KADOKAWA、集英社、小学館の3社がマンガ海賊版サイト・漫画村の運営者に対し、漫画村より受けたと推測される損害の一部である総額19億2960万2532円の賠償を求めて、本日7月28日に東京地方裁判所に共同して提起した。
【大きな画像をもっと見る】漫画村は、マンガの単行本や雑誌はもちろん、写真集や文芸作品などさまざまな出版コンテンツ約8200タイトル(約7万3000巻相当)を掲載し、社会問題化した海賊版サイトだ。2016年に開設され、2018年3月に最盛期を迎えたのち翌月4月に閉鎖。2019年7月から9月にかけてサイト運営者を含む4人が逮捕され、サイト運営者には2021年6月に懲役3年、罰金1000万円、追徴金6257万円の刑事有罪判決が言い渡された。
漫画村の最盛期には月間アクセスが1億に迫ると推計され、違法な掲載によるタダ読みを通じて甚大な被害が発生。KADOKAWA、集英社、小学館は刑事裁判の進捗を踏まえつつ、損害賠償請求の手続きに向けた検討を続けていた。3社は今回の損害賠償請求にあたり、「漫画村は2018年4月に閉鎖されるまで、アクセス数で国内最大の海賊版サイトであり、その犯罪収益モデルは、現在確認されている多くの同種サイトに大きな影響を与えたと考えられます。いわば海賊版サイトの象徴的存在であり、刑事罰に加え民事的にもその責任が追及されて然るべきです」とコメントを発表した。
本日、漫画村への法的手続きに関する記者説明会が実施され、ACCS専務理事の久保田裕氏、同事務局長の中川文憲氏、原告代理人の前田哲男弁護士と中川達也弁護士、ABJの広報部会長兼法務部会長・伊東敦氏が会見に応じた。中川弁護士によると、今回の提訴の対象となったのは原告の3社(KADOKAWA、集英社、小学館)が発行した計17作品。17作品は漫画村に掲載されていた作品の中から、巻数が多いものなどが選定されたという。中川弁護士は約19億という請求額について「漫画村全体を通じて生じた損害はもっと大きい。19億はあくまで消失した損害の一部」と強調。「こうして民事の損害賠償請求が行われるということは、今後同様のサイトに対しても強い意味を持つ」と語った。なお損害の算定方法は記事末に掲載している。
伊東氏は海賊版サイトの最新状況を説明。ABJが把握している海賊版サイト数は、閉鎖されたサイトを除いて現在約1000。そのうち日本人向けが約170サイト、英語翻訳の海賊版サイトが約430サイト、英語以外の各国語に翻訳されたサイトが約400サイトだという。「アクセス数上位の海賊版サイトのうち、試算可能なサイトでタダ読みされた金額は2020年で2100億円、2021年で1兆19億円。マンガの紙・電子を合わせた正規の市場規模が6759億円なので、正規市場規模を大幅に上回る被害を受けている」「漫画村の最盛期より、状況は悪くなってきている」と語った。その上で、伊東氏は漫画村が“海賊版の跋扈”を誘発したと断じ、その理由を2つ挙げた。「1つは『日本人向けにマンガの海賊版サイトを作れば、膨大なアクセスを集められるという事実を全世界に広めてしまった』こと。もう1つは『マンガがタダで読める海賊版サイトの存在を、日本全国に知らしめてしまった』ことです。それまで主流だったリーチサイト型ではなく、ストリーミング型の漫画村はスマホでアクセスしやすく、爆発的に広がりました」と憤る。漫画村が閉鎖されて以降も後継サイトが誕生し、アクセスの多さから瞬く間に巨大サイトに成長。「海賊版サイトに特効薬はありません。できる限りの対策の積み重ねが必須です」と法的措置やユーザーへの広報活動などの重要性を説明した。
■ 「漫画村」を通じて生じた3社17作品に係る損害算定
「漫画村」の2017年6月から2018年4月までのサイトアクセス総数は5億3,781万であったと推計される。アクセスした利用者が1アクセスで漫画コミックス1巻を閲覧したと仮定すると、当該期間で5億3,781万巻分の閲覧があったと推計される。「漫画村」には最大で7万2,577巻が掲載されていたことから、1巻あたりの平均閲覧数は7,410と推計される(5億3,781万巻分の閲覧÷7万2,577巻=7,410)。「漫画村」へ掲載されていた請求対象作品の各巻ごとに、平均閲覧数である7,410と各巻ごとの販売価額を乗じて全て足し合わせ、作品ごとに損害を算定した。4で求めた作品毎の損害額を17作品全てで計算した上で足し合わせ、総額を算出した。■ 3社による共同コメント
漫画村は2018年4月に閉鎖されるまで、アクセス数で国内最大の海賊版サイトであり、その犯罪収益モデルは、現在確認されている多くの同種サイトに大きな影響を与えたと考えられます。いわば海賊版サイトの象徴的存在であり、刑事罰に加え民事的にもその責任が追及されて然るべきです。
事実、漫画村によって漫画家や原作者らが被った被害は甚大であり、作品をお預かりしている出版社にとって、漫画村運営者の民事的責任を明らかにすることは、現実的な回収可能性を措いても避けることのできない責務と考えます。大きな情熱と、骨身を削る努力によって産み出された作品に与えられるべき対価を、いかにも安易な方法で奪い取る行為は決して許されるものではありません。
原告3社は、クリエイターが安心して新たな創作に挑める環境を守るため、海賊版という犯罪撲滅への重要な一石として、この度の提訴に至ったものです。
■ ACCSコメント
ACCSはコンピュータソフトウェアのみならず、デジタル化された著作物の著作権侵害に対する会員の法的手続支援や広報啓発活動を幅広く行っています。漫画や雑誌などの出版コンテンツに関する著作権侵害対策も以前より行ってきましたが、特にインターネット上での無許諾アップロード対策について積極的に取り組んでいます。
こうした活動を通して、2017年7月ならびに9月には発売前の漫画作品に掲載されたイラストや台詞、あらすじなどを、いわゆるネタバレサイトで著作権者の許諾なく公開していた5名が逮捕されています。また、同年10月には、当時日本最大級とされた出版海賊サイト「はるか夢の址」を通じた無許諾アップロード事件でアップロード者およびサイト運営者ら9名が著作権法違反の疑いで逮捕されています。
「漫画村」を通じた著作権侵害事件に関しては、外部メディアでの寄稿や職員による出張著作権講習会など、さまざまな機会において事件を取り上げ、社会に対して警鐘を鳴らし続けました。「漫画村」の事件が広く社会に取り上げられた結果、インターネットへの漫画の無許諾アップロードの被害は一旦減少したとの報道も見られましたが、現在でも依然として国外サービスを悪用した大規模海賊版サイトによるコンテンツ被害が継続しているのも事実です。
ACCSはこのような現状を踏まえ、今後も会員への支援を行っていくとともに、関係団体とも緊密に連携し、著作権が尊重される社会の実現に向けてさまざま侵害対策・啓発活動を進めてまいります。