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飛ぶように売れる電気自動車? もはや軽ではない日産「サクラ」の完成度

2022年07月13日 11:32  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
日産自動車が開発・販売する軽自動車サイズの電気自動車(EV)「サクラ」が売れている。EVが飛ぶように売れるというのは初めて目にする光景だが、公道で乗ってみると納得せざるを得ない出来栄えだった。このクルマが日産の、ひいては自動車業界のゲームチェンジャーになるかもしれない。


○2カ月足らずで1.7万台が売れたわけとは



軽自動車は国内自動車市場の約40%を占めるというから、ボリュームは相当なものだ。軽ユーザーは「狭い日本にぴったりでランニングコストが安く、気軽に使える」と軽自動車を評価している反面、「遅くてうるさくて安っぽく、長時間の運転が辛い」との不満も持っているという。



EVについては気持ちのいい加速感や静かさ、サステナビリティ、蓄電池としても使用できるなどの評価がある一方、車両価格が高く、航続距離や充電環境にまだまだ不安があるという人が多いのではないだろうか。



そんな中、軽自動車の可能性を再定義できるゲームチェンジャーとして脚光を浴びつつあるのが日産のサクラだ。


発売前に乗ったサクラのプロトタイプは、軽規格のボディを電動化することで、コンパクトな体躯ながらモーターによるパワフルでスムーズな加速性能、圧倒的に静かなキャビン、ワンペダル運転や「プロパイロット」による運転支援、自宅で気軽に充電できるバッテリー性能などを備えた魅力的な商品であり、報道陣からの評価も上々だった。そうした記事や評判を見聞きしたユーザーたちが、実車を見たり試乗したりすることなくオーダーを入れた結果、販売台数が伸びたという側面もあるようだ。5月20日の発表後、サクラの受注台数は6月半ば時点で1.1万台、6月末時点で1.7万台まで積み上がったというからなかなかすごい。

○もはや“軽”自動車とは呼ばせない!



サクラのボディサイズは全長3,395mm、全幅1,475mm、全高1,655mm、ホイールベース2,495mmで、ベース車両の「デイズ」とほぼ同じ。搭載する電動ユニットは最高出力47kW(64PS)でデイズと同じながら、最大トルクは195Nmで約2倍という圧倒的な力強さをほこる。


自由に高さが変えられるユニバーサルスタック式のバッテリーパックをフロア下のトンネルスペースに搭載したことで、室内スペースは全く犠牲になっていない。インテリアでは「モノリス」と呼ぶ7インチ+9インチの総合型インターフェイスディプレイが見やすくて美しく、上質な全面ファブリックで緩やかな棚のような形状にしたインストパネル、カッパーのカラーが効いた水平フィニッシャー、ドアトリム下の水引デザイン、センターロアボックスに施された桜の花びらの模様など、デイズとは一線を画す和モダンのデザインが目をひく。差別化はばっちりだ。


横浜市内の一般道に滑り出した印象はというと、これはもうプロトタイプで感じたよさがそのまま出ていて感心しきりだった。車内は静かだし、ちょっとした段差を乗り越える際も、ブレースを追加した高剛性ボディや専用ブッシュを装着したリアの3リンク式サスペンションが上手にショックをいなして快適そのものだ。


新設したユニットメンバーにモーターの慣性軸直上をマウントしたことにより、上下振動を最小化。強大なモータートルクがかかった際にはドライブシャフトが捻れないよう緻密に制御する、「リーフ」由来の自慢のモーターコントロールロジックにより、停止信号からのゼロ発進加速や高速道路への合流はスムーズで、ドライバーの思い通りに動く。このあたり、開発初期の試作車ではかなり「コキコキ」した動きになっていたというが、やはり長きにわたりEVのトップメーカーとしてやってきた日産のアドバンテージが、完成車にいかされている部分なのだと思う。



高速道路に乗っても印象は変わらずすばらしい。追い越し車線の速い流れにスムーズに合流できるその能力は、もう普通車と変わりなし。ワンボタンで作動するプロパイロットを働かせればロングドライブは楽ちんだけれども、軽の使い方としては遠出したり、知らない場所を走ったりすることは稀だと思うので、プロパイロットの使用頻度は少ないかもしれない。



走行パターンとしては、3つのドライブモード(Eco、Standard、Sport)と「e-Pedal Step」(停止まではできないがほぼワンペダル走行)のON/OFF、さらにシフトレバーのD/Bなど、さまざまな組み合わせを試すことができる。いざという時には、どのモードでもアクセルベタ踏みでフル加速が可能。減速度はモードではなく車速によって変わる。走行制御の緻密さもサクラらしい特徴だ。街中ではEco+ワンペダルの組み合わせが、電費と走りのバランスが取れていて使いやすいと感じた。


もっときびきびした走りを楽しみたいのならSport+ワンペダルが間違いなく面白いけれど、電費は5.9km/kWhあたりまで落ちてしまう(バッテリー電力量は20kWh)。また、エアコンONではWLTCモードで180kmの航続距離が20%近く減ってしまうようだ(画面上でチェックした数字)。



マーケティング担当者によると、サクラはホンダ「N-BOX」やダイハツ工業「タント」などのスーパーハイトワゴンからもユーザーを取り込みつつあるとのこと。さらに、あんなに販売で苦労した「リーフ」の売れ行きまでがアップしてくるなど、ちょっとビックリの“サクラ効果”が出ているそうだ。サクラが気になって見に来たけれど、自身のクルマの使い方にはマッチしないと考えたユーザーが、「それなら」ということでリーフを買うというケースが実際にあるらしい。


「ゲームチェンジが本当に起こるのでは」というのがマーケ担当の受け止めだが、ただひとつだけ、サクラのコンセプトとして掲げた「毎日の自分が“きゅん”と上がる軽の電気自動車」の「きゅん」が、想定通りにウケていないところは残念なポイントとのこと。まあこれだけ売れていれば、ひとつくらいはネガなポイントがあってもいいのではないかと思うのだが。


原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら(原アキラ)