2022年07月12日 22:31 弁護士ドットコム
安倍晋三元首相の銃撃事件に絡み、母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)にのめりこんだという宗教2世の女性が7月12日、一家離散の事実を明かした。1990年代から対策に取り組んできた紀藤正樹弁護士は「力不足を感じ、悔しい」と話した。
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この会見は、全国霊感商法対策弁護士連絡会(以下、連絡会)によるもの。ついたてを立てて、40代女性会社員が証言した。母親が旧統一教会にのめりこんだという宗教2世だ。21歳で合同結婚式で出会った韓国人男性からDVを受けるなどし、脱退した。
幼少期は、いつも父に泣かされている母が「同じ女性としてかわいそうだと思った。宗教を受け入れることが親孝行だと勘違いした」。3姉妹は離散し、母とは縁を切った。いまも身を隠す生活だ。
今回の銃撃事件を受けて、容疑者のしたことは何一つ擁護できない。ただ、統一教会によって破綻させられた境遇は共通していて、その苦しい気持ちは理解できると思った。「それだけ人生を破壊するんです」
そして、今現在も悩んでいる2世にこうメッセージを送った。「カルトの問題は触れてはいけないものととらえられている。友達にも、親にも、誰にも相談できない。これを契機に、駆け込み場所が必要だと感じます」
女性の母親は大理石の壺や印鑑を買わされていた。女性も韓国で極貧生活を経験した。渡辺博弁護士は会見で、聖本の現物を示し、「これが3000万円で買わされる。1人何冊も」と説明した。
連絡会によると、1987年以来集計してきた被害額は累計1230億円超だ。大半は旧統一教会に関するものだという。
連絡会のまとめでは、違法な勧誘や組織的な関与などを認めた民事判決はこれまで30件、脅して商品購入を迫ったなどとして摘発された刑事事件も30件ある。しかし、把握できている相談の累計3万4000件に比べれば、ほんのひとにぎりだ。
現在、係争中の事件もあるといい、これまで訴訟で出てきた記録などから、容疑者の母親が破産したとされる2002年の献金記録はあるはずだと説明する。
紀藤弁護士は「膨大な被害者群が生まれている。(刑事事件などの)暴力沙汰は今回だけじゃない。内部でも相当のトラブルがあるのを知っているはずなのに、教会側はあたかもなかったようにしている」「反省といいながら相変わらず同じことをする。過去の罪を清算しない」
2021年9月12日、同連絡会にとっての「ゆゆしき事態」だったのが、天宙平和連合(UPF)主催のWEB集会で、安倍氏の基調演説ビデオメッセージが発信されたことだ。
この日の前日の会見で、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の田中富広会長はUPFを「友好団体」と説明した。しかし、連絡会の調べでは旧統一教会の日曜礼拝でこの話題が出ていることからも、れっきとしたフロント組織だと指摘する。
連絡会は、政治家が旧統一教会やその関連組織の集会・式典などに出席したり、祝電を打ったりすることを憂慮していた。旧統一教会が社会的に承認されているという「お墨付き」として利用されるためだ。2019年には、全国会議員に対し、慎重な対応をするよう要望書を出した。
連絡会は基調演説の5日後、「公開抗議文」を送付し、安倍氏にビデオメッセージを提供した経緯について説明を求めたが、安倍氏からの返答はなかった。
旧統一教会は、安倍氏の祖父にあたる岸信介元首相が1970年代に統一教会の教祖文鮮明氏と握手している写真を掲げ、政治家との絆を強調してきた。こうしたことを利用されないよう、連絡会は政治家には団体と距離を置くように再三、忠告していた背景がある。
紀藤弁護士は「人をだまして野望を実現するという、政界や国連に食い込むコングロマリット宗教法人。世界で問題になっている」「近づいてはいけない団体。できるだけ説明してきたのに悔しい。今回の事態は起きなかったのではないか。力不足を感じる」と苦しい胸の内を明かした。
その上で「政治家の方々は、罪を清算していない団体の事実にもっと目を向けてほしい。与野党問わず、他人事ではない」と強調した。