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伊達心眼流創始者・伊達軍曹の中古車道場破り! 第15回 クルマ初心者が「中古のEV」を買うのは無謀?

2022年07月11日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
世界的な「脱炭素社会」への動きが進むなか、電気自動車(EV)に興味を持っている人も多いかと思います。新車だとまだちょっと高いEVですが、中古車であれば割と安価だったりもします。しかし、エンジン車とは勝手が異なるEVという乗り物の、しかも中古車をクルマ初心者がいきなり買っても大丈夫なのでしょうか? リアルな中古車事情に詳しい伊達軍曹さんに聞いてみました。


○中古EVは初心者向きじゃない?



過日。マイナビニュース ワーク&ライフ 車とバイク編集部のF氏より拙宅にメールが届いた。挨拶部分を除いたメールの主文は「年若の知人が中古のEVを買いたいといっているが、クルマ初心者がいきなり手を出すのは無謀でしょうか?」というものであった。



そこで私は「お久しぶりです。クルマ初心者とのことですが、“どのくらいの初心者”なのでしょうか?」との旨返信すると、F氏いわく「まったくの初心者。今年春に免許を取った新社会人です」と。



そこまでわかれば回答は出たも同然である。私は以下の旨、F氏に返信申し上げた。



「その年若の知人様にお伝えください。『中古のEVはやめ、まずはガソリン車またはハイブリッド車(HV)の中古車をお買いなさい』と」


このようなやりとりを公開すると、「この伊達という奴は中古のEVに否定的なんだな」と思われるかもしれないが、実際はそうでもない。ある条件下においては、中古のEVを買うのもまったく悪くないと思っている。



なにせEVは、自宅に充電施設があれば、電力プランの選択次第では「ガソリン代」に相当するコストを相当安く抑えることができ、電気モーターならではの力強い加速感を堪能することも可能。さらには排気ガスや騒音を近所にまき散らさないという、超モダンでスマートな乗り物でもある。



そんなステキな乗り物が、中古車であればまあまあお安く買えるのであるからして、決して悪い話ではないのだ。



だが、ガソリンや軽油のタンクではなく「駆動用バッテリー」を搭載して疾走するEVの場合、「バッテリーの経年劣化」という問題は絶対に避けて通ることができない。

○年月や走行距離を重ねるごとにリチウムイオン電池は劣化する



現代のEVは主にリチウムイオン電池を駆動用バッテリーとして使っており、これは充放電を繰り返すうちに、蓄電できる容量が徐々に減っていく。貴殿もスマホにおいて「満充電した後に使える時間がどんどん減っていく!」という現象を経験されていると思うが、あれもリチウムイオン電池の「充放電を繰り返すうちに、蓄電できる容量が徐々に減っていく」という特性ゆえの現象である。



とはいえEVのリチウムイオン電池はスマホのそれと違い、新車から1年や2年程度でいきなり激しく劣化することはない。それゆえ、新車のEVはもちろん「買ってOK」であるし、高年式中古のEVも「買ってOK」といえるだろう。



だが、そこそこ古い年式のEVだと、充放電を何度も繰り返したことでバッテリーが劣化し、「セグ欠け」という現象を起こすことになる。

例えば日産自動車「リーフ」というEVの場合、リチウムイオンバッテリー容量計の「セグメント」というブロック(目盛り)の数が最初は12個あるのだが、これの数が、時間の経過とともに1つずつ減っていく(欠けていく)のだ。これが俗に「セグ欠け」と呼ばれる現象で、要するにバッテリーの性能が新品時よりも劣化してしまったということだ。


どのくらいの年数や走行距離を重ねるとセグが1個減るのか? これはケース・バイ・ケースであるため、一概に「こうです!」とはいえない。だが、リチウムイオン電池というのは使っているうちに必ず劣化し、劣化すればSOH(State of Health)=新品時に比べて満充電でどの程度の容量があるかを示す数字も減るため、航続距離も短くなるわけだ。

○中古EVは見極めが大事! 問題は自分の生活に合うかどうか



……とはいえ、セグ欠けを起こして航続距離が短くなった中古のEVも、「クルマは子どもの送迎と買い物くらいにしか使わない」という人にとっては何の問題もない。1日に10km走るか走らないか程度の使い方しかしないのであれば、EVの満充電走行距離なんてものは100kmもあれば十分すぎるほど十分。それゆえ、激安ド中古EVでも別に構わないっちゃ構わないのである。



そして、免許取り立てのビギナーさんであっても「自分はイオンモールと西友への買い物程度にしか、クルマは使わないつもりだ」という人もいらっしゃるだろう。だから、セグ欠けが発生している中古のEVでも大丈夫なはず――と。



そうなのかもしれない。だが、そうではないかもしれない。



要するに、クルマビギナーのうちは「クルマとの付き合い方」がまだ確立されていないため、この先どうなるかが誰にもわからない――ということだ。



最初のうちはイオンモールと西友にしか行くつもりがなく、実際そんな感じで半年を過ごしたのだが、7カ月目にいきなりサーフィンに開眼し、週末のたびに自宅から80km離れた場所にある海まで通いたくなる――なんて未来が訪れない保証はどこにもない。



そしてそういった「海へ行く未来」が訪れた場合は、新車や高年式中古のEVであれば特に問題ないのだが、バッテリーが劣化しているド中古EVだと、電欠(エンジン車でいうガス欠)などのめんどくさい事態が起きる可能性にヒヤヒヤすることになる。


「……だから、自分とクルマとのおおむねの付き合い方、要するに“スタイル”みたいなものがある程度確立されるまでは、オーソドックスなエンジン車またはハイブリッド車に乗っていろ――ということですね?」



メールで返信した内容を読んだマイナビニュースF氏が、そう問う。そして私は答える。「イエス、そのとおりである」と。



自分がクルマというものを日々、どう使うか――というスタイルがある程度見えてきた後、もしもそのスタイルに「EV」が合うのであれば、中古のEVを買うのもぜんぜんアリだ。



だが、スタイルが見えていないうちに中古のEVを買ってしまうのは――「危険」とまでの大げさなことをいうつもりはないが、あまりおすすめはできないのである。



伊達軍曹 だてぐんそう 1967年東京都出身。外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、大手自動車メディア多数に記事を寄稿している。中古車選びの流派「伊達心眼流」の創始者(自称)。 この著者の記事一覧はこちら(伊達軍曹)