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1人2役、3役は当たり前? 渡邊圭祐、Koki,、林遣都らの出演作から探る“演じ分け”の妙

2022年07月27日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー/最後の錬成』(c)2022 荒川弘/SQUARE ENIX (c)2022 映画「鋼の錬金術師2&3」製作委員会

 もはや全員が“1人2役”を演じているのではないかとさえ思える『鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成』。主演の山田涼介が1人で3役こなしていることや、渡邊圭祐たちが2つの人格を演じているため、事実としてそんな印象を受けるのだ。ここではあらゆる作品にさまざまなかたちで現れる“1人2役”というものにフォーカスし、それらが作品や観客に何をもたらしているのかについて考えてみたい。


【写真】1人で3役演じた山田涼介


 『鋼の錬金術師』シリーズの完結編である『最後の錬成』にて渡邊が演じていたのは、その一つ前の『復讐者スカー』と同様に、“シン”という大国の第十二皇子であるリン・ヤオ。彼は一族繁栄のために不老不死の法を求めて賢者の石を欲する者として登場し、やがて「強欲」の賢者の石を注入されるかたちでグリードという別の人格を得ることになる。リンは仲間想いで明るく心優しい皇子だが、グリードは「強欲」の名が示す通りだ。この2つの人格が劇中ではころころと入れ替わる。ファンタジックな世界観の作品のため、映像表現によってその変化を訴えることも多々あるが、それはやはり演じる俳優あってこそ。不敵な笑みや刺々しい口調など、表情と発声のキレある変化で渡邊は“1人2役”をモノにしている。ちなみに彼は昨年上演された『彼女を笑う人がいても』で初舞台を踏み、こちらでも1人で2役を演じた。観客を目の前にした環境であっても、キャラクターを切り替える渡邊の演技のスイッチングは見事だった。


 渡邊がいまもっともホットな“1人2役”を演じる俳優とあって少し長くなってしまったが、これをモノにしているのは彼だけではない。2022年4月クールに放送された『元彼の遺言状』(フジテレビ系)では生田斗真が、さらにその前の2022年1月クールの『愛しい嘘~優しい闇~』(テレビ朝日系)では林遣都が、同一作品内にて異なる役を演じ分けていたのが記憶に新しい。特に後者は演じるキャラクター同士が対峙するシーンがあり、その違いがあまりにも大きかったため、林の演技は「怪演」として話題を呼んでいた。


 それに今年もっとも印象に残っている“1人2役”といえば、『牛首村』で俳優デビューを果たしたKoki,の存在がある。同作で彼女は、東京で生活する奏音と、ある理由で奏音と生き別れてしまった妹・詩音の2役に扮した。パッと見は同じ人物に思えるが、彼女たちはまったく異なる環境で高校生になるまで育ってきたため、その性格は大きく異なる。Koki,は2人の少女がそれぞれに持つバックグラウンドの差異をも繊細に演じ分けていた。その表現力の高さに驚いたのは筆者だけではないはずだ。


 ここ最近で“1人2役”を演じた俳優を数名ピックアップしてみたが、一つの作品内で異なるキャラクターを演じるというのはやはり簡単ではないだろう。その差異の大きさや変化のカタチによっては、作品そのものがリアリティを失いかねない。だからこそこれを正確に表現するには高い技術が必要なのだ。とはいえ、どんなキャラクターにも少なからず多面性があるものだ。


 例えば、私たちは接する相手によって態度を変える。家族や友人、仕事仲間に恋人など、相手との関係性に合わせて誰もが自らを変化させるはずだ。そしてこの全部をひっくるめて、「私」や「あなた」は成り立っている。すべての人間に対してまったく同じ態度で接していれば、たちまち社会生活は破綻してしまう。これを物語の中のキャラクターやそれを演じる俳優に置き換えてみると、一人の人間の“繊細な多面性”を演じることができない者には、当然ながら“1人2役”は務まらないことが分かるだろう。


 遠回しの言い方になるが、“1人2役”をモノにできる俳優というのは、一人の人間の役をきちんとモノにでき、かつ演技者として高い水準にあるということだ。こういった俳優の演技の細部に注目してみると、映画もドラマも演劇も、さらに奥深いものになるはずである。


※Koki,の「o」はマクロン付きの「o」が正式表記。


(折田侑駿)