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『ベイビー・ブローカー』出演で話題のイ・ジウン=IU “国民の妹”として支持される背景

2022年07月15日 18:01  リアルサウンド

リアルサウンド

ベイビー・ブローカー OST アルバム

 カンヌ国際映画祭で話題を集めた是枝裕和監督の最新作『ベイビー・ブローカー』が、現在公開中だ。ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ペ・ドゥナといった韓国の実力派俳優たちが勢ぞろいしたヒューマンドラマへの賛辞の声が相次ぐ中、未婚の母親役を演じたイ・ジウンにも大きな関心が寄せられている。


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 K-POPファンであれば、彼女が俳優業だけでなく、歌手=IU(アイユー)としても華々しい活動をしていることをご存じだろう。シンガーとしてのデビューは2008年。キャリアは相当なものだ。しかしながら最初から順調だったわけではなく、キュートなルックスの影響もあったのか、当時は実力の高さに注目するリスナーは少なく、今に比べて人気もそれほど高くなかったように思う。


 大きな転機が訪れたのは2010年。直前にアイドル路線にシフトしたことで知名度が上がった彼女は、同年末に発表した「Good Day」の大ヒットで本格的なシンガーとして認められる。ミュージカル風の爽やかなメロディラインを持つこの曲は、IUの確かな歌唱力を広く知らしめ、同時にオッパ(お兄さん/韓国で年上の男性に親しみを込めて呼ぶ言い方)が好きだけど告白できずにいる少女の気持ちを綴った歌詞のおかげもあり、“国民の妹”と呼ばれるようになった。


 勢いに乗ったIUは、ステップアップを目指して演技の世界にも進出。その第一歩となるのが、ペ・ヨンジュンとJ.Y. Parkが共同プロデュースした学園ドラマ『ドリームハイ』(2011年)だ。ここでの彼女は、歌の上手さで芸能高校に入学したにもかかわらず、ダイエットができなかったため入試クラスに入れられてしまう女子高生の役を演じた。振り返ってみると、同性の圧倒的な支持を獲得できたのは本作の出演がきっかけだったのかもしれない。


 以降は歌手と俳優を両立させながら、コンスタントにシングルやアルバムをリリースしていく。ここで押さえておきたいのは、オリジナルナンバーはもちろん、ドラマの挿入歌でもカバーソングでも、ヒットしなかった曲がほとんどないという点である。さらにすごいのは、いずれの曲も聴き手の記憶に残り続け、愛され続けているのだ。それはヒットチャートを眺めていてもよくわかる。


 具体的な例として、韓国の有名な音楽ランキング・GAON(ガオン)の2022年2週目のデジタルチャートを取り上げたい(※1)。この直前にIUはEP『Pieces』をリリースしており、上位には同作の収録曲すべてが入っている。驚くのはこれからで、他にも彼女が過去にリリースした曲が多数ランクインしており、その合計はトップ100位以内に12曲。1割以上がIUの関連曲だ。


 実はこのような現象は、過去にもたびたび起こっている。その理由を韓国の友人に聞いたところ、「IUに限っての話だけど、彼女の新曲を耳にするたびに、“そういえばこんな曲もあったな”と思い出すことが多いんだ。卒業シーズンではこの曲、ドラマではあんな曲がヒットしたなって。リスナーの記憶に残っている歌が多いんだよ」といった返事がすぐに返ってきた。


 浮き沈みの激しいK-POPシーンで、かなりレアなケースだと言えるだろう。アイドル的なビジュアルに加え、歌唱力はハイレベル、ドラマや映画での演技を通してさらに深みのある表現力を手に入れた彼女。だからこそ心に刻まれる曲もたくさんあるというわけだ。


 プライベートも注目すべきポイントである。今までに「恋人では?」と噂された相手は数多いものの、いずれも相手は才能豊かなタイプばかり。なかでも個性派のシンガーソングライター、チャン・ギハとの交際は、周囲を驚かせるとともに「さすがIU!」と思った人も多いだろう。


 IUはチャン・ギハに関して「学ぶところが多く、ありがたい」とコメントしている通り、実際に自身の創作活動にも多大な影響を与えていたようだ(※2)。古き良き時代の韓国ポップスをカバーした『花しおり2』(2017年)は、最もわかりやすい例である。収録曲のうち、消防車(ソバンチャ)のヒット曲「Last Night Story」での突き放したような歌い方は、チャン・ギハに似た雰囲気が感じられる。


 シンガー、俳優、私生活。すべてを完全燃焼するからこそ到達した唯一無二の表現力。それゆえに熱狂的な支持者も増えていく――。韓国の芸能人を紹介するときに、“日本の〇〇”という表現をよく目にする。その“〇〇”には日本の有名人が入るわけだが、IUの場合、当てはまる人がなかなか見つからないのが正直なところだ。『ベイビー・ブローカー』でその存在が気になった人であれば、今後も動向をチェックし続けてもらいたい。


※1:https://circlechart.kr/page_chart/onoff.circle?nationGbn=T&serviceGbn=ALL&targetTime=02&hitYear=2022&termGbn=week&yearTime=3
※2:https://news.kstyle.com/article.ksn?articleNo=2030431


(まつもとたくお)