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朝ドラ“相手役”知らない方が面白い? 『ちむどんどん』など恋の行方を追うカラクリ

2022年07月24日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『ちむどんどん』(写真提供=NHK)

 神木隆之介が主演を務める2023年度前期のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『らんまん』の妻役として、浜辺美波が発表されたことで、期待がさらに高まっている。思えば、2020年度前期放送の『エール』も、窪田正孝の相手役が最初から二階堂ふみと発表されていたが、近年の作品では現在放送中の『ちむどんどん』をはじめ、前作の『カムカムエヴリバディ』や『おかえりモネ』『なつぞら』『半分、青い。』など、“相手役”が発表されない作品のほうが割合として断然多い。


【写真】「イケメン朝ドラ」と言われた『なつぞら』の相手役候補たち


 その大きな違いは、実在したモデルもしくはヒントとなった元ネタがある作品と、オリジナル作品という部分にあるが、それだけで断ずることができない面白さがある。また、相手役が発表されている場合にも、されていない場合にも、どちらにも利点はある。


 発表されていないことの最大のメリットは、視聴者がヒロインの恋の行方をドキドキしながら見守れることだろう。


 3代にわたってドキドキさせてくれるという高難度な盛り上げ方を見せてくれたのは、『カムカムエヴリバディ』だ。初代ヒロイン・安子(上白石萌音)が初恋相手・稔(松村北斗)と互いの家の事情により別れを決意し、稔の下宿先に会いに行ったものの、何も語らず、汽車で一人涙するところに別れたはずの稔が現れ、「なんで泣いてるん?」と声をかけたシーンは、朝ドラ史上屈指のときめきシーンになっている。その後も二人の間には障害があったが、安子に思いを寄せる幼馴染で、稔の弟・勇(村上虹郎)と安子の父(甲本雅裕)、稔の父(段田安則)の計らいが後押しする形で、一緒になれた二人。しかし、戦争が全てを奪ってしまう。


 一方、2代目ヒロイン・るい(深津絵里)の場合、最初に好意を抱いたクリーニング屋の客(風間俊介)が、るいの額の傷を見たことで腰が引け、あっという間に退場。予想通り相手役に見えていた「謎の男」錠一郎(オダギリジョー)と距離が徐々に縮まり、結ばれるが、そこに至る道のりは非常に険しいものだった。


 さらに3代目ヒロイン・ひなた(川栄李奈)の場合、相手役だと思った五十嵐(本郷奏多)と会うたびにケンカ→交際という王道展開に至ったにもかかわらず、破局。再会し、結婚を決意……したものの、その相手はひなたではなかったという盛大なズッコケぶりを見せてくれた。しかし、だからこそ最終的に生涯独身に見えたひなたが初恋相手と仕事を通じて再会する。何があるか最終回の最後までわからないドキドキをくれた作品だった。


 また、相手が最後までわからないという意味では、『半分、青い。』のパターンは異色だった。同じ病院で同じ日に生まれ、胎児同士からつながりがあったヒロイン・鈴愛(永野芽郁)と律(佐藤健)。まさに運命の出会いだった二人は、それぞれ別の相手と付き合い、結婚し、別れ、散々遠回りした挙句、「発明」を通してパートナーとなり、結婚を予感させるかたちで幕を閉じる。


 一方、『なつぞら』の場合は、ヒロイン・なつ(広瀬すず)にヒントとなった人物がいたが、あくまでヒントで、オリジナルの物語であったこと、「イケメン朝ドラ」と言われるほどにイケメン俳優勢ぞろいだったことから、相手役がなかなか見えなかった。


 そんな中、クラスで悪口を言われていたなつをかばい、なつが絵を描くきっかけを作った幼なじみの天陽(吉沢亮)の人気が序盤を引っ張っていた。しかし、あっけなく別の女性と結婚。しかも、天陽のモチーフになった人物(神田日勝)が32歳で早世したことがネットなどで周知となるにつれ、天陽との別れを惜しむ声が視聴者の間で盛り上がっていく。


 一方、なつの相手役となった坂場一久(中川大志)は、出演が発表された時点で相手役候補と見られていたが、頭脳明晰で不器用で理屈っぽい変人キャラとして登場。コミュニケーションの不得手さも手伝い、時間をかけてじっくり距離が縮まり、じわじわと人間らしさを見せ、それが徐々に愛らしさに変わり、やがては子煩悩の良き父になるという素敵な変化・進化を見せてくれた。


 また、『おかえりモネ』の坂口健太郎の場合、「相手役」と告知されていなかったものの、演じる菅波の作品内の番手や、『なつぞら』の坂場にも通じる理路整然とした不器用キャラであることなどから、最初から相手役だと確信していた視聴者は多かったろう。にもかかわらず、恋愛に奥手で鈍感なヒロイン・百音(清原果耶)と同じく不器用で鈍感な菅波というW天然記念物的組み合わせのスローな恋愛に、視聴者たちがじれったさを楽しみ、「俺たちの菅波」とSNSなどで盛り上がる珍現象が起こった。


 ちなみに、坂口といえば、『とと姉ちゃん』でヒロイン・常子(高畑充希)に求婚するが、家庭内で父親がわりの役割を果たす常子が家庭を優先し、断られ、やがて別の女性と結婚・死別した後に、常子と再会。再び親密になるが、最終的にはまた別れるという悲恋を経験していることもあり、今世こそ幸せになってほしいという願いを『おかえりモネ』に託した視聴者もいたことと思う。


 また、相手役として告知されておらず、全くの不意打ちで瞬く間にヒロイン・喜美子(戸田恵梨香)、そして視聴者の心を奪っていったのが、『スカーレット』の八郎(松下洸平)だ。最初、喜美子が思いを寄せたのは、女中として働く下宿に住む医学生・圭介(溝端淳平)だったが、喜美子を妹のように感じていたこともあり、到底恋の相手に発展する気配はなかった。ところが、八郎が現れた瞬間、空気が変わった。おそらく本作で松下洸平を初めて知った人が大半だっただろうが、まとった空気の生々しさ、異質さは、理屈抜きに「これだ!」と確信させるものだった。


 これは『カーネーション』でヒロイン・糸子(尾野真千子)が夫を戦争で失った後に初めて知った恋の相手・周防(綾野剛)との出会いの瞬間にも似ている。そこだけが周囲から浮き立つように異質に見え、空気が変わる――演出の巧妙さもあるが、役者が放つ色香のせいもあるのだろう。


 一方、相手役が告知されていた作品も少々振り返ってみよう。


 『エール』の場合、序盤では主人公・裕一(窪田正孝)と妻・音(二階堂ふみ)の人生が幼少時から別々に進行していく。最初は対照的なキャラクターのW主人公の並走する物語に見えていたが、そんな二人が後に伴侶となる事実を視聴者は皆知っているだけに、その接点がいつ、どこになるのかを見守る楽しさがあった。


 また、ヒロイン・福子を安藤サクラが、その夫で、日清食品創業者の安藤百福をモデルとした萬平を長谷川博己が演じた『まんぷく』の場合。『エール』と同様に、視聴者は皆、二人が夫婦になることを知ったうえで観ていたわけだが、だからこそおっとりのんびり奥手のヒロインと、恋愛に興味がなさそうな“マッドサイエンティスト”的萬平にどうやったら恋が芽生えるのか、結婚することになるのかに、興味が注がれた。また、屋台でラーメンを美味しそうに食べる福子と萬平を微笑ましく眺める一方、奥手な福子に自らの思いも伝えず、3年にわたって缶詰を渡し続ける「缶詰の人」野呂(藤山扇治郎)に不憫萌えした人も多かった。


 さらに、『おちょやん』で相手役・天海一平として発表されていた成田凌は、かなりの難役だった。ヒロイン・千代(杉咲花)と幼少時に出会い、影響を与える喜劇一座の座長の息子で、後に再会、結婚することもモデルとなった浪花千栄子の史実からわかっていた。しかし、幼なじみゆえの親しみやすさの一方で、根っからの遊び人という欠点は変わらず、やがて千代を裏切り、女優に手を出して妊娠させ、離婚。しかし、そこからどん底に落ちた千代が女優として開花する起爆装置でもあった。


 女ったらしでどうしようもないクズを逃げず、綺麗ごと抜きに演じ切り、憎まれながらも、魅力に説得力を持たせることができたのは、成田凌の持ち前の人たらし力あってのものだろう。


 さて、『ちむどんどん』は、作中で最も愛されたキャラの一人・愛(飯豊まりえ)と6年間も付き合った挙句、「全部なかったことに」というビックリ発言で別れ、好感度を下げた和彦(宮沢氷魚)が、ヒロイン・暢子(黒島結菜)の告白を受け、おまけにプロポーズまでされる展開に。今のところ祝福する視聴者は少ない暢子と和彦の恋が、どこに向かうのか、今後も見守りたい。


(田幸和歌子)