-no-longer-require-masks-tests-or-covid-19-vaccination/
(ノイ村)