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伊達心眼流創始者・伊達軍曹の中古車道場破り! 第16回 「EV時代」到来前に乗っておくべき? すばらしきガソリンエンジン車たち

2022年07月28日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
多くの自動車メーカーが「20XX年までには販売する全ての新車をEV(電気自動車)に」すると発表している昨今。とはいえ、今すぐガソリンエンジン車が絶滅するわけではありませんが、「完全EV時代」が割とすぐそこまで来ていることは確かでしょう。ならば、EVしか乗れない時代がやってくるまでの間に「ぜひ一度は試しておくべきガソリン車」というのがあるのではないでしょうか? リアルな中古車事情に詳しい伊達軍曹さんに聞いてみました。


○「純ガソリンエンジン車」に残された時間は?



完全昭和世代である筆者の場合はガソリンエンジンにディーゼルエンジン、そして途中からはハイブリッドとエレクトリック(EV)が加わるという、今にして思えば原動機すなわちパワーユニットの選択肢が非常に豊富な、けっこう幸せな自動車ライフを送ってきた。生まれたタイミングに感謝である。



だが、現在20歳前後の平成中期世代は今後、「新車の選択肢はEVのみ」という世界で生きざるを得なくなるのかもしれない。



エレクトリックにはエレクトリックの良さがあるわけだが、それでも、将来的に「ワシは、なんとガソリンエンジンで動く車に乗っていたことがあるんじゃぞ!」と、自分の孫や近所の子どもに自慢したいのが人情というものだ。戦中派が「ワシはゼロ戦(零式艦上戦闘機)が勇ましく飛んでるのをこの目でみたことがあるぞ!」と自慢するようなものである。



まぁ今すぐエンジン車がなくなってしまうわけではないのだが、あまりのんびりしている時間はないことも確かだろう。



例えば北欧のボルボは「2030年までに、販売するすべてのボルボ車をEVにする」とコミットしている。今が2022年なので、2030年といえば8年後。お若い方にとっての8年後はずいぶん先の話に思えるかもしれないが、筆者のようなおっさんにとっては8年など「あっという間」である。貴殿もおっさんまたはおばさんになれば私の気持ちがわかるだろう。



まぁそれはさておき、ぼんやりしていられる時間はあまりないのである。なるべく早い時期に、EVとはまったくフィーリングが異なる「バリバリにハイパフォーマンスなガソリン車」に一度は乗ってみるべきなのだ。新車じゃなくて中古車でぜんぜん構わないので。

○予算があるなら「6.2Lの自然吸気V8」でどうか?



で、もしも今「バリバリにハイパフォーマンスな中古のガソリン車」を買うとしたら、どんな車種にすればいいのだろうか?



もしも貴殿がそこそこお金を持っているのであれば、最適なチョイスのひとつは2007年10月から2014年途中まで販売された「1世代前のメルセデス・ベンツ C63 AMG」だろう。


「W204」こと先代のメルセデス・ベンツ「Cクラス」のエンジンルームにぶち込まれた「M156」という6.2Lの自然吸気V型8気筒ガソリンエンジンは、いろいろな意味で相当強烈だ。



AMGが悲願の自社設計・生産を果たしたM156エンジンの中身は「レーシングエンジンをほんのちょっとデチューンしただけ」というニュアンスで、6.2Lという超絶大排気量にもかかわらず、7,000rpm超まで一気呵成に吹け上がる高回転型。すさまじい切れ味である。そして最高出力457psのそれをブン回したときの快楽は、昨今流行りのダウンサイジングターボエンジンのそれとはずいぶん異なるもので、当然ながらEVともまったく違う。


まぁ排気量6.2Lゆえに自動車税も年額11.1万円と強烈なわけだが、「貴重な人類遺産を自宅に置くためのコスト」と考えれば、決して法外に高いわけでもない。中古車価格も、「Performance Studio Edition」などの希少な特別仕様車を除けば300万~500万円ほどであるため、高いは高いが、まあまあ現実的ではある。

○100万円台までなら絶対にアルファロメオのV6!



「AMGのM156エンジンがすばらしいのはわかったが、300万~500万円はさすがに高い」という意見もあるだろう。気持ちはよくわかる。筆者も、中古車を買うならせいぜい100万円台までに収めたいと、常々思っている。



ご予算100万円台までで「珠玉のガソリンエンジン搭載車」を求めるのであれば、イタリアのアルファロメオしかないだろう。おすすめはアルファロメオ「GTV」という2+2クーペと、アルファロメオ「156」という4ドアセダンのV6DOHCエンジン搭載車である。

カーマニアの間では「ブッソーネV6」と呼ばれているそのエンジンは、トリノ生まれのエンジニアであるジュゼッペ・ブッソが1970年代に作り上げた名機。それが前述のアルファGTVおよび156にはそのまま――といっても、もちろんさまざまな改良を経てではあるが――搭載されているのだ。



当初はSOHCだったブッソーネV6は途中からDOHCになり、排気量も2Lのほかに2.5L、3L、3.2Lというバリエーションが生まれていった。だが、すべてのブッソーニV6に共通しているのは「ガソリンとオイルはけっこう食うが、その分だけ死ぬほど官能的に回る」ということだ。



今のうちにブッソーネV6を体験しておけば、完全なEV社会を生きる孫子(まごこ)の代まで「ワシはな、実はものすごいガソリンエンジンの車に乗っておったんじゃぞ」と自慢できることは200%間違いない。



中古車価格はGTVのV6搭載車が110万~200万円、156のV6搭載車が50万~270万円といったところ。156 GTAという3.2Lのハイパフォーマンスエンジンを搭載するグレードの上物は200万円以上だが、一般的な2.5L V6を搭載しているアルファロメオ 156であれば、好条件なものを100万円台前半で探せるはずだ。

○筆者自身は「空冷ポルシェ911」に大いなる未練が…



以上、「もしもお金に余裕があるなら6.2L自然吸気V8のW204型メルセデス・ベンツ C63 AMG!」「100万円台まででいきたいならアルファロメオのGTVか156のV6搭載車!」と、あくまで客観的な提案をさせていただいた。



しかし、客観的ではなく主観的な選択をするとしたら、私こと筆者はどんなガソリンエンジン車を今、買うだろうか?



無論、客観的なおすすめ選択肢として挙げたC63 AMGもアルファロメオのブッソーネV6搭載車も、筆者の「個人的な欲しいものリスト」に入ってはいる。



だが、もしもより主観すなわち「自分の超わがままな思い入れ」にしたがってチョイスするとしたならば、結論は「空冷方式のエンジンを搭載していた時代のポルシェ911」ということになるだろう。


ポルシェ「911」はもともと空冷方式のエンジンを搭載して1960年代にデビューし、その後、周囲の車がどんどん水冷化されるなかにあっても、1990年代途中まで頑なに「空冷方式」を守り抜いていた。



それが1997年に「水冷方式の水平対向6気筒エンジン」に変わったのは、年を追うごとに厳しくなる一方の環境性能基準を、古典的な空冷エンジンではさすがにクリアできなくなったからだ。



しかしその分というかなんというか、ポルシェ911の空冷エンジンは本当にすばらしい。



自分の背後で「バラバラバラ……」と乾いた音でアイドリングし、アクセルペダルを踏み込めば乾いた音のまま、しかし独特の咆哮をあげながらひたすらパワフルに変貌していくあの様は、EVやハイブリッド車では当然味わえない種類の快楽である。そして同じガソリンエンジンでも一般的な水冷方式では、やはり味わえない類のものだ。



私は、あの感触をもう一度味わいたいと熱望している。



いや「もう一度」というのは、実は私、過去に乗ってたんですよね、空冷911。まだ空冷ポルシェ911の中古車相場が馬鹿みたいに高くなる前に、けっこうお安い値段で買ったんですわ。



しかし、今やご存じのとおり空冷ポルシェ911の中古車相場は鬼のように高騰しており、「走行10万km超でも1,000万円以上」みたいな、買い戻すことはほぼ不可能な相場状況に変わってしまった。



あぁ、ホントあのとき売らなきゃよかった……というのは筆者の個人的な後悔だが、貴殿におかれてはこの種の後悔をしないで済むように、すなわち「あぁ、あのときガソリン車に乗っておけばよかった……」とならぬよう、今のうちに「すばらしきガソリンエンジン車」を、一度くらいは体験しておいてほしいのである。



伊達軍曹 だてぐんそう 1967年東京都出身。外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、大手自動車メディア多数に記事を寄稿している。中古車選びの流派「伊達心眼流」の創始者(自称)。 この著者の記事一覧はこちら(伊達軍曹)