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歌手Chara、「平和を、愛を、音楽で伝えたい」 - 音楽と未来と投票がテーマのステージ「WE WANT OUR FUTURE」開催

2022年07月08日 22:21  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
第26回参議院議員選通常選挙の投開票が7月10日に迫った8日、「音楽と未来と投票と」をテーマにしたライブイベント「WE WANT OUR FUTURE」が下北沢の「アドリフト」で開催され、Charaをはじめ様々なアーティストがステージを披露した。


折しも、奈良市内では安倍晋三元首相が銃撃を受け、死亡のニュースが流れた。バックステージではメンバーがそれぞれに「どうしていいかわからない」と共有しあっていた。「大切なのは、感情を感情のまま受け止めることじゃないか」そんな声が聞かれた。



「WE WANT OUR FUTURE」は、歌手、俳優、映像監督などアーティストたちが集まって各々表現し、政治について考え、発信する集会で、10日の選挙投票への参加がメインメッセージだ。


オープニングステージでは、サプライズでUAによる歌とメッセージの映像が公開された。その後、Gotch、沙羅マリーなどが音楽ステージを披露し、映像監督の関根光才、モデルで女優のTAO などがトークセッションに登壇した。



Charaの登場でステージはヒートアップ。「一緒に出てよ」とアドリブで誘ったGotchとのかけあいに、益々盛り上がる熱気の中、セッションで「やさしい気持ち」とソロでの「Tiny Tiny Tiny」が披露された。熱量と、どこか優しい空気の中で、Charaは「みんな平和が好き」と伝えた。

○それでも発信し続けるアーティストたち



2020年、記憶に残っている人も多いであろう、検察庁法改正案をめぐっては、「芸能人の政治発言」に避難が集まり、物議をかもした。きゃりーぱみゅぱみゅや、小泉今日子が改正案反対を発信したところ、「芸能人が政治について話すべきではない」として批判が集まり、政治の議論を逸脱したところでも攻撃される事態となった。


日本人が芸能人に求める「理想像」に、「政治の観点」はなく、「許せない」という心情のようだ。炎上する市井に、アーティストを支える企業スポンサーも及び腰になるため、所属事務所、広告代理店なども自然、「芸能人は政治発言をすべきではない」と認識を強くしてきた。



そうした中で、今回の参加メンバーでもある映像作家の関根光才らが主催する「VOICE PROJECT」は業界でも大きなインパクトを与えた。「投票はあなたの声」と題されたウェブサイトに、人気俳優やミュージシャンが、一人ずつ選挙や政治に対する「自分の意見」を話す動画集だ。



「WE WANT OUR FUTURE」もしかり、この「VOICE PROJECT」も、営利目的の事業では、コスト面のみならず、企業の方針とコンセプトが合致するかなどあらゆる観点で簡単には集められない、眩しいほどの豪華な顔ぶれだ。それも今回は有志で集まっているという。彼らを動かしているもの、それは「現状への違和感」「今、対話が必要」という「思い」だという。



関根は、「投票率が50%ならば、選挙に無関心な人が日本の人口の半分いるということ。投票したからと言って自分の思う様にならないかもしれないといっても、意志表示すること、反対投票に入れるという意思表示があるとないとでは全く違う。やり方は企業の宣伝と変わらないけど、これまで出来なかったこと、アンタッチャブルな政治の話しにタッチすることで何かかわるんじゃないかと思ったんです」と語る。



「投票すること」に焦点を当てているのは、コミュニケーションの妙だ。テーマをもって議論しようとすると、また「炎上」騒ぎになりかねない。「元々投票率の低さに危機感を覚えていたこともありますが、フラットに話し合えるような場、テーマ設定が必要だと」。



何よりも重要視するのは「対話」だ。「東日本大震災や原発の問題で、知らないうちに自分がとんでもないことに加担している恐れを抱きました。どうしようかと考えたときに、“陰謀論” などに発展すると話しあえないし、“対話” できる人、環境をつくっていきたいんです」。

○「対話できる」社会を目指して



トップモデルとして名だたる海外ブランドと仕事をし、女優としても活躍しているTAOは、自身がアメリカで経験した「対話をする」ための方法を教えてくれた。

「私がアメリカに渡ったあと、女優として活動を始めると、政治や社会問題のようなシリアスな話しについての“意見” を求められるようになりました。エージェントがサポートしてくれることもあって、やってみることにしました。それ以前は機会がなかったので、はじめはなかなか上手く対応できなかったけど、“何か自分にも伝えたい想いがあるはず”だと思ったんです」。



英語を学びなおし、「自分の意見を述べる」ことを積極的にするようになった。



「まずは、安全な場所で話してみることにしました。理解が違ったり、間違った言葉選びをしても、相手も自分も傷つけないような人たちとの場を選んだんです」



対話が出来れば、そのうちしっかりとディベート(議論)できるようになってくるが、そこで思うところもあった。



「主張が強くなりすぎたりすることもありました。特にコロナ渦では友人と喧嘩したり。それでも分かり合うこと、すり合わせていく努力をしていきたい。生活につながる政治を無視することはできないです。日本社会でも “投票率をあげること” から始まって少しずつ“議論”できる場になっていってほしい。『VOICE PROJECT』や『WE WANT OUR FUTURE』で、アーティストたちが “今らしい” “スタイルのある” 政治発信をしてくれている。日本の人たちにも何か伝わるものがあれば嬉しいです 」。


古着屋や飲食店を営むDEPT Companyの代表であり、活動家で、「WE WANT OUR FUTURE」主催者の一人であるeri は、「目立つ人がしっかり話せるようにならないといけない」と話す。



ファッションアイコンとして人気のある彼女は、「学生時代から政治に対する考えがあった」といい、確率された論理や政治観は豊富な交友関係に伝播して共感を呼び、「今らしい」政治活動の渦が広がりつつある。



「今の政治の議論は本当に骨が折れます。今回は“みんなで何か楽しいこと”をしたかった。“楽しさ”がみんなの意識に変わっていけばと。選挙投票率が低いのは、政治を“自分ごととしてとらえるテーマ”がないからなんだと思っています。この課題感は以前からあって、『みんなの未来を選ぶためのチェックリスト』に取り組むきっかけにもなりました」



有名人もさることながら、日本では一般人が普段の会話においても「政治観」を話すことに慎重になりがちな場面も多い。個人的な意見を求めない習慣をはじめ、原因の議論は尽きることがない。



「会話するハードルを下げられるかどうか、ずっと考えてきていることです。“自分が生きる社会を自分たちでつくる、望むことを実現する” ために、今目の前に広がっている現状を解像度をあげてみることが出来れば変わるんじゃないかとも思います。“表現すること”の軸を支えるのは個人の根底にある“主張”と繋がっている。日常生活でも“表現”していない人はいません。アーティストの発信に触れて、みんなが意見する、対話するためのヒントになればと思います」。

○スポンサー企業はどう向き合うべきか



アーティストたちの「政治発言」引いては、「表現の自由」を担保する上で、スポンサー企業の占める役割は大きい。



日本のテレビドラマや映画の主演などの大役は、制作に必要な費用が集めやすくなるため、スポンサー企業が多ければ多いアーティストほど抜擢されるシステムとなっているからだ。



企業をとりまく環境としては、目下、足元でSDGs、社会問題へのコミットが迫られている。こうした政治発言も含めた社会問題に対する積極的な活動を行う彼らのようなパートナーは頼もしい、となってしかるべきだ。



しかし、筆者の専門とするレピュテーションリスクの観点でも、現場では手放しに前向きには捉えにくい。世論のサポートがあってこそ、炎上のリスクが排除できてこそ、一歩踏み出せる、というのが日本の企業評価の現状だからだ。



欧米では、政治発言でバッシングを受けたスポーツ選手を擁護するような主張をする企業もあり、SDGsに根差したマーケティングも多様化しつつあるが、日本ではまだ理解のある小規模事業者などが取り組む「エッジのきいた発信」にとどまっている。



SDGs 投資に詳しい投資家では「今の日本企業の姿勢では、海外の投資家から見放される」という人もいる。一般市民としても、組織に携わる人間としても、今回の選挙をきっかけに「対話」することから初めてみてはどうだろうか。(友廣里緒)