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もっとすごすぎる天気の図鑑 第6回 【知ってる?】「ゲリラ豪雨」と何が違う? 豪雨災害を起こす「線状降水帯」のヤバさと防災対策

2022年07月08日 16:31  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
毎年、梅雨前線や「ゲリラ豪雨」、台風などによる水害の話題をニュースやSNSでよく見聞きします。そして今年6月からは、大雨をもたらす「線状降水帯」の予測情報の発表も始まりました。



「これまで大丈夫だったから自分は関係ない」と思う方もいるかもしれません。しかし「ここ10年で水害が起きている市区町村は約98%という統計もあるんです」と"雲研究者"の荒木健太郎先生は語ります。



万が一に備え、どんな情報をチェックしておけばよいのでしょうか。27万部突破のベストセラー『すごすぎる天気の図鑑』第2弾、累計34万部(電子書籍含む)の人気シリーズ新作『もっとすごすぎる天気の図鑑』(KADOKAWA刊)の著者であり、SNSで天気や災害に関する情報をわかりやすく発信している荒木先生にお話を伺いました。


お話を聞いた方:荒木健太郎先生

雲研究者、気象庁気象研究所研究官、博士(学術)。専門は雲科学・気象学。防災・減災のために、災害をもたらす雲のしくみの研究に取り組んでいる。

映画『天気の子』気象監修。『情熱大陸』など出演多数。主な著書に『すごすぎる天気の図鑑』『もっとすごすぎる天気の図鑑』(KADOKAWA刊)ほか。

SNS:Twitter(@arakencloud)、Instagram(@arakencloud)


記録的な大雨や台風、増えている原因は?



――毎年のように「記録的大雨」「猛烈な台風」といったニュースを見聞きする機会が増えたように思います。実際のところ、大雨の回数は増えているんでしょうか?



こちらのグラフを見てください。以下の図は最近40年間の「猛烈な雨(1時間に降水量が80mm以上の雨)の年間発生回数の変化」を表したものです。年ごとの変動はありますが、右肩上がりに増える傾向にあります。


――猛烈な雨は、なぜ増えているのでしょうか?



地球温暖化の影響の可能性があります。温暖化で気温が上がると、大気中に含まれる水蒸気の量も多くなります。水蒸気は雨を降らせる雲のもととなり、猛烈な雨に繋がるといわれています。



また雨だけでなく東京に接近する台風の数も増えていることが分かってきました。下の図は、1980~1999年と2000~2019年の間で台風が接近した数を比較したグラフですが、東京など太平洋側の地域に接近する台風の数は約1.5倍に増えています。それだけでなく、台風の移動速度も遅くなっています。


――台風の移動速度が遅くなるとどんな影響があるのですか?



移動速度が遅いと台風が同じような地域に長時間影響を及ぼすことになりますよね。すると、台風の影響を受ける場所では雨が降る時間が長くなって総雨量が増えるだけでなく、暴風が吹く時間も長くなり被害が拡大する恐れがあります。



――大きさや強さが大したことのない台風であっても、移動速度にも注意しないといけないのですね。

最近よく聞く「線状降水帯」、「ゲリラ豪雨」とどう違う?



――最近、集中豪雨のニュースで「線状降水帯」という言葉も目にします。強い雨といえば「ゲリラ豪雨」を思い浮かべますが、「ゲリラ豪雨」とは違う現象なのでしょうか?



「線状降水帯」は「ゲリラ豪雨」をもたらす「積乱雲」が連なることで形成されます。まず積乱雲を見てみましょう。ひとつの積乱雲は30分~1時間程度と寿命が短く、降らせる雨も数十ミリ程度です。


次に、こちらが「線状降水帯」のしくみを表した図です。積乱雲が風上側で次々と発生し、連なるような形になっていますね。


線状降水帯は、次々と発達する積乱雲が同じような地域を通過することでできる線状の雨域や雨雲のまとまりのことで、狭い範囲で強い雨が長時間にわたって降り続き、雨量が100mm~数百mmに及ぶ「集中豪雨」をもたらすことがあります。そのため線状降水帯は大きな災害をもたらす危険性があるんです。



――「ゲリラ豪雨」がずっと続くイメージですね。大雨が降りそうなら先に知っておきたいですが、線状降水帯も台風のように予測できるんですか?



今の技術では、線状降水帯の正確な予測はまだ難しい状況です。梅雨前線や台風のような大きな規模の現象はある程度予測できますが、線状降水帯は幅数十キロ・長さ数百キロ程度とスケールが小さいため予測しづらい。また発生のメカニズムも十分には解明されていません。


そんな予測の難しい線状降水帯ですが、今年の6月からは予測精度の向上に向けた取り組みも始まっています。取り組みのひとつが、線状降水帯のメカニズムを研究解明するための高密度な集中観測です。気象庁の気象研究所を中心に大学など14機関と連携して行います。



――具体的にはどんな取り組みをするのでしょうか?



九州を中心とした西日本に、雲や空が発する弱い電磁波を受信する「地上マイクロ波放射計」を設置し、空の高さごとに大気中の水蒸気や気温を測ります。これまでは12時間に1回観測する気球(ラジオゾンデ)が主でしたが、地上マイクロ放射計を導入したことで数秒から数分に1回と超高頻度な時間間隔で観測できるようになりました。


線状降水帯や積乱雲が発生する直前の大気がどうなっているかを解明すれば、「ここで大雨が降りそうだ」と正確な予測が実現できるかもしれません。



――事前にわかっていれば、早めに避難したり備えられますね!



この6月からは、線状降水帯による大雨の可能性がある程度高い場合、半日~6時間前から地方単位での呼びかけも始まりますよ。



また予測するエリアは今のところ地方単位ですが、2024年からは県単位で半日前の予測、2029年からは市町村単位で危険度の把握ができる情報を半日前に発信する予定です。


――市町村単位で予測できるようになるなんて、かなり細かいですね。



線状降水帯の場合、少し場所がずれるだけでも雨の量が大きく変わるんです。ある場所は大雨なのに、隣町はそうでないことも。そのため線状降水帯や大雨に関する情報を見聞きしたときは、自分のいる地域だけでなく周辺の情報もあわせて注意して備えてください。

ここ10年で水害が起こった市区町村の割合は「98%」



――水害は怖いです。でもこれまで被害のなかった場所に住んでいると、大雨が予想されてもまあ大丈夫だろう、避難するのは大げさかなと思ってしまいます。



経験がないと「自分には関係がない」と思いがちですが、実はここ10年で水害が起きている市区町村は約98%、という統計があるんです。

――日本には1741の市区町村(2019年時点)がありますが、1回も災害がなかったのはたった41市区町村だけなんですね。今住んでいる市区町村も、調べたら災害が発生してるかも……。



毎年のように大雨が降る地域とそうでない地域とでは、同じ雨量でもその雨がもたらす災害の危険度は全然違います。梅雨前線の停滞や台風によって大雨になる場合など、水害の発生する可能性は全国どこにでもあります。



2018年6月28日~7月8日に発生した「平成30年7月豪雨(西日本豪雨)」が起きる少し前、岡山県倉敷市で講演を行う機会がありました。「このあたりは水害は起きるんですか?」と参加した方に聞くと、全然ないよ、穏やかな気候ですよと言われていたんです。しかしその後、同市内の真備町で大水害が発生しました。普段起こらないような現象だからこそ、その影響が大きくなってしまうこともあります。



――「これまで大丈夫だったから」と思わないほうがよいですね。



そうですね。テレビの向こう側で起こっている水害が自分事になる可能性は十分あります。災害が起きたらどうするか、避難のシミュレーションをして備えてください。



――平時に避難の方法を考えるなら、どんな情報をチェックすればよいですか?



確認しておきたい避難の判断材料のひとつが「ハザードマップ」です。同じ市区町村のなかでも、災害が起こりやすい場所とそうでない場所や、起こり得る災害が異なる場合があります。国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」などで自分の地域の災害リスクを知っておきましょう。



――避難所の場所も確認しておきたいですね。



自治体の指定避難所を確認しておくことはもちろんですが、自宅に水害のリスクが無く、停電や断水しても十分な備蓄ある場合などには、「在宅避難」という手段もあります。


大規模な水害時には、2階以上の部屋へ避難する「垂直避難」をしても周囲が浸水して身動きが取れない状況になる可能性もあります。逃げられなくなる前に、ホテルや親せきの家など、水害リスクのない場所へ「水平避難」することも重要です。



ほかにもご家族の健康状況など、人によって避難する際に注意したい条件は異なります。そのためあらかじめ大雨になる前に「自分や家族に合った避難方法」を話し合って、決めておきましょう。



避難は敷居が高いし大げさに思われがちで、なかなか行動に移しづらいかもしれません。でも被災してからだと手遅れになってしまいます。「避難したけど何も起きなくてよかったね」と家族や近所の人と言い合えるくらいの気軽な気持ちで避難してほしいですね。



――事前に考えておけば、避難のハードルも下がりそうですね。災害のニュースを見かけた時、この情報が出たら本当に注意してほしいという目安はありますか?



気象庁と国土交通省が記者会見を開いた時は「マジでヤバい」と思ってください。そういった情報を見聞きしたときはいつもよりも気を引き締めて、自分のいる場所がどうなりそうか、しっかり情報を追いかけましょう。


また大雨による危険度が高まってくると、気象庁は国土交通省または都道府県の機関と共同して河川の洪水予報(指定河川洪水予報)をしたり、都道府県と共同で土砂災害警戒情報を発表します。さらに、警報の基準をはるかに超える現象に対して気象庁では「特別警報」を発表しますが、発表した時点ではすでに避難そのものが困難になっている場合もあります。



基本は自治体からの避難情報に従って避難を行ってください。でも気象情報をチェックしておけば、早め早めに行動することもできます。



――最新の気象情報を知るなら、SNSを見るのが早いでしょうか?



気象情報は気象庁のWebサイトを見るのが確実です。ほかにもNHKの公式サイトでも最新の災害情報を発信していますよ。

ラピュタも鬼滅の刃も、天気を知ったら見方が変わるかも!?



――今回伺ったお話は、今年4月に発売された書籍『もっとすごすぎる天気の図鑑』(KADOKAWA刊)で紹介されています。書籍を作るにあたってこだわったポイントはありますか?



防災のことを常にずっと考えて、肩に力を入れ続けることは難しいですよね。普段から空を眺めたり気象情報を見たりしておくと、楽しみながら身を守れます。その地域だけで見られる雲や雨もありますし、地元でどんな気象があるのか調べてみたりしつつ、ついでにハザードマップも見たりすると楽しみながら防災の対策ができるのかなと考えています。


この本では、低気圧や雲の巻き方といった小学校や中学校で習う気象学の基礎の復習から、最新の情報まで楽しみながら読めるようにしました。なかには気象予報士レベルの内容もありますが、前作から小学生の雲友(くもとも)さんもグイグイ読んでくれるので専門的な話題も分かりやすく書きました。前作『すごすぎる天気の図鑑』の読者の方からもらった意見を受けて「空の虹色判別フローチャート」なども盛り込んでいます。



――理科の授業で習ったな~! という内容もありますが、「アニメやマンガで使われる『かっこいい天気の言葉』」といったちょっと意外なページもありますね。



『天空の城ラピュタ』に登場する大きな雲"竜の巣"や、『鬼滅の刃』の技名など、アニメやマンガには雲や天気の言葉が登場することもあります。なんとなくカッコイイ技名の気象学的な意味を知って科学的な観点から考察できると、また違った角度から物語を楽しめると思いますよ。鬼滅ファンの方にはぜひ読んで欲しいです(笑)。


――雲研究者である荒木先生は『すごすぎる天気の図鑑』シリーズをはじめ、TwitterやInstagramで美しい雲の写真を投稿するなど、雲や天気が身近に感じるような取り組みもされています。


彩雲。巻積雲の一部分にズームしたものです。青い色がにじんでいて好き。 #天気の図鑑 アプリ #くもコレ より pic.twitter.com/w1UAPe9BrS— 荒木健太郎 (@arakencloud) May 15, 2022

色々な切り口で情報を発信して、雲や天気のことに興味を持ってほしいという思いがあります。最近ではYouTube「荒木健太郎の雲研究室」に「ペットボトルですぐできる雲のつくり方」といった実験の動画なども発信しています。


私は防災・減災のために災害をもたらす雲の仕組みの研究を行って、防災気象状況を発信していますが、情報は使われないと意味がありません。まずは雲や空をいろんな角度で楽しんで、興味を持ってもらいたいですね。


この6月から線状降水帯の予測も発表されるようになり、ニュースでこの言葉を見聞きする機会が増えそうです。普段は美しい雲や空の様子を楽しみつつ、もしもの時に自分や家族がどう行動するか備えておきたいものです。

○『もっとすごすぎる天気の図鑑』(KADOKAWA刊)


著者:荒木健太郎、定価:1,375円(電子版もあり)

知れば空を見上げるのがもっともっと楽しくなる! 27万部突破のベストセラー『すごすぎる天気の図鑑』がも~っと詳しく、さらに濃くなった第2弾!

おもしろくてためになる、天気にまつわる知識を、今回も図解やイラスト、写真をふんだんにつかって詳しくご紹介します。とっておきのネタを教えてくれるのは、日本でいちばん有名な気象学者・雲研究者の荒木健太郎氏。雲・空・気象・天気に「季節」の章も加えて、子どもから大人まで楽しめる内容です。「雲の中に入るとどうなる?」「世界一簡単な彩雲の探し方」「カラフルな雪がある」「氷点下50℃以下で聞こえる星のささやき」など、誰かに話したくなる、71のトリビアが満載!



公式サイト:『すごすぎる天気の図鑑』(羽村よりこ)