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ほとんどEV? ホンダ「シビック」のハイブリッドに試乗!

2022年07月26日 11:31  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
「ホンダのシビックって、どんなクルマ?」と聞かれると、答えに困る。新型「シビック」のガソリンターボエンジン車は軽快な走りに好印象を抱いたのだが、同じシビックでも新登場のハイブリッド車(HV)は、かなり印象の異なる1台に仕上がっているからだ。今回はHVに試乗したのでレポートしたい。


○エンジンのホンダなのにエンジンの存在感なし?



新型シビックの発売は2021年9月。1972年に初代が誕生してから通算11代目となる。新型は排気量1.5Lのガソリンターボエンジン車のみだったが、2022年7月にハイブリッド車が追加となった。



8代目以降、シビックは米国市場を視野にボディサイズが大柄になり、3ナンバー車に。現在のシビックは競合としてきたトヨタ自動車「カローラ」と比べてひと回り大きい。メルセデス・ベンツ「Cクラス」よりはやや小ぶりというくらいの存在感だ。


それでも1,400kgを切るような軽い車体重量によって、ガソリンターボエンジン車の走行は実に軽快で、欧州車と比べても遜色ないほどの確かな操縦安定性があり、上級4ドア車として強い印象をもたらした。



それから約10カ月を経て、ハイブリッド車が追加となった。



ハイブリッドシステムはホンダが「e:HEV」(イーエイチイーブイ)と名付ける2モーター式。通常走行はモーターで行う。その間、車載リチウムイオンバッテリーの充電量が減るとガソリンエンジンが起動して発電し、充電を行う。日産自動車の「e-POWER」と同様の「シリーズ式」と呼ばれる方式だ。


ただe:HEVは高速走行になると、それまで発電用に使ってきたガソリンエンジンを走行用にも利用し、エンジンの動力で直接タイヤを駆動して走らせる。そのため、ガソリンエンジンの排気量はターボエンジン車のシビックより大きい2.0Lとなる。



シビックe:HEVは走りだしと一般道での走行がモーター駆動であるため、まるで電気自動車(EV)のような乗り味だ。リチウムイオンバッテリーに十分な電力が蓄えられていれば、EVと同じくモーターだけで走り、ガソリンエンジンも発電用に稼働せず静かなままなので、当然といえば当然だ。ただ、HVと思って乗っているので、エンジンの存在感がない走りを意識させられるのである。



バッテリーとモーター2個が新たに加わるため、ターボエンジン車に比べると車両重量は100kg前後重くなる。それでも1,460kgと1.5トンを下回っているわけだが、重量増により、乗り心地に重厚さが感じられる。ガソリンターボ車の軽快さとは別次元だ。上質な上級車種の趣である。モーター走行による静粛性の高さも上質さを強めている。


アクセルペダルをやや強く踏み込みながら加速させていくと、ガソリンエンジンが始動して発電を始めるが、それでも静粛性が破られる印象はない。エンジンが稼働したことは、メーター内の表示で確認しなければ気づかないほどだ。エンジンが始動することによる新たな振動も感じず、騒音の高鳴りもなく、モーター走行と変わらずに粛々と重厚に走り続ける様子に驚いた。



さらに強くアクセルペダルを踏み込むと、エンジン回転が上がって高鳴るような音が耳に届く。だが、軽やかに響く音色に聞き惚れこそすれ、その音は控えめに遠くで聞こえる印象で、それまでの静粛で重厚な走行感覚とのずれは覚えさせない。アクセルペダルを戻していくと再び静寂な室内空間に戻り、質の高い上級車の乗り味を楽しめる。

高速道路に入ると速度域が高まるため、基本的にはガソリンエンジンによるタイヤ駆動となるはずだが、バッテリーにそれなりの充電量があれば、一定速度に落ち着くとモーター駆動になる。またエンジン走行中も騒音が際立つということはなく、モーター走行とエンジン走行が切り替わっても走行感覚や室内環境に差を感じず、違和感はない。

○まるでEV! それだけに回生の使い方が気になる



システムとしては「モーター走行」「エンジンを発電に使うハイブリッド走行」「エンジンで直接走らせる高速走行」と制御を区分けできるのだが、実際の走行では明確な境界線はなく、全体的にほぼEVに乗っているような雰囲気が続く。



このように、e:HEVはまるでEVに乗っているかのような気分にさせるハイブリッドシステムであるため、次第にEVと同じ操作を求めだす自分に気づいた。顕著な例が回生の利用だ。日産のe-POWERで使われるモーター走行ならではのワンペダル運転を、シビックe:HEVでも使いたくなってくるのだ。



e-POWERはHVでありながら、EVと同じようにワンペダルの運転操作ができる。一方のシビックe:HEVは、ハンドル裏側にあるパドルで回生の強弱を調整でき、4段階の強さを選べるが、最も強い回生を利用できる状態を保持してワンペダル的な運転をしたいと思っても、しばらくすると回生が最も弱い段階に戻されてしまうのである。


エンジン車でエンジンブレーキを使おうとしたときには、パドルやシフトレバーでダウンシフトを行い、変速によってエンジンブレーキの強弱を選ぶ。したがって、ワンペダル操作の感覚はない。e:HEVの回生価値の与え方は、そうしたエンジン車でのダウンシフトと同様の制御のようだ。



自動車メーカーによって、HVでの回生の活用法に独自の考えがあるのはかまわない。しかし、シリーズ式ハイブリッドを基に、あたかもEVを運転しているかのような走行感覚を与えるなら、ワンペダル操作ができるような回生の設定を選べる方がいいように私は思う。



それ以外は、切れ目のない一体感のある上質で重厚な走行感覚のシビックe:HEVの完成度に感嘆させられるばかりだった。同時にまた、ガソリンターボ車のシビックとは別のクルマであるかのように思わせる価値観にも驚かされた。


ひとつの価値観では語れない商品性が、ガソリンターボ車とe:HEVのそれぞれにある。車名が別々でもいいのではないかと思えるほど、選択する基準が違っている。そんなシビックには間もなく、ハイパフォーマンスな「タイプR」も加わる。



ガソリンターボかe:HEVか、それともタイプRか。価格を含め、それぞれに選ぶ意味のある新型だろう。それだけに、「はたしてシビックとはどのようなクルマなのか」と問われても、簡単には答えにくいのも事実だ。


御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら(御堀直嗣)