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自衛隊のYoutube動画を比較してみた リクルーティングにつなげる広報戦略

2022年07月10日 09:31  弁護士ドットコム

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防衛省・自衛隊は日々広報活動を行っています。SNSや動画サイトが発達している現在、広報担当者は、動画も含めて、いろいろな方法で国民の認知度を高めようとしています。


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今回、自衛隊のCMに焦点を当て、どういうCMを流しているのか、どうしてCMを流しているのかについて説明します。(ライター・加藤博章)



●真面目系から、有名声優を起用したものまで

自衛隊のCMをご覧になったことのある人も多いと思います。まずは、これまでにどのようなCMを制作してきたのかを特徴的なものから紹介していきます。



真面目に紹介:自衛官採用CM「国家を守る、公務員(MIX)」篇
https://youtube.owacon.moe/watch?v=Jtxwcm_YCCo





2019(平成31)年制作のCMです。自衛官のオフの日常風景から、勤務中の様子を紹介しています。自衛官というと、特別な存在のように見えますが、等身大の姿を表現しています。



緩く紹介系:令和元年度 自衛官広報動画「自衛隊の ソレ、誤解ですから!」篇 Vol.1
https://youtube.owacon.moe/watch?v=Tm-joGLGRZ0





2019(平成31)年制作のCMです。普通の人にとって、自衛隊はまだまだ謎の存在です。自衛隊に対する誤解を隊員が答える形で進んでいきます。隊員のありのままの姿をさらけ出すことで、自衛官とはどういう人達なのかを紹介しています。



有名声優起用:【海自リクルートムービー】海上自衛官の可能性 篇(下野紘ver.)
https://youtube.owacon.moe/watch?v=LK1EXyEXeS0





官公庁や企業では、有名人を起用することが良くあります。それは自衛隊であっても、同じです。このCMは2021(令和3)年制作で、ナレーションには人気アニメ『鬼滅の刃』で我妻善逸役を務めた声優の下野紘さんを起用しました。



陸上自衛隊CM 「守りたい人がいる」 3分 Ver.
https://youtube.owacon.moe/watch?v=qXTmPdjaxfU





各自衛隊は広報活動に力を入れています。陸・海・空、それぞれの自衛隊の個性が見て取れます。このCMは2010(平成22)年に陸上自衛隊が制作したもので、陸上自衛隊の活動と現在の課題を紹介しています。



面白系:【なつかCM】カイジョージエイタイ
https://youtube.owacon.moe/watch?v=EYrsc_SESCk





2006(平成18)年に海上自衛隊が制作したCMです。若者や子供の興味を引くように制作したと言われており、戦隊ものでインパクトの強い映像が当時は大変話題になりました。



航空自衛隊CF (2009年) 女性Ver.
https://youtube.owacon.moe/watch?v=PiUNvJwLh6Y





2009(平成21)年に制作されたCMです。女性版と男性版があり、格納庫内で自衛官の私服と制服姿を繰り返していきます。このCMは、トレインチャンネルでも流されていました。山手線などで見たことがあるという方もいるのではないでしょうか。



●認知を高め、募集につなげる

ここまで自衛隊のさまざまなCMを紹介してきました。そもそも、自衛隊の広報とはどういうものなのでしょうか。防衛省が編集協力している雑誌『MAMOR』が広報について特集した記事では、自衛隊の広報について、「一般広報」と「募集広報」とに分類しています。



「一般広報」とは、国民や海外の人々に、防衛省・自衛隊の活動を知ってもらい、理解してもらうためのものです。



「募集広報」とは、人材を確保するために行います。今回紹介しているようなCM制作、そして発信を自主的広報活動と言います。文字通り、自衛隊が発信する形での広報活動です。



先程2019年に制作されたCM(「国家を守る、公務員(MIX)」「自衛隊の ソレ、誤解ですから!」)を2本紹介しましたが、これらは等身大の自衛官の姿を映し出そうとしています。自衛隊の活動は、ニュースで見るようなものばかりではありません。日々、訓練を重ねると同時に、普通のお役所のように書類仕事もしなくてはなりません。



スーパーヒーローのようにただ、防衛をしているという訳ではないのです。報道されるのは自衛隊のほんの一部です。自衛隊の活動について、知っている、興味を持っているという人と現実とのギャップを埋めようとしています。



そして、応募につなげるという点も重要です。少子化によって、自衛官の応募人数は減少しています。2019(平成31)年には、身体検査の合格基準を変更しました。身長の合格基準を男子155cm以上、女子150cm以上から140cm以上に変更し、胸囲や肺活量についての基準を廃止、視力の合格基準も変更しています。これは少子化によって、自衛官の確保が困難となっているのを踏まえた措置です。



●認知度が高まる一方、広報には厳しい視線も

これらの広報は効果を発揮しているのでしょうか。各種調査を見ると、他の機関と比べて、自衛隊の活動についての認知は高まっています。2017(平成29)年に内閣府が実施した世論調査では、自衛隊に「関心がある」と答えた人は、「非常に関心がある」(14.9%)と「ある程度関心がある」(52.9%)を足して67.8%となっています。



一方、自衛隊に対する印象については、「良い印象を持っている」と答えた人は89.8%となっています。「良い印象を持っている」(36.7%)と「どちらかといえば良い印象を持っている」(53.0%)を足した数字です。そして、中央調査社が行った信頼感に関する意識調査では、「医療機関」についで、2番目に高い数値となっています。



自衛隊に対する認知度は高いわけですが、これは昔からという訳ではありません。アジア・太平洋戦争の終結後、日本では軍隊に対する反感がありました。自衛隊は旧軍のような軍隊ではないことを示す必要がありました。その中で、自衛隊は地道な努力を積み重ねてきた訳です。一方で、災害派遣など、自衛隊の活動が国民の目に触れる機会も多くなってきました。広報だけでなく、自衛隊の活動への認知が高まってきたのです。



自衛隊の活動については厳しい目も向けられています。広報についても同様です。2019年にはアニメとタイアップした自衛官募集ポスターがセクハラという批判を受け、炎上しました。芸能人の起用についても批判を浴びせる人々もいます。



良くも悪くも自衛隊は政治問題化しやすい、言い換えれば注目を浴びやすい組織です。広報のような目につきやすいものは批判を受けやすいといえるでしょう。



<参考文献>



一般社団法人中央調査社「『議員、官僚、大企業、警察等の信頼感』調査(調査結果の概要)」
「SNSフル活用!これが令和の国防PR大作戦#自衛隊を広報したい」『MAMOR』第171号(2021年5月)。
内閣府「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」
半田滋「自衛官募集CMにAKB48の島崎遥香-旧日本軍化する自衛隊が苦心する若者の呼び込み」『週刊金曜日』第22巻第28号(2014年7月)。
防衛省「自衛官等の募集状況」