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100年前のグランプリカー『TT1』はマン島TT用に開発された新車。当時の最新鋭エンジンも搭載/サーキット便り

2022年07月23日 19:31  AUTOSPORT web

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マーティンの率いるチームが開発した16バルブDOHC 4気筒のレースエンジン
7月21日、F1第12戦フランスGP開幕を前日に控えたポール・リカール・サーキットで、あるイベントが行われた。1922年にフランスでグランプリ・デビューを飾ったアストンマーティンがその100周年を祝って、当時のTT1をポール・リカールで走らせたのだ。

 ステアリングを握ったのはセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)で、その隣にはジョニー・ハーバートが座った。当時はレギュレーションで2座のシートが装着されていなければならず、ドライバーの隣にはライディングメカニックを同乗しなければならなかったからだ。

 このTT1はもともとライオネル・マーティン率いるチームとレーシングドライバーを務めたルイ・ズボロウスキーが、1922年のマン島TT(ツーリスト・トロフィー)に参戦するために製作した新車だった。ズボロウスキーは、ポーランド人伯爵の父と、アメリカ人の富豪の母の間に生まれた伯爵で、その豊富な資金を愛するモータースポーツへ捧げたのだった。

 ズボロウスキーの情熱によって、マーティン率いるチームはマシンだけでなく、まったく新しい16バルブDOHC 4気筒のレースエンジンも開発した。

 1486ccのこのエンジンは、最高出力が約55bhp(約56PS)/4200rpmで最高速度は85mph(約137km/h)に達したという。このエンジンに燃料を効率よく送るために欠かせなかったのが、同乗のライディングメカニックによるハンドポンプを使った燃料タンクへの圧力だった。

 それ以外にもライディングメカニックはさまざまな計測器を見て、ドライバーに的確な指示を与えていたという。テレメトリーや無線がない当時はドライバーは運転だけに集中して、現在はテレメトリーでドライバーに指示を送るような仕事を同乗のライディングメカニックが担っていた。

 ドライバーが運転に集中しなければならなかった理由は、もうひとつある。それはペダルやブレーキ、ギヤシフトが現在とはまったく異なっていたからだ。クラッチやシフトパドルは現在はステアリングのなかに組み込まれているが、クラッチは左足ペダルで、ギヤシフトはコクピットの外にあった。

 コクピットの外にあるもう1本のレバーはリヤブレーキ・レバーで、フロントブレーキは右足で踏むというシステムだった。そのフロントブレーキペダルはコクピットのなかの足元にあるのだが、3ペダルの場合、現在のように中央にあるのではなく、右端となっていた。中央の「J」の形をしたペダルがアクセルペダルだ。

 車両重量750kgのTT1をポール・リカールで走らせたベッテルは「最後にフランスGPのスタートラインに立ってからちょうど100年目の節目に、このクルマをドライブできるなんて本当に名誉な事だった」と、イベントを企画したスタッフたちに感謝の気持ちを込めながらTT1を気持ちよく走らせていた。