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日産独自のVCターボエンジンで電動走行? 新型「エクストレイル」に試乗

2022年07月20日 13:11  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
日産自動車の売れ筋SUV「エクストレイル」の次期型最終プロトタイプにクローズドコースで試乗する機会を得た。プロトタイプといっても、もう新型エクストレイルそのまんま。登録していないからナンバープレートが付いていないというだけ。現行型オーナーをはじめとする日産ファンが首を長くして次期型登場を待っていたにもかかわらず、お待たせしすぎた感のあるエクストレイルだが、待たせただけのことはある出来栄えであることを最初にお伝えしておきたい。


○全面刷新で端正な姿に



エクストレイルといえば現行型で3世代目。初代は2000年に登場し、ボクシーで無骨なデザインが人気を集めた。カタチだけじゃなく、エンジン横置きのFWDベースの4WDながら、本格的な電子制御システムによる高い悪路走破性が備わっていたり、濡れた格好のまま車内に入ってもOKなインテリアの仕立てになっていたりと、乗用SUVでありながらある程度はヘビーデューティーな用途にも対応している点が評価され、「タフギア」というよく練られたキャッチコピーも手伝って大ヒットした。



2代目はキープコンセプト。途中でクリーンディーゼル搭載モデルを追加し、その後の国産車ディーゼル復活の流れをつくった。国産ディーゼルといえば真っ先にマツダを思い浮かべる人が多いと思うが、復活させたのは日産のほうが早い。


3代目、すなわち現行型はガラリと見た目の印象が変わり、スタイリングはやや丸みを帯びて無骨さが薄まった。e-POWERシステムはまだ存在していなかったが、1モーターのフルハイブリッドモデルもラインアップした。ここ数年は、ルノーとの力関係の綱引きやトップによる劇場型不祥事などが起き、4代目エクストレイルの行く末はなかなか定まらず、やや鮮度の落ちた3代目を手を変え品を変え、長く販売する状態が続いていた。


ようやく登場した4代目はプラットフォーム、つまり車台からして新しい。フルモデルチェンジといっても車台はそのままで、外から見える部分を変更するだけの場合も結構あるが(それが悪いとは限らない)、今回は全面刷新。最近流行している上下2分割のヘッドランプユニットを採用し、フロントグリルには「Vモーション」グリル。全体的にオーソドックスで端正なスタイリングだ。初代から3代目までを足して3で割ったようでもある。


車台は先に登場した三菱自動車工業「アウトランダーPHEV」も使っているもの。じゃ、エクストレイルもプラグインハイブリッド車(PHEV)なのかといえば、さにあらず。新型エクストレイルはハイブリッド専用車として登場した。


○VCターボエンジン搭載なのに電気で走る?



日産のハイブリッドといえば、いわずとしれた「e-POWER」だ。すでに「キックス」「セレナ」「ノート」で採用し、いずれも高い評価を得ている。エンジンはもっぱら発電のために稼働し、駆動は100%モーターが担うのが特徴。そしてエクストレイルのe-POWERには、根本的に新しい部分がある。エンジンが国内車種では初採用となる「VCターボエンジン」なのだ。



VCとは「バリアブル・コンプレッション」(可変圧縮)の略。状況に応じてエンジンの圧縮比を変化させられる、日産が初めて量産化した技術だ。通常のエンジンは圧縮比を自由に設定することはできるが、構造上、上下運動するピストンの下死点(一番下がった位置)と上死点(一番上がった位置)を変えることができないため、圧縮比は常に一定だ。

圧縮比は高いほうが爆発力が大きく効率が高い。だが高圧縮過ぎると異常燃焼が発生するほか、音や振動のコントロールが難しい。かといって低すぎると効率が低い(燃費が悪い)。このため、メーカーは特性に合わせて、車種ごとにエンジンの圧縮比を設定する。もしも圧縮比を高くしたり低くしたりできれば、高出力と低燃費の両方を追い求めることができる。


VCターボは「コネクティングロッド」というピストンを上下させるパーツにマルチリンクを仕込むことによって、圧縮比を8~14の間で変えられるようになっている。理論的には異常燃焼に悩まされることなく、音と振動も抑えつつ、高出力と低燃費を両立できることになる。夢のようなエンジンだ。熟成しきってもう伸びしろはないといわれてきた内燃機関の起死回生の一発といえる。



次期エクストレイルに試乗できた者としては、すぐにそのVCターボの良し悪しを具体的に書きたいところなのだが、もう少しだけ説明にお付き合いいただきたい。なぜなら、次期エクストレイルはVCターボが生み出すパワーそのものでは走行しないからだ。おなじみのe-POWERシステムによって、エンジンが生み出すパワーで発電し、モーターがその電力を使って駆動する。



VCターボエンジンが生み出す最高出力は106kW(142ps)、最大トルクは250Nm。フロントモーターの最高出力は150kW(204ps)、最大トルクは330Nm、リアモーターは同100kW(136ps)、同195Nmだ。新型エクストレイルは100%モーター駆動なので、走りはモーターのスペックで想像してもらったほうがいい。


エンジンが生み出すパワーよりもモーターのパワーのほうが大きくても意味がないのではないかと思われるかもしれないが、e-POWERには容量は小さいもののバッテリーがあるので、エンジンが生み出す電力+バッテリーにある電力を足し合わせることで、モーターが出せる最高出力を発揮することができるのだ。



これらのシステムを搭載したエクストレイルは、ひと言でいえば爽快だ。走らせて楽しい、積極的に走らせたくなるクルマだ。パワーは十分以上で、ゼロからの発進はもちろん、40km/hから80km/hといった中間加速まで、打てば響くかのように、踏めば遅れなく加速してくれるのが心地よい。また、その活発な加速を静かに、こともなげにこなすのが憎い。これまでのe-POWER搭載モデルのエンジンよりも大幅に出力が高い=発電量が多いため、まずエンジンがかかる頻度が少ない。またエンジンがかかっている際の回転数が低い。このふたつの理由で静かなのだ。



FWDでも力強さは十分以上なのだが、リアにもモーターが仕込まれた4WD「e-4ORCE」は実用上必要な領域を超え、楽しみのためのパワーを味わうことができる。モーターの特性によって発進と同時にそのモーターが持つ最大の力(トルク)を発揮することもあり、はっきりと速い。


さらに日産は、前後にモーターを配置したレイアウトをいかし、前後トルク配分、さらに左右のブレーキを個別にコントロールし、左右輪へのトルク配分も自在に調整することで、エクストレイルに高いコーナリング性能を与えた。ざっくりと説明すると、通常は前輪駆動で走行し、コーナーに差し掛かってドライバーがステアリングを切り始めるとトルクを後輪へ移動させ、後輪駆動状態で旋回性能を上げる。必要に応じて内輪のみにブレーキをかけることでさらに旋回性能を高める。また、通常のブレーキングでも後輪の回生ブレーキをいかしてノーズダイブを減らし、ハンドリングのみならず乗り心地まで向上させている。



パワーが上がっているにもかかわらず、燃費性能も向上している。WLTCモードの燃費は2WDが19.7km/L、4WDが18.4km/L、4WDのみで選べる3列シート車が18.3km/Lだ。



e-POWERとe-4ORCEというふたつの“e”によって、パワフルさとグッドハンドリングを手に入れた新型エクストレイル。このカテゴリーにはトヨタ自動車「RAV4」という大人気ハイブリッドモデルがあるし、マツダが直列6気筒エンジンと高級な内外装を組み合わせつつ、価格を低めに抑えた「CX-60」を投入するなど激戦区だ。それぞれに得意分野があるので、自分の用途に合ったモデルを選ぶのは簡単ではない。けれども、こういう悩みは楽しいものだ。


塩見智 しおみさとし 1972年岡山県生まれ。1995年に山陽新聞社入社後、2000年には『ベストカー』編集部へ。2004年に二玄社『NAVI』編集部員となり、2009年には同誌編集長に就任。2011年からはフリーの編集者/ライターとしてWebや自動車専門誌などに執筆している。YouTubeチャンネル「シオミサトシのソルトンTV」でも活動中。 この著者の記事一覧はこちら(塩見智)