2022年07月25日 10:21 弁護士ドットコム
夫婦円満な生活を送るためにも、できれば事前にトラブルの芽は摘んでおきたいものです。そこで、年間100件以上離婚・男女問題の相談を受けている中村剛弁護士による「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」をお届けします。
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連載の第12回は「『もう二度としない』は信じて良いのか」です。離婚事件を扱う中村弁護士の元には、不倫や暴力が絡む相談が多数寄せられています。話し合いの中で相手から「もう二度としない」と言われたら、それを信じても良いのでしょうか。
中村弁護士は、「不貞行為に関しては、いっそのこと別れてしまうか、不貞行為をされても婚姻関係を続けるくらいの覚悟が必要です」と話します。
今回は、ちょっと変わった視点として、「浮気(不貞行為)や暴力をもうしない、というのは信じてもよいのか」ということをお伝えしたいと思います。
私は、現在、離婚事件を多数扱っておりますが、その中には、不貞行為や暴力行為が絡む案件も多数あります。もちろん、私のところにご相談に来られる方は、ある程度紛争が表面化している方達が多いので、サンプルには偏りがあることは承知しています。
ただ、それを考慮しても、浮気(不貞行為)や暴力行為があったという事例を多数見てきておりますので、それを踏まえて、少しでも参考になるお話ができればと思います。
浮気(不貞行為)をした方の動機は様々ですし、特定の人が発覚した後に、二度としないかどうかは誰にもわかりません。
しかし、私が過去、不貞案件で相談に来られたケースでは、実は、不貞行為が1回(ないし1人)ではなく、2人以上の人と不貞行為をしていたか、見つかってからも不貞行為を続けていたというケースが多くあります。
不貞行為が発覚しないまま、2人以上と不貞行為をしてきた人もいますが、一度発覚した後に謝罪して許してもらったものの、また不貞行為に走ってしまったという人が少なくありません。不貞行為が発覚して「二度としない」という謝罪文や誓約書を提出したにもかかわらず、その後に10年以上不貞行為を続けていたケースもありました。
なお、そのような行為を行うのは男性が多いというわけではなく、女性が不貞行為を行う場合も同様です。謝罪して真摯に反省し、二度と不貞行為をしていないというケースもないわけではありませんが、そんなに多いものではないと感じます。
不貞行為を行うきっかけは様々ですが、最初のハードルは高くとも、そのハードルを一度乗り越えてしまうと、残念ながら次を乗り越えるのはそれほど難しいことではありません。そのため、繰り返し不貞行為を行ってしまうのではないかと感じます。
パートナーの不貞行為が発覚して問い詰めた際に、相手が不貞行為を認め、「もう二度としない」と泣きついてくるかもしれません。しかし、「もう二度としない」というのを額面通りに受け取ってしまうと、再び裏切られてしまった際に、ひどく傷つくことになると思います。
不貞行為が発覚したからといって、必ずしも別れた方がいいとは限りません。それでも、その人を愛しているということもあるでしょうし、子どものため、今後の自分の生活の安定のためなど、様々な理由から、別れないという選択肢を取る方もいます。それはそれで間違っているとは思いません。
しかし、別れないのであれば、「もう二度と不貞行為をしないと言っているから」別れないのではなく、「仮に再び不貞行為をされたとしても別れない」くらいの覚悟は必要かと思います。
実際、何度パートナーに不貞行為をされたとしても、別れない人は一定数います。それくらいの覚悟がないと、一度不貞行為をした人と、今後も婚姻関係を続けることは難しいのだろうと思います。
ちなみに、不貞行為をしたパートナーに「二度と不貞行為をしない」「二度と会わない」などといった内容の誓約書を書いてもらうケースがあります。
法的に言えば、誓約書を書いたにもかかわらず、さらに不貞行為を繰り返せば、悪質性が高いとして慰謝料額の増額事由になり得ます。その意味で、一定の抑止にはなりますが、いくら増額されるのかはケースバイケースではっきりとしないため、確実に抑止することはできません。
そのため、誓約書は絶対ではない、ということは頭の片隅に置いておいた方がいいかと思います。
(身体的な)暴力に関しては、精神疾患が絡んでいることがあり、一概には言えませんが、これもやはり繰り返されているケースが多くあります。
暴力を振るう場面と、優しい場面を使い分けられて、被害者が精神的に支配されてしまっているケースもまま見受けられ、なかなか抜け出すのが難しい方もいます。外面は良かったりすると、余計に周囲に理解してもらえず、一人で悩まれている方も少なくありません。
「もうしない」と泣いて謝られたとしても、それを信じてよいかどうかは、慎重に判断する必要があります。少なくとも、目に見える怪我をするほど暴力を振るわれたのであれば、単に言葉だけではなく、具体的な解決策が必要だと思います。
もし、暴力行為の原因が、精神的なものに起因するのであれば、きちんとした治療が必要です。一度、医師の診察やカウンセリングが必要なケースもあります。そのような具体的な解決策がないまま、単に言葉で「もうしない」と言われただけでは、残念ながら根本的な解決に繋がらないことが多いと思います。
不貞行為と異なり、身体的な暴力は犯罪行為です。不貞行為は、本人が婚姻関係を継続したいと思うのであれば、継続させるということもあり得ますが、暴力の場合は、下手をすると命の危険があります。子どもがいる場合は、子どもの命も危険に晒すことになりかねません。
そのため、私としては、不貞行為に比べて、周囲に助けを求めた方がいいケースの方が多いと思います。
私が、過去扱った事件では、刑事事件に発展し、暴力行為を行った方が逮捕されたケースもありました。1度逮捕されたら止まるかというと、必ずしもそうではありません。逮捕された場合ですらそうですから、単なる言葉だけでは心許ないと言わざるを得ません。
また、DVを理由に警察に通報したとしても、逮捕まで至るのはある程度悪質性が高いとみなされたときです。そこまでではない場合、警察が来て事情を聞かれ、当日は一緒の家で過ごさないようにという指導はされますが、逮捕まで至らないケースも多いです。
ただ、警察の記録には残ることになりますので、積極的に警察に通報はしておいた方がいいと思います。 DVには精神的DV(いわゆるモラハラ)や、経済的DVなどもあります。これらは、DVを行っている本人が、DVを行っていると認識していないケースも少なくなく、言葉で説明しても、なかなか理解されにくいということもあります。
これも、精神疾患に起因しているケースもありますので、医師の診察や、カウンセリングが必要かもしれません。カウンセリングも、1回行っただけでは改善の見込みは薄く、続けることが重要です。
以上のとおり、不貞行為も暴力行為も、「もうしない」と言われても、本当に二度とされないかは、相当不安が残ると言わざるを得ません。そのため、不貞行為に関しては、いっそのこと別れてしまうか、不貞行為をされても婚姻関係を続けるくらいの覚悟が必要です。
他方、暴力行為は、命の危険もあるので、なるべく早めに周囲に助けを求め、基本的には離れた方がよいように思いますが、仮に別れないとしても、相手方にカウンセリングを受けてもらうなど、具体的な行動を取った方がいいと思います。
(中村剛弁護士の連載コラム「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」。この連載では、結婚を控えている人や離婚を考えている人に、揉めないための対策や知っておいて損はない知識をお届けします。)
【取材協力弁護士】
中村 剛(なかむら・たけし)弁護士
立教大学卒、慶應義塾大学法科大学院修了。テレビ番組の選曲・効果の仕事を経て、弁護士へ。「クライアントに勇気を与える事務所」を事務所理念とする。依頼者にとことん向き合い、納得のいく解決を目指して日々奮闘中。
事務所名:中村総合法律事務所
事務所URL:https://rikon.naka-lo.com/